4.0
いつしか誘導されている世界観
展示全体の、雰囲気が、とても作家性・作品のイメージにあっていました。
全体的に暗めな展示室内、別の作品から漏れ聞こえてくる音、そして、目の前にある作品。それらが、まさに作家性として、1つ1つの作品に、あうようになかたちでこちらの身体が慣らされていくようで、そのような身体で、実写とアニメの溶けこんだ動画を見ていく体験は、しずかな眩暈に誘われるようで、独特の体験となりました。
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佐藤雅晴(さとうまさはる)は、ビデオカメラやスチルカメラで撮影した日常の風景をパソコン上でペンツールを用い、なぞるようにトレースしてアニメーション化する、「ロトスコープ」と呼ばれる技術によって映像作品を制作してきました。
東京藝術大学大学院美術学科絵画専攻修了後、ドイツに渡り、国立デュッセルドルフ・クンストアカデミーに研究生として在籍したのちドイツを拠点に活動、2010年に帰国し茨城県取手市に居を構えます。その直後に上顎癌が発覚、以後、闘病生活を送りながら制作に励んでいましたが、2019年3月、惜しまれつつも45歳で他界しました。
彼の作品は、現代美術、映画、アニメ、メディア・アートの表現領域を越え、国内外で高い評価を得てきました。佐藤自らが撮影した身近な人々や身の回りの風景を忠実にトレースすることによって生み出される佐藤の作品には、現実と非現実が交錯する独自の世界観が描かれています。
生前、佐藤はトレースという行為について、描く対象を「自分の中に取り込む」ことだと語っていました。それは、自身の暮らす土地や目の前の光景への理解を深め、関係を結ぶ行為ととらえることもできます。一方、佐藤の作品を見る私たちは、実写とのわずかな差異から生じる違和感や、現実と非現実を行き来するような知覚のゆらぎをおぼえます。人それぞれに多様な感情や感覚を呼び起こす佐藤の作品は、見ることの奥深さと豊かさを与えてくれるものといえるでしょう。
本展では、1999年に渡独し初めて制作した映像作品《I touch Dream #1》から、死の直前まで描き続けた「死神先生」シリーズまで、映像作品26点、平面作品36点の計62点を通じ、佐藤の画業を振り返ります。
【FEATURE|展覧会レポート】
「映像をアニメでトレースする― 現実と虚構が交差するアート」水戸芸術館「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」展 展覧会レポート
会期 | 2021年11月13日(土)~2022年1月30日(日) |
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会場 | 水戸芸術館 現代美術ギャラリー Google Map |
住所 | 茨城県水戸市五軒町1-6-8 |
時間 |
10:00~18:00
(最終入場時間 17:30)
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休館日 |
月曜日 年末年始 12月27日(月)~2022年1月3日(月) 1月11日(火) ※ただし1月10日(月・祝)は開館 |
観覧料 | 一般 900円 団体(20名以上)700円 高校生以下 70歳以上 障害者手帳などをお持ちの方と付き添いの方1名は無料
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TEL | 029-227-8111 |
URL | https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5144.html |
4.0
展示全体の、雰囲気が、とても作家性・作品のイメージにあっていました。
全体的に暗めな展示室内、別の作品から漏れ聞こえてくる音、そして、目の前にある作品。それらが、まさに作家性として、1つ1つの作品に、あうようになかたちでこちらの身体が慣らされていくようで、そのような身体で、実写とアニメの溶けこんだ動画を見ていく体験は、しずかな眩暈に誘われるようで、独特の体験となりました。
5.0
映像を中心に制作された佐藤雅晴さんの全作品を展示したこの展覧会では、会場で見るからこその様々な工夫がされています。
音響はもちろんのこと、配置にも目を凝らしてみると今回の展示の面白さが見えてくるのではないでしょうか。
ボランティアグループの皆さんが制作されたおみくじも楽しめました。
5.0
つくづく、やっぱり佐藤雅晴はいい‼という思いがつのりました。
特に《東京尾行》。ドビュッシー《月の光》のピアノの無人自動演奏がBGMになっていることもあるのだと思いますが、こんなにも切ないインスタレーションがあるのかと。佐藤雅晴の作品には初期から、物悲しい通奏低音がただよっています。2019年3月に45歳で早世されているのですが、この寂寥感はどうしてもそのことと結びついてしまいます。
佐藤雅晴の作品を初めて意識的に見たのは(原美術館の2016年の《東京尾行》は見逃していたので)遅まきながら2020年1月の国立新美術館の《福島尾行》でした。福島の風景の実写映像のごく一部分だけをトレースでアニメーション化した作品です。同時に、初期作《I touch Dream#1》にも深い感慨を持ちました(今回、この作品はウイリアム・ケントリッジのドローイングアニメの作品(これも好きです)に影響を受けたことも知り納得しました)。
今回は、彼の回顧展になっており、両作品を含む代表作のほとんどが一挙に見られました。そのなかで細かなレトリックにも気づきました。《バインド・ドライブ》は、悪魔の男と天使の女のドライブなのですが、天使は妊娠しており(これから心中するのではと思わせます)、車のラジカセがリピートに表示されています。《カップル》は喫茶店の男女ですがガラスに映ったふたりの位置が入れ替わっています。《雪やコーヒー》は雪と角砂糖の白から黒への変化がシンクロしています。
デジタル写真を丁寧にレタッチしたフォトデジタルペインティングの技法による作品群は以前から図版では見た記憶がありますが、実物は今回が初見でした。これらも動画やアニメーションの作品同様、作家 佐藤雅晴がコツコツと膨大な時間をかけ、丁寧に制作したであろうことが容易に想像できるものでした。一点一点ゆっくりと時間をかけ制作した彼は、人生をあまりに急ぎ過ぎたと思えてならなりません。
2021年7月に六本木の蔦屋書店で展示されていた「Hands」シリーズや、ヨコハマトリエンナーレ2020に出品された最晩年の「死神先生」シリーズもありました。
水戸は東京からは少し遠いですが、来た甲斐がありました。カタログも買いました。撮影可なのもとてもうれしいです。
3.0
映像作品、わりと尺のある作品でも必ずしも椅子がある訳でもないため、なかなかしんどいかもしれません。展示室以外にも点在しています。見逃さないようにお気をつけください。もしかすると、大規模回顧展は最後の可能性があります。行った方が良い展覧会です。
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