泉屋博古館の名宝 ― 住友春翠の愛でた祈りの造形―
奈良国立博物館|奈良県
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春翠さんの美意識と審美眼
奈良博の夏休み期間中の特別陳列に泉屋博古館の青銅器と仏教美術が登場です。
京都東山の鹿ケ谷と東京・六本木にかつて別邸があった地に泉屋博古館があります。
東京の泉屋博古館がリニューアルして以来、アートアジェンダに掲載される感想も総じて評価が高いものばかりです。京都の泉屋博古館は、現在50年ぶりの大規模改修中で、来春のリニューアルオープンが待たれます。
蹴上で地下鉄を下りて、南禅寺の前を通って野村美さん経由で伺うのを常としていました。展示を観終えて中庭に出て、眼前の東山を眺めながら備え付けのお茶を頂く時間がなんともありがたかった。木島櫻谷の「寒月」が日美で取り上げられたころより、グッと来館者が増えたように思います。
京都が休館中ということもあり、奈良博さんで館外では初めての纏めての展示となったそうです。奈良博さんということもあり、藤田美の時同様に調査研究のお披露目という点もあります。
泉屋博古館の収蔵品は、多岐にわたるのですが、本展は「青銅器」と「仏教美術」というテーマに限って、住友家第15代住友吉左衞門友純(雅号:春翠、1864~1926)の審美眼や美意識を知る展覧会ともなっています。
泉屋博古館のコレクションの核をなしているは、春翠が大正から戦前まで蒐集した美術品です。
第1章は、世界でも有数の泉屋博古館の青銅器コレクションはいかにして形成されたか。
京都の公家徳大寺家に生まれ育ち、29歳のときに住友家の養子嗣となり、家業である別子銅山開発と大阪での銅精錬事業に携わることになります。
お公家さんの出で、幼い時から和漢の教養を修めていました。青銅器の蒐集は、家業との関係からではなく、江戸時代以来の好古趣味や中国文人に憧れて煎茶に傾倒し、煎茶席の床飾りに青銅器を飾るのが一般的であったので、最初期に購入した青銅器は、煎茶席を飾るためのもので、「古銅花入」や山内容堂旧蔵品は「香炉」と名付けられているようです。
34歳のときに欧米視察した際には、海外の博物館美術館へも訪問されたことでしょう。帰国後の明治30年代後半から青銅器を体系的に蒐集するようになります。青銅鏡も最初は日本の古墳から出土したものでしたが、唐鏡を中心とした中国鏡をもとめるようになったそうです。
中国青銅器の器の種類は大きく分けて
・「食器」祭祀や儀礼で先祖神などにお供えする食物の調理と、それを盛るための器
・「酒器」祭祀や儀礼で重要な役割を果たした酒に関わる器で、青銅器の中で特に種類が豊富。複雑怪奇なデザインと造形をもつ青銅器も「酒器」に多い。
・「水器」祭祀や儀礼の際に手を洗い清めるための器
・「楽器」祭礼や儀礼での演奏や戦下の合図のための道具
これらは更に分類されます。
X線CTスキャンの写真も添えられて、紀元前12世紀から前10世紀の殷周時代に作られた青銅器のデザイン、造形、工人の高い技術に魅了されてしまいます。
明治44年から蒐集した青銅器の豪華図録『泉屋清賞』の刊行が始まります。奈良博蔵のものが展示中。豪華図録作った財界人他にも居ましたね。
大正6年に清末の文人で清朝最大の青銅器コレクターであった陳介祺が所蔵していた「陳氏旧蔵十鐘」を入手したことは春翠にとって大きな意味を持ち、青銅器に鋳込まれた文字である「金文」を重視して蒐集をするようになります。
大正10年には中国史学者内 藤湖南や考古学者 濱田青陵らを考証に迎えて『増訂泉屋清賞』を出しました。単なる個人的な趣味、蒐集ではなく、この時代の財界人のコレクション形成と同じように社会への貢献にも寄与する形になっています。
藤田美術館の藤田傳三郎、松方コレクションの松方幸次郎、日本最初の美術館だった川崎正蔵たちに見られる背景は「ノブレス・オブリージュ」の精神です。お金持ちの器が違うと毎度毎度思ってしまいます。来春リニューアルオープン後は、京都の泉屋博古館では以前の様に青銅器展示室は写真撮影OKとなるかもしれませんね。お待ちください。
第2章は、春翠さんが、早すぎる死の10年ほど前の50歳過ぎた頃から関心を持ち始めた「仏教美術」の展示です。根津さんとの共同開催となった2016年の「高麗仏画」でみた水月観音の美しさにはふぉぁ~となりました。今回泉屋博古館所蔵の「水月観音像」に再会!しかしそれだけではなく「如意輪観音像」にしても「地蔵菩薩像」にしても気品、美麗にしてあまりにも美しすぎる!
コレクションには、コレクターの人となりが表出してしまうものです。春翠さんは、近代数寄者のお一人でもあり、お好みは遠州の「きれいさび」。武家出身であることを誇示せずともその根幹に持っていた茶人達とはっ違って、京都のお公家さん出の春翠さんだからこそのコレクションなのではないかと勝手に思ってしまいました。
お部屋変わって第2部は、奈良博の公式キャラクターが案内してくれる「フシギ!日本の神さまのびじゅつ」です。「ざんまいず」の生みの親である若い学芸員さんが、更にいっぱいいっぱい「ざんまいず」を描いて、「日本の神さまのフシギ」を謎解きしていきます。夏休みお子さま向け企画と言いながら、国宝も重文も展示され、「へぇー」と大人も発見がたくさんあって、その上とても楽しい企画展です。
なっ、なーんと高校生以下は無料の上、お子さまと一緒なら割引特典もあります!更に同じチケットで特別陳列「泉屋博古館の名宝-住友春翠の愛でた祈りの造形-」(東新館)・名品展「珠玉の仏たち」(なら仏像館)・「中国古代青銅器」(青銅器館)をご覧になれます。
夏場の奈良公園は鹿さんの落し物が発酵して散策向きではない、また外国人観光客のマナーもこのところ問題になっていて、残念です。
涼しい博物館で楽しくゆっくり過ごすのがお薦めです。
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- BY morinousagisan