創建1200年記念 特別展 神護寺―空海と真言密教のはじまり
東京国立博物館|東京都
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高雄曼荼羅が黒い理由
当展の主たる開催目的は修復なった《高雄曼荼羅》のお披露目に他ならないでしょう。
私はそれが主役だとも知らずにやってきたわけですが、見てびっくり。神護寺にこんな途轍もないお宝があったとは知りませんでした。
とにかくでかい。曼荼羅にはでかいのが多いのですが、これまで見てきた中でも最大級です。さすが国宝です。
と言いたいとこですが、真っ黒クロスケでパっと見は何が描いてあるのかはわかりません。
これもまあ、奈良時代、平安時代の仏画のお約束みたいなもんで、ああ、あそこに大日如来さんがいらっしゃるのだろうなぐらいの見当がつく程度です。
何でこんなに黒いのか。
琳派の絵に黒い太陽があったりするのは、銀泥で描いた月だと最近知りましたが、あれは銀の硫化によるもので、銀の食器やアクセサリーが黒ずむのと同じ原理です。
この高雄曼荼羅も最初見たときは、下地の全面に銀泥が塗ってあったのかと思いました。
ところが解説読むとそうじゃなく、下地は紫色の絹布で、そこに金と銀の線画で曼荼羅図を描いてあるんだそう。
紫色が1200年の経時変化で黒くなったということです。もちろん銀の線は黒くなり下地に吸収され、金色線だけが残った形。
それにしても、後世の曼荼羅は彩色なのに、高雄曼荼羅は何ゆえに紫地に金銀の線描画になったのか?
先日NHKで再放送された国宝探訪番組「神護寺」を見てその理由がわかりました。それは「灌頂」という真言宗の儀式で曼荼羅が使われるからというものです。
灌頂は室内を真っ暗にして行われ、そこに曼荼羅が掛かっている。灌頂を受ける僧は目隠しをされ、先導の僧に付いて室内を回り、最後にそれを外される。
すると、真っ暗な中に金銀の曼荼羅図が浮かび上がると言う視覚効果があるからだそう。
番組内では夜の金堂内で蝋燭の灯りの下、曼荼羅を撮影していましたが、暗闇に荘厳な仏教世界が現れると言うミステリアスな雰囲気が確かにありました。
神護寺展の高雄曼荼羅ですが、胎蔵界と金剛界の両方同時には出ていません。前期(8月12日まで)が胎蔵界、後期(8月14日~最終)が金剛界です。
個人的には、どちらか見ればよろしいかと。修復前に比べたらかなり鑑賞に耐えうるようにはなっていますが、くっきりはっきりと見えるまではいってません。
感想欄にエイミーさんが書かれてたのを読んであまりの的確さに思わず笑っちゃいました。
「見えるような気がする」ってのは言いえて妙ですね。私もまったく同じこと書こうとしてました(笑)
普通は展覧会で実物見て感激するわけですが、こういう肉眼解像度がクリアじゃない古美術絵画類は、とにかく最先端の画像で見るのがいちばん。
会場やTVでの映像のほうが実物よりはるかによく認識できます。
ですから逆に、TVで見た国宝曼荼羅が良かったから、さぞかし実物はもっと素晴らしいだろうと期待して行ったら肩透かし食いますのでご注意を。
ただ、この国宝の修復作業に思いを致せば、やはり襟を正して正対せねばとは思います。
前記したNHKの国宝番組、そして日美でもやってたように6年もかかったんですから。日本の文化財修復技術は金メダルですね。
スペインの教会で消えかけたキリスト像を地元のおばあさんが手書きで直して台無しにしたと言うニュースがありましたが、またまた同国の別の教会天使像の顔が漫画チックに書き直され大問題になっているそうです。
でもこれ、私は笑えません。描いたご本人は大真面目なんですから。
その点、日本はしかるべき業者さんやプロに任せておけばまず間違いない。ご苦労には本当に感謝いたします。
神護寺展の感想が曼荼羅ばかりになってしまいましたが、東寺や奈良博からも含めて他にもお宝は山ほど出ています。
お寺のお宝って実際にそのお寺に行っても見れないものばかりだから、こういう「○○寺展」で一堂に会して見せてくださるのは非常に良いことです。
神護寺に行けば源頼朝像が見れるわけではないし、近くの高山寺に行けば本物の鳥獣戯画が出てるわけでもない。
それらはすべて国立博物館に寄託されているからです。
宝物館を有する寺社なら、本物をそこで見る手もありますが、教科書に出てる美術品作品に○○寺蔵とあってもそれは所有者であって必ずしもそこにあるわけじゃないですから。
神護寺もご本尊の薬師三尊像は金堂で見られますが、五大虚空蔵菩薩像や板彫弘法大師像は通常非公開ですので、今回の企画展でそれらすべてが拝見できるのは非常にありがたいことです。
国立博物館所蔵の国宝展やると必ず出てくる《神護寺三像》や空海筆《灌頂暦名》もバッチリ出てますしね。
空海の書、皆さん見て思うのは「弘法も筆を誤るのって本当だったんだね」ってことでしょう(笑)
特に《灌頂暦名》ではそれが顕著。習字書いててミスっても自信もっていきましょう。
《伝源頼朝像》、「伝」って何なのよ、「伝」って。
昭和生まれは新事実なんて聞きたくないです。以前のまんま源頼朝ですとだまし続けてほしかった。
当然、鎌倉幕府は1192です(笑)
神護寺は過去2回訪れました。一番最近は2020年の晩秋、コロナ緊急事態の間隙を縫って女房と行きました。
紅葉のピークは過ぎてましたが、ところどころに名残はあって観光客も少なくて静かで良い時間が過ごせました。
今はもうそんなわけにはいかないでしょうが、一度は行っておきたい京都の名所です。
足はバスになりますが、結構時間かかるので座って行くなら始発から、帰りは高山寺前から乗るのがおすすめです。