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田中一村展 奄美の光 魂の絵画

田中一村展 奄美の光 魂の絵画

東京都美術館|東京都

開催期間:

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必見の展覧会 ―天才の幸福論―

芸術家はしばしば『孤独』と親和性が高いと評されますが、ここまで『孤高』という表現が相応しい人を久々に見たように思います。

東京都美術館で開催中の田中一村展。
鑑賞された皆様の感想と、大人気+大行列の評判を聞いて土日の訪問を断念して金曜の夕方に訪問しました。
エントランスには一村の大きなモノクロ写真と明朝体のシンプルな展覧会名が、ふんわりと照明に照らされています。
入った会場は比較的空いていて幸先良いな~とニンマリできたのは入口で作品リストを見るまで。

――――――展示点数、驚異の300点越え。

ヤバい、これちゃんと見終えることができるのか?

夕方来訪計画の方には、一村の作品世界を堪能するより、確実に全作品を見る事に集中することをお勧めします。
以下は独断になりますが、会場の見どころと推し作品のご紹介。

【第1章―若き南画家の活躍 東京時代―】

最初の作品は一村7歳時の作品で、いきなり天才が炸裂しています。

『柳にかわせみ』の青緑色の小鳥は写実的で愛らしく、『菊図』では菊を写したというより、余白も考えた絵画作品としての構想が窺える配置センス。
小学校低学年の男の子が描いたと教えられても「え?そんなわけないやん」と信じないだろうな作品です。
1章では彫刻家の父に師事して【米邨べいそん】の号で、右肩上がりに完成度が増していく作品が並びます。
特に眼を惹いたのは16歳時の掛軸『藤図』と『白梅図』、『鶏頭図』。
大胆に大振りな花房が垂れ下がる藤の花と、墨で力強くも繊細な花弁を描いた梅が見事です。
鶏頭図は複数ありますが、虫食いも表現した写実的な江戸紫色の葉と、朱色の鶏頭が美しく、野生の生命力が伝わってきます。
繰り返してしまいますが、これ絶対高校1年の作品じゃないでしょと唸りますね。

【第2章―千葉時代と「一村」誕生―】

戦後、奄美に移住する前の千葉県在住時期の作品です。
大作もありますが旅先の車窓的な作品や草花を描いた絵葉書、スケッチ等の一村の生活感というか、日常的な筆遣いが感じられます。
観音様を描いたり、ほのぼのとした田園風景や野鳥の写生図などたくさんのモチーフ等材質にこだわらない作品は見応えがあります。
びっくりしたのは襖絵です。『菊花図』『千山競秀図』は保存状態も良くて、もの凄く見栄えがする華やかさ。
この襖絵の飾られた部屋に来客が来たのならば大興奮したのではと思います。
注目作は象徴的な大作『白い花』と『秋晴』。
『白い花』は一村が初めて出品して入選したという晴れがましい作品。スッと伸びた竹の前後に揺れる木立の花が美しいです。
画中の半分を埋める白い花はハナミズキのようで、四つの花弁がスッキリした印象を深めます。
一方の『秋晴』は、『白い花』の翌年に気合を込めて描いた作品です。何故か落選し、納得いかない一村の奄美への移住切っ掛けとなりました。
晩秋の農村風景で、夕暮れ間近の中、真ん中に黒々とした落葉樹。枝には真っ白な大根が干されていて、茅葺屋根の家が数軒佇んでいます。
描かれた大根や屋根等のそこかしこに塗料を塗り重ねた膨らみがあって、一村の気合いというか、作品に込める力が感じられます。
これで入選しなかったのが不思議でなりません。
そして5年後の1953〜58年にかけて日展、院展に何度も出品するも落選してしまい、日本の画壇からは評価されない失意の中で奄美への移住を決意します。

【第3章―己の道 奄美へ―】
 皆が知る【奄美の画家、田中一村】の集大成と言える秀作、傑作が100点以上並んだ3章展示室は圧巻の一言です。
自ら《冥土(閻魔大王)への持参品》と評したという展覧会ポスターにもなった『アダンの海辺』と『不喰芋と蘇鐵』は必見ですが、個人的にはキッチュな顔のトロピカルカラーなお魚やヤシガニがドアップな『海老と熱帯魚』も推したいですね。
食材をテーマにした日本の静物画はこれまでもありましたが、これほど鮮やかな色彩の静物画はなかなか見ません。
また、強烈な太陽を遮った黒い葉陰が重なる『枇榔樹の森』も静謐な雰囲気を正面からじっくり堪能したい作品ですし、緻密なスケッチに裏付けされた南国の小鳥たちをつい目が追いかけます。
奄美の美しい海と濃い日射し、しっとりとした温い空気まで感じられる一村の世界にひたすら魅入られた会場でした。

「最後は東京で個展を開き絵の決着をつけたい」と話していた一村。
元来身体が弱く結核を患い、家族を次々に失い画業を支えた姉も亡くなり、当時の日本美術界から拒絶されたかのような評価の中で本当にたった独り奄美で制作の為の生活に明け暮れます。
そんな孤独な環境でも、数百点に渡る作品を次々に制作した一村の作品に対する熱量を想像すると息が詰まります。
一村は現地の紬工場で染色工として働き、作品制作に必要なお金を貯めたら一時的に辞めて、作品制作に没頭するという生活を繰り返していました。
当たり前ですが収入が無い最低限の生活でも食費、光熱費と生活費はかかります。
現地の人達にも細々と支えられていたそうですが、食材の購入で売主がお裾分けだからと代金は要らないと言われても、一村は律儀にお金を払っていたそうです。
本当に清貧で、律儀というのか、頑なというのか・・・少しでも肩の力が抜けて、満ち足りた時間が彼にちゃんとあったのだろうかと勝手な憶測でも気を揉んでしまいます。
染色工⇒制作⇒染色工のループ生活を続ける一村に、睡眠無しに千日山道を歩く修験道の行者か、絶海の孤島で写本制作と祈りに終始した中世修道士の姿が重なってきてしまいました。

そうして日本美術界から忘れられたような奄美での制作生活を続けて、69歳で心不全で亡くなった田中一村。
死後になってようやく脚光を浴び、目標にしていた東京での展覧会に繋がるのだなと思うと晴れがましくも切ない気持ちになります。
タイムリミット間近でしたが傑作揃いな3章展示室を急ぎ足でもう一度見直します。
写実的であり、同時にルソーの絵画のような装飾性も感じさせて、そのまま今の高級ホテルやインテリアにもなりそうな。やっぱり天才。。。

3章会場の後に、一村の画業について簡単にまとめた大画面の映像紹介がある・・・んですが、予想通りというかタイムアップ(泣)となり、泣く泣く会場出口へ。出口にはガチャもあったのですが、終了時間過ぎてトライできず。
作品鑑賞に時間を割いたので仕方ないんですが、もっと浸りたくなる、本当に濃い【田中一村】の世界でした。

ちなみに展覧会訪問後に知った一村のエピソードですが、彼は知人宛の書信で
「わがまま勝手に描くということに,絵描きの値打ちがある。お客様の鼻息を窺って描くようになったとき,それは生活の為の,奴隷に転落する」
との言葉がありました。憶測で気を揉んでしまいましたが、妥協しない孤高の生に一村本人は『悔いなし!』と即答しそうだなとちょっと安堵です。

田中一村展 奄美の光 魂の絵画
Tanaka Isson: Light and Soul

https://isson2024.exhn.jp/

会期:2024年9月19日(木) – 12月1日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36

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