大吉原展 江戸アメイヂング
東京藝術大学大学美術館|東京都
開催期間: ~
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時間をかけてじっくり、そこに生きた人々に思いを馳せながら鑑賞。
東京藝大美術館の「大吉原展」行って来ました。開催前から色々物議をかもし、展覧会タイトルを変更しなければならないことになった、話題の展覧会です。それでも開催され、つまりそれだけ美術館側の力がこもった展覧会なのだと思います。特に、大英博物館、 ワズワース・アテネウム美術館など海外からも浮世絵の名品が里帰りを果たしています。とりわけ喜多川歌麿《吉原の花》は必見で、この一点だけを観るだけでも行く価値あります。と言う私は、8年程前に箱根岡田美術館さんで、喜多川歌麿による肉筆画の大作(栃木の豪商の注文で描かれた)《深川の雪》《品川の月》《吉原の花》三部作揃い踏みを観て来てはいましたが、実に素晴らしく、もう一度観たいと思いました。近年私は、今更ながらに江戸文化に興味があり(ずっと以前史学生時代、折角色々知れる環境にあった頃には、恥ずかしながら近世にはあまり興味がなかったもので)、この機会、「苦界」という吉原の負の面も、そうでない面も、江戸文化の発信地と言う面も、そして藝大美術館さんの敢えて強く意図するところも、是非とも観てみたいと思って出かけました。
平日午後の訪館ですが、とても空いていました。今までの藝大美術館さんの特別展で、並びがなくても、入場時、チケット売り場ロビーに誰もいないのははじめてです。展示室には、もちろんそれなりに鑑賞者がいましたが、初室の混雑すらなく、大きな作品の前に二三人、通常サイズの浮世絵では三四作品に一人くらいの鑑賞者、と言った感じでした。じっくり自分のペースで観て回れるのはとても良かったです。キャプションがかなり多く、また数分のミニ動画も多くあり、そのため観るのにはかなり時間を要します。このあたり、覚悟が必要かと思います。撮影は、第四会場の遊郭模型と辻村寿三郎の人形の部屋のみでした。模型の設えがとても芸が細かく、驚きました。寿三郎さんの遊女さんは立ち姿もお着物もとても素晴らしいのですが、やはりちょっと怖いです(笑)。
この日の鑑賞者の年齢層はやや高め、ですが、若い方もちらほらいらっしゃいました。あと、太田記念美術館さんやすみだ北斎美術館さんのように、浮世絵の美術館さんでは常に、海外からの観覧者がかなり多いのですが、こちらは、たまたまこの日この時は、かも知れませんが、お一人もお見掛けしませんでした。また平日ですので小学生などの子供さんもお見掛けしませんでした。そういえば『吉原』の全貌を、と言いながら、お子さんの鑑賞者への配慮かは分かりませんが、性の問題や、梅毒などの病や(大火以外の)遊女の死については、触れられていませんでした。
今展が始まってからの口コミ評価も、賛否両論ある様ですが、高評価も結構多く、私も「観てよかった」の方でした。
沢山の人物が描かれた浮世絵に、それぞれが誰なのか客なのか働き手なのか、何者なのか、普通、なかなか説明がつけられません。それを作品上方に拡大画像を映し出し、そこに書入れをしてみせるのは、なかなかの工夫と思いました。三階の第三展示室は現代吉原風??空間をつくり三味線のBGMが流れる、なかなか工夫が凝らされていました。それでも吉原風空間のため? また全体にゆったり空間での展示のため? 作品の展示量が削がれた感じはありますが。一番面白かったのは、喜多川歌麿の《青楼十二時 続》です。吉原の一日を、遊女たちのちょっとしたしぐさを描いた歌麿らしい良作で紹介しています。所蔵がまちまちなので、良く集めてくださいました、と言う感じです。直参旗本出身の浮世絵師、鳥文斎栄之の作品が多く観られたのも良かったです。鳥居清長とはまた違ったスラッとした優雅な美人増で、描線も細やかで優美ですね。わりと好きなのです。栄松斎長喜《遊郭善玉悪玉》はとても楽しく観ました。他、一通り有名どころの作品を並べつつ、人物や街並み、店・座敷のしつらえなどに加え、身の回りの小物にも注目させてくれているのも、ちょっと面白かったですし、遊女たちの美しさやオシャレや、チラ見せの粋さ、だけでなく、教養や多芸ぶりもしっかり描かれていて、書画音曲舞に和歌に華道茶道、読書、更に禿の教育、また当時の一般よりもはるかに年中行事をしっかり行い日本文化を守り継承していたことなど、これまでも色々な浮世絵内で観て来ていたかもしれませんが、こうしてピックアップされると、本当になるほど、ですよね。ちょっと感動です。絵には無いものの、多分現代のトップホステスさん方のように、あらゆる方面の情報、政治経済にも精通していたかもしれません。来年のNHK大河主人公にもなっている蔦屋重三郎のコーナーも、まあまあ充実でした(来年の大河を楽しみにします)。吉原があったればこそ生まれたかもしれない江戸の文化の広がりと深まりを感じることが出来ました。それから吉原以外の遊郭のランクや、店内の遊女のランクも分かりやすく解説されていました。大火に焼け出された暇の遊女たちの生活も知りました。時代や政治情勢を追って変わっていく遊郭そのものや遊女たちや客層、などなど、これまでなんとなく見過ごして来ていた色々な出来事と浮世絵に描かれた遊女たちの姿を、きちんと結び付けて確認出来ました。吉原の近代、明治大正時代の変遷までも、作品と共に紹介されていました。
開催前の批判殺到によるごたごたからか、展覧会内容の告知があまりなく、浮世絵中心ならばまあ当たり前かもしれないのですが、前後期で多くが展示替えがあり、通期のものも場面替えなど多くありました。もう少しよく下調べをすべきだったと、若干後悔しています。後期にも来られるかは分からないことと、GWや会期末の混雑も予測されることから、ちょっとお高いですし、分厚くて重い図録(藝大美術館さんはいつもですが、ショップは入場しないとは入れない2階です)を購入しました。前後期全て載っていますので。また多めのキャプションも、帰宅後読み返すことが出来ました。図録の方が更に詳しいと思いました。これはちょっとと思う方は、『吉原細見-歴史と文化探求編』という\500の小冊子が、なかなか初心者やジュニア向けにも良いと思いました。お勧めします。田中 優子氏の『遊廓と日本人』という書籍も良いですよ。
開幕前から注目されていた今展は、展覧会関係者だけでなく鑑賞者である私たちもあらためて人権意識について考えさせられるきっかけともなっていると思いました。まだまだかけている部分は多々あるでしょうが、とりあえず、今展を観て、展示されている作品だけでなく、それらが生みだされた背景、そこで生きていた人々にも思いを馳せることができる展覧会だったのではないかと、前期は終わりましたが、後期に、なるべくたくさんの方に観て感じて頂けたらと思いました。
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