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Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness

Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness

埼玉県立近代美術館|埼玉県

開催期間:

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新しいアートが生まれる瞬間に居合わせた幸運

Nerhol(ネルホル)
アイデアを“練る”田中義久と、それを“彫る”飯田竜太で2007年に結成されたアーティストユニット。
初めて作品をみたのは、建築目的で訪れた千葉市美術館で2024年に開催された「水平線を捲る」だった。
目的は違えて、その作品に圧倒された。
連続写真を何枚も、本当に何枚もの数を重ね、それを彫り出してつくった作品は絵画のように展示してあるが、平面ではない、けれど、立体とも言えない、独自の奥行きをもっている。
それがNerholの作品の特徴。

今見えているものは断片の集合体で、一瞬が重なってできたもの。
その重なりを彫ることで、そのことを認識させられる。
重なった縦の時間軸と、重なりごとの横の時間軸(一瞬)が、ひとつの画角の中にも複数あることを彫り方によって知らしめる。
はじめは展示会タイトルの「捲る」を「めくる」と、読めなかったけれど、
作品をみたら「めくる」を連想でき、「めくる」と認識できたら、
てへん(扌)に、まく(巻)、手に巻く、めくるか!ひとつ賢くなった気さえしてくる。
「見えないもの」「見えていないもの」を観ることができる、
そうなった瞬間は、アーティストの世界観に落ちたとき。
これが心地よくてすっかりファンになった。

 
今回の展示は、埼玉県立近代美術館。
黒川紀章氏の設計。
コンクリートのmassなTHEモダニズム建築なのだけど、敷地の公園内にある樹木とうまく調和し、溶け込んでいる。名作チェアに実際に座れるところとしても有名。

埼玉県立近代美術館での展示タイトルは「種蒔きと烏 Misreading Righteousness」
種蒔きね、
先入観なしに楽しみたかったので、展示会概要など読まずに予備知識なしで挑んだ。
入ってすぐ、円形に組まれた木枠の什器に、額縁がかけられているものが目に入る。
前回の展示からこれはゾートロープをモチーフにしたものだろうと想像がつく。
ゾートロープは、スリッドの入った円柱の内側に連続したグラフィックを描き、円柱を回すことでパラパラアニメのように絵が動いてみえるもの。
トイストーリーの立体ゾートロープが話題になったとき、同じようなものをつくりたいと案件を受注したことがあった。それでゾートロープには少し知見がある。
そういいつつ、奥の壁に展示されている作品に目が入った。
作品タイトルも読まずに眺めていると「ランウェイ」が思い浮かぶ。
モデルがステージを歩いては、舞台袖に消えていくが繰り広げられるシーンが目の前に広がる。
が、これは私の想像にすぎず、
実際は、ピアニストの手元を写した作品とのこと。
それでも私は、ランウェイの口ならぬ、ランウェイの目になっているので、
続くゾートロープは、デザイナーがアトリエで新作の服を縫製しているシーンに見えてくる。
実際はそうではない。よくみると、どこか海外の屋外で撮影したものとみてとれる。
レンガの建物の前で人が風に吹かれている?犬の散歩をしている?ような景色がそこにある。
けれども、私はファッションデザイナーのアトリエでの作業風景として妄想を広げるのを止められない。
この自由さ、というより、私の身勝手さが通用するのがアート鑑賞の醍醐味。
さらにNerholの抽象度はそれを加速させる。

次は、敷地の公園が一望できる窓がある空間に、
鏡と、植物が長い年月をかけて化石化した、珪化木(けいかぼく)が展示されている。
鏡は、わかりやすくいうと、亀裂が入っていてフラットではない。
覗くと、当然ながら乱反射して歪んでみえる。
これはNerholの作品らしさを伝えるのに適したものだ。
見えているものはひとつではないし、見えているものがすべてではない、それをわかりやすく表現している。
この作品を外光の差し込む空間においたことは、自然の移ろいなども取り込もうとしたのが窺える。
床に散りばめてある珪化木は、1面を年輪を隠すように錫(すず)加工されていて、
メタル{人工}と木{天然}のコントラストが、フォルムも相まって何とも可愛らしい。

展示室内に入った次の作品でまた驚く。
今までの壁にかかった作品は、壁に対して並行(床に対して垂直)な層の重なりだった。
それが今度は、床に対して並行(壁に対して垂直)になっている。
奥行き50mm、幅約1800mmの長い短冊状の紙が、2000mmを超える高さに重なっている。
万を超えるすごい数量が層になっている。
途方もない枚数だ。
これはシロツメクサを撮影した動画から静止画を出力したもので形成されているらしい。
シロツメクサと言われると、あぁあの部分かもと映像が目に浮かんでくる。
これは作品うんぬんの前に、制作工程を思い浮かべてもう、完敗だ。

最後の部屋はコーナーごとに異なる顔をみせる。
制作された時代も地域も全く異なる2枚のポストカードを組み合わせて構成した作品は、
そうと知らなければ、デザインされたレイアウトだねで終わってしまうけれど、
違うものの組み合わせと知ってみると、その絵それぞれの時間軸や、このふたつを組み合わせようとした時間軸など、
いろんなベクトルが感じられて面白い。
最後は展覧会タイトルになっている「種蒔きと鳥」
白と黒のポストカードの山がある。ポストカードには1枚につきひとつの種が埋め込まれていて、
土に植えると芽がでるらしい。
鑑賞者{鳥}は1枚のカードを選び、選んだ色のシールをひとつ壁に貼るインスタレーション。
種を持ち帰り、会場を去った後も名残が続く。
{鳥}になる。


今回の展覧会は圧倒的だった1年前と比べ、規模としてはコンパクトだったけれど、
新しい挑戦もあり、よくぞ1年でここまで持ってこれたなと。

年齢が上がるとともに、現代アートとの距離感を感じていたけれど、
Nerholは次の展示が待ち遠しく、新しいアートが生まれる瞬間に居合わせた幸運を味わえる。

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