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開創1150年記念 醍醐寺 国宝展

開創1150年記念 醍醐寺 国宝展

大阪中之島美術館|大阪府

開催期間:

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迫力ある明王像と気品漂う密教仏画

空海の大展覧会が奈良博で終えたのを引き継ぐように、大阪中之島美術館で『開創1150年記念 醍醐寺 国宝展』が始まりました。
醍醐寺開創1150年を記念して、応仁の乱で荒廃した醍醐寺の再興を支援した豊臣秀吉ゆかりの大阪で初めての展覧会です。国宝14件、重要文化財47件を含む約90点が前後期で展示されます。(展示件数約90点で人によっては決して多くはないかもしれません。展示替えもありますので、作品リストを必ずご確認ください)。
本展は、3つの章と醍醐寺の特徴を知る手掛かりとなる5つのコーナー展示で構成されています。
近現代美術をコレクションする大阪中之島美術館での京都の名刹である醍醐寺展の開催ということで、長く仏教美術を研究され前職奈良国立博物館でも仏教美術の展覧会を開催されてきた内藤栄大阪市立美術館館長が監修を担当し、学術協力として前宮内庁三の丸尚古館首席研究官 太田彩氏、奈良国立博物館学芸部列品室長 斎木涼子氏(大盛況だった空海展@奈良博のご担当)、大阪大学教授 藤田譲氏を学術協力に迎えての展覧会となっています。

真言宗醍醐派総本山醍醐寺百四世座主壁瀬宥雅師と本展監修の内藤栄館長との対談から
密教の特徴(cf:『図録』23頁「ミニコラム2 密教とは」)
・多面多臂や恐ろしい姿をした明王像が祀られた。
・最高尊として大日如来が信仰されるようになり、大日如来を頂点として仏たちの世界を描いた曼荼羅が祀られるようになった
・行者は修法を通して仏の降臨を願い、仏と一体になること(即身成仏)をめざす。

壁瀬宥雅座主のお話から「醍醐寺は、密教、山で行われる修験道、三論という三つが信仰の柱となっている」
※「三論」とは、推古天皇期に日本に伝わった南都奈良六宗の1つで、インドの龍樹が著した445の詩(偈頌)の「中論」、大乗空観の理を12章に分けて解説した「十二門論」、龍樹の弟子の提婆が著した「百論」の三種の経典を根本聖典とする。(cf:上掲書 ミニコラム1より)

第1章 山の寺 醍醐寺
醍醐寺は、今から1150年前に理源大師聖宝によって開かれました。聖宝は空海の実弟である真雅(しんが)のもとで得度出家し真言の修行中、貞観16年(874)笠取山(醍醐山)の頂に瑞雲がたなびいていることに気づきそこに草庵を結びました。山中で出会った老翁(地主神)が山中の湧水を飲んで「醍醐味かな」と言ったことが「醍醐寺」の由来であると国宝『醍醐寺縁起』乗淳筆[前期展示]に記されています。《理源大師像》は、空海像に倣って右手に五鈷杵をとり、左手で袈裟の衣端を持つ姿で伝えられています。

醍醐寺は醍醐天皇の御願寺となり、天皇の庇護のもとに上醍醐に薬師堂や五大堂が建立されました。延長4年(926)下醍醐に釈迦堂が建立され、天暦5年(951)に五重塔が建立され、醍醐寺は上醍醐と下醍醐の大伽藍となりました。醍醐寺は二伽藍を持つことによって、室町時代の文明2年(1470)兵火によって五重塔を残して下醍醐は灰燼に帰したが、上醍醐には兵火は及びませんでした。

重要文化財《大威徳明王像》上醍醐の五大堂に祀られていた(不動明王、降三世明王、軍荼利明王、大威徳明王、金剛夜叉明王の五尊大のうち)創建当時の像です。五大堂は何度も罹災して唯一奇跡的に残った像です。6つの顔、6つの手足を持ち水牛に乗る。6つの足を持つ像は珍しく、忿怒形ですが、体はムキムキでなく意外にももち肌で、静かななかに怒りを秘めた像と説明されています。

国宝《薬師如来光背小七仏薬師像》上醍醐薬師堂の本尊薬師如来(cf:国宝《薬師如来像》は記者発表のアートブログに当日撮影が許可された画像を掲載しています)の光背にある小薬師像のうちの四躯。光背の化仏を間近で拝見する機会はめったにありません。平安時代前期のボリューム感あるムチムチな本尊薬師如来像に似たミニアチュア像はまるまると愛らしい。

そしてなーんといっても艶めかしくも気品も漂う重要文化財《如意輪観音坐像》6本の腕のバランスが良いですよね。
左手に蓮の花、胸前に持つ如意宝珠(意のごとく願いをかなえる宝石)、左の指先にのせる法輪(仏の教えを象徴する車輪)、右手に掛ける数珠(人々を苦しみから救う)、頬に手先をそえ首を傾げて伏し目で人々を思い指先まで美しい。

上醍醐薬師堂伝来の三躯のお像、
女性の姿ゆえに善悪・清濁を問わず願いに応じてくれる 重要文化財《吉祥天立像》
重要文化財《帝釈天騎象像》インド神話の軍神インドラである帝釈天の表情は柔らか。
重要文化財《閻魔天騎牛像》は、鳥羽天皇の皇后・待賢門院の御仏と「醍醐雑事記」に記されています。

前期展示では、《清瀧本地両尊像》や聖宝の自著がある 重要文化財《僧綱牒》、後期展示では聖宝の直筆 国宝《処分状 理源大師筆》もお見逃しなく。

第2章 密教修法センター
醍醐寺が高野山金剛峰寺や東寺などの真言密教寺院と違うのは、優秀な学僧や験力の強い僧侶が集まり、密教修法(すほう:加持・祈祷の作法)の研究センターとしての役割を果たすようになります。自流だけでなく他流の情報も収集し記録して、さまざまな流派の文書が蓄積されてきました。「醍醐寺文書修法」として7万点が国宝に指定されています。
密教修法が貴族の私的な修法にも広がり多様化して絵画や彫刻の造像も増えていきました。空海請来様の図像が尊重され、醍醐寺には手本となる多くの白描画や彩色本が伝わりました。
密教といえば険しい明王像ですが、天暦5年(951)に完成した五重塔初重内部の国宝《五重塔初重壁画両界曼荼羅図 旧連子窓羽目板断片》[前後期に1面ずつ]、重要文化財《五秘密像》[前期展示]、阿部文殊院を思い出すが、渡海形式の図像は日本でしか見られないそうで、重要文化財《文殊渡海図》[前期展示]などは、優しい表情で色彩も美しく単眼鏡でじっくり観たい

密教修法では、かなりの割合で絵画を用いるそうです。絵画を掛ければその場が修法の場となる。監修の内藤館長お薦め「平安時代から鎌倉時代に描けて非常に腕のいい絵師たちの名画揃い!仏画こそ、密教の真髄、奥深さがあると思います。」

皇族や貴族の信仰を集めた醍醐寺の美術品には、明王でさえもどこか優美さが漂っているそうです。快慶仏の人気もその辺りにあるようです。

インドの色を付けた砂で描かれたマンダラ(砂マンダラ)に起源をもつ「大壇」は、仏の降臨を請い、仏との同体を願う修法の場です。図録には、「密教法具は古代インドの武器や器に起源があり、その神秘の造形は古代インドのマジカルな力を受け継いでいる。」とあります。怨敵の姿や名を記した紙を入れる筒《金銅転法輪筒》は、まさにデスノート、重要文化財《金銅九鈷杵及び宝龕》〇鈷杵はよく展示されていますが、その収納ケースは初めて見ました。中国製でピッタリサイズの丁寧な作りです。

本章の他の展示物とは少し違和感がある後期展示の重要文化財《山水屏風》も見たいですね。

第3章 桃山文化の担い手
醍醐寺といえば慶長3年(1598)3月15日秀吉によって催された「醍醐の花見」です。
室町時代末期の文明2年(1470)下醍醐は兵火によって五重塔を残して灰燼に帰しました。復興に尽力したのが、天正4年(1576)醍醐寺80代座主となった義演です。そしてその再興を経済的、文化的に支援したのが豊臣秀吉です。
義演は、関白 二条晴良の息子で、兄弟、九条兼高、二条昭実、鷹司信房も関白職についています。兄の二条昭実は、天正13年(1585)に関白を秀吉に譲った人なのです。義演を継いで座主となり復興を推進した覚定は、義演の弟 鷹司信房の息子で義演の甥にあたります。鷹司家と天皇家は婚姻関係、血縁関係でも繋がっていました。醍醐寺再興のキーマンである義演と覚定が座主を務めた時期が、俵屋宗達の活躍時期と重なっていました。
秀吉亡き後も豊臣家による復興は続き、金堂、仁王門や上醍醐の諸堂が再興されました。

重要文化財《金剛夜叉明王立像(上醍醐五大堂五大明王のうち)》上醍醐五大堂は何度も罹災して、現在の建物は昭和15年(1940)に再建されたものです。本尊五大明王像は、奇跡的に残った大威徳明王像以外の4体は慶長10年(1605)の火災後に秀頼を施主として再興された像で、七条仏所・康正一門の作です。

これらを背景として、醍醐寺には近世の名画が多く伝わり、桃山文化の担い手としての一面も持っています。
俵屋宗達筆 重要文化財《扇面散図屏風》は、前期展示、《舞楽図屏風》は後期展示です。

江戸時代初期からは、真言系修験道の当山派の拠点寺院としても発展していきました。

明治になると、醍醐寺も例外ではなく「神仏分離令」による「廃仏毀釈」によって寺領の半分を失いました。明治28年(1895)には「醍醐寺保存会」を結成、所有する什宝物の調査整理、目録を作成、『醍醐寺什寶品目録』として発刊しました。その編集兼発行者である玉園快應は、所在不明だった国宝の「絵因果経」の発見の経緯を記した《絵因果経発見由来記》小中村義象書、横山大観筆[前期展示] の中に出てくる醍醐寺僧に当たり、この調査に大観も参加していました。
昭和9年の室戸台風で倒壊した三宝院純浄観の修復で襖絵を揮毫したのが堂本印象で《桜花と杉樹》が展示されています。
展示の最後は、岸田劉生の孫である岸田夏子の《醍醐寺の春》です。

近代以降も多くの作家が美術作品を醍醐寺に納めてきました。

私には全くついていけない、桜ミク(初音ミク)とのコラボによるAR体験や最新テクノロジーを駆使したベントも予定されています。

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