開館60周年記念 京都画壇の青春―栖鳳、松園につづく新世代たち
京都国立近代美術館|京都府
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青春の輝き
京近の開館60周年記念展のテーマは王道の「京都画壇」だ。
ただそれを普通にやっちゃ面白くないってことで、ひとひねり加えて「青春」と縛りをかけた。さらに続けて「栖鳳、松園につづく新世代たち」とあるのも、蛇足どころか功を奏してる。
出展作家は明治末期から昭和初期までの京都画壇創世記に続々と現れた新星たちで、Who's Whoともいえるラインナップ。
当展には各作品に付せられた解説は一切ない。あるのは作者名とタイトル、画材と制作年がキャプションとしてあるだけだ。
そして、制作年に並べて記載してあるのがその時の作者の年齢で、これが当展を鑑賞する際の決定的なキーとなる。どれもが20~30代の作品だからだ。中には10代後半のものまで。
もちろん、栖鳳、松園、春挙なんかは、画壇創設者クラスの重鎮であり彼らの師でもあるので円熟期の作品が出ているが、その後継者たちのまさに「青春時代」の作品は、なんと瑞々しく精気に満ち溢れていることか。本稿タイトルのように、どれもが輝いていると思った。
その輝きは、キラキラもあればギラギラもある。清音KIRAKIRAのエースは、当展の主役でもある土田麦僊だろう。
麦僊に限っては画業のほぼ全年代にわたっての作品が出ている。
代表作《舞妓林泉》は30代後半の作品で、開催地が京都なので選ばれたのだろう。メインビジュアルとするのに異存はないけど、これ東近からの借り物だからねえ。京近さんとしては内心忸怩たるものあったかと。
でも展覧会に華を添えるにはこれしかないね。切手にもなってるし、私も持ってるから(笑)
やっぱ、切手になる絵っていいよね。いい絵だから切手になるのだろうし。
麦僊作品は、その画風の違いを追って見て行くと楽しいかも。正調日本画の《罰》、《髪》、洋画感覚の《海女》、《大原女》、《鮭》と続き、40代で描いた《朝顔》は琳派に戻ったかのようでもある。
KIRAKIRA派では小野竹喬もいい。セザンヌが日本画描いたらこうなるのではと思わせる風景画は一目見たら忘れない。
昨年訪問した笠岡市の竹喬美術館から代表作《波切村》が来ていたのが嬉しかった。それにしても、竹喬のあの画風が20代にして完成されてたのかと改めて驚いた。
ちなみに、竹喬はコレクション展示室に最晩年の作品《奥の細道句抄絵》10点が出ており、これが実に良かった。企画展見た後はコレクション展も是非。今回はいいですよ。
さて、青春が輝く当展で私が惹かれたのは濁音GIRAGIRAと輝きを放つ作家たちだ。
中でも野長瀬晩花が出色。《島の女》、《初夏の流》、《休み時》、《夕陽に帰る漁夫》の4作が出ていたが、こりゃもう完全に洋画。
特に《夕陽に・・・》の真っ赤な画面のプログレッシブ感は何なんだ。京都画壇は異才も大活躍できる場なんだと懐の深さに感服だ。
ちなみに「野長瀬」という姓に引っかかったかた、いると思う。
円谷プロの初期ウルトラシリーズの監督名「野長瀬三摩地」を覚えているかた、三摩地氏は晩花さんの息子さんなんですと。
晩花の盟友、秦テルヲも面白い絵を描く。略歴をググってみたら、さもありなんというアウトローじゃないか。
《女郎(花骨牌)》は京都画壇異端児の代表作だろう。当展後期に出てくる《血の池》もすごい絵だ。
GIRAGIRA派では、今年の大回顧展で話題になった甲斐荘楠音もちゃんと出てる。
が、あのデロリ画じゃなくて前期は洋画的小品の《裸婦》。楠音作品を「穢い」と評した麦僊と呉越同舟するのも何かの因縁か。
楠音の《横櫛》エピソードに登場する岡本神草《口紅》、金田和郎《水蜜桃》が見れたのも収穫。後期には《横櫛》が加わって三者が揃い踏みするので必見です。
それにしても甲斐荘楠音の呪縛ってすごいわ。今年2月からいまだに尾を引いてる。
本企画展レビュー、私の好みで京都画壇の異端派に字数を費やしたが、本線はやはり王道の日本画であることには違いない。
画家銘々伝は別のとこでしっかり勉強するとして、当展ではとにかく京都画壇を彩った多士済々な面々の「青春の輝き」を浴びてほしい。