奇想の絵師 歌川国芳
うらわ美術館|埼玉県
開催期間: ~
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暖簾に腕押し・糠に釘・するんと反骨江戸っ子国芳
端午の節句にふらりと訪問。
東京都民が意外とスカイツリー行ってませんあるあると同様に、さいたま市民でも今回が初の訪いです。
近いからいつでも行けるって思ってたので。。。。
美術館はJR浦和駅から徒歩5分くらいのランドマークな老舗ホテル3階。エレベーター直通です。
拍子抜けするくらいの好アクセスに、もっと早く行っとけば良かったと少々反省。
プチ情報ですが入場にあたってはJAFカード持参かアプリがあれば割引適用されます。
展示会場に入って1番最初、正面には弟子の芳幾が描いた国芳の追善絵がお出迎えです。
3月に訪問した弟子の芳幾・芳年展にもありましたが、愛弟子の描いた国芳は筆を手に端然と座して、中肉中背ながら70人もの弟子を抱える貫禄が滲みます。
展示は初期『水滸伝』の武者絵から円熟期の風刺画まで160点以上とかなりのボリューム。
武者絵・美人画・風刺画とバラエティに富んだ中で、頭の良さに唸ってにやける【反骨の江戸っ子 国芳】の作品ベスト3をピックアップ。
①《源頼光公館土蜘作妖怪図》みなもとらいこうこうのやかたにつちぐもようかいをなすず
1843(天保14)年 大判錦絵三枚続
国芳の風刺画代表作レベルの作品で、展覧会では頻繁にお目にかかりますが、何度見ても脳トレになる絵です。
歴史教科書掲載の江戸3大改革の1つ、『天保の改革(てんぽうのかいかく)』で1841年~43年の2年間、ギッチギチに締め上げられた大衆文化の担い手国芳の鮮やかな反撃作品。
この改革、禁令がなんの叩き売りだと思うくらいにバンバン出されて、江戸庶民は大打撃を受けます。
結果、猛反発でわずか2年で主導者の老中水野忠邦は失脚しましたが、その間の取締りは本当に酷かった。
以前【平成中村座】のレポートでも紹介したように、中村勘九郎・七之助兄弟の中村屋一門のご先祖も、それまで江戸の繁華街にあった芝居小屋を当時ド郊外の田んぼしかなかった浅草の猿若町に移転させられ、落語の寄席も200以上あったのを13席と1/10以下まで減らされています。
違反者への罰則も苛烈で、庶民の色恋をテーマにした人情本作家の為永春水(ためなが しゅんすい)は手鎖50日の刑罰を受け(金属製の手錠をはめられたまま50日間自宅軟禁)、あまりのストレスに飲酒に走ってアルコール中毒症状で2年後に死亡しています。
そんな弾圧真っ只中に発表された絵は、一見風刺とは分からずしれっと市場に出回りましたが、いつからかこれは寓意を込めた謎解き絵で、天保の改革を強烈に風刺していると江戸庶民から大評判になったのです。
タイトルの通り題材は平安時代の武士、源頼光と配下による妖怪の土蜘蛛(つちぐも)退治に題をとった作品ですが、知ってる範囲での寓意はこんな感じ。
妖怪に祟られて顔色の悪い源頼光=将軍徳川家慶
あんまり主君を気にしてなさそうな部下四天王=水野忠邦を筆頭にした幕府高官4名
【妖怪集団の百鬼夜行】
①蛸妖怪=蛸→タコ→凧。派手な大型凧の禁止令
②木魚妖怪=集会(集団で集まる木魚講)禁止令
③歯のないろくろ首=歯が無い→歯無し→はなし→噺屋(寄席)。寄席200以上→13にまで取り潰し。
④ギョロ目の鼠妖怪=目を寄せて睨む『にらみ』がお家芸の歌舞伎役者・市川團十郎。当時は7代目。贅沢し過ぎで江戸追放。
⑤スイカ妖怪=水菓子(スイカとかビワとかデザート)。季節はずれの野菜や高級フルーツの売買禁止。
他にも一番大きい土蜘蛛の額の模様が老中水野により失脚させられた藩の家紋だとか、多分色々あったはずですが割愛。。。
幕政で弾圧された民衆がたくさん将軍や老中を恨んで呪って祟ってますという意味が込められているのです。
でも傍目には解からない。いろんな見立てや時事情報と想像力を駆使して初めて見える寓意画。
頭すごく使いますね、もはや江戸版の脳トレ教材。民衆は夢中になって謎解きをしたそうです。
あまりに評判になり過ぎたので幕府から呼び出されない内にと、板元(印刷所兼書店みたいなもの)伊場屋さんが表向き絵を自主回収するという神フォローで、板元も国芳もお咎めはなかったそうです。
このギリギリの攻防エピソード込みでお気に入り作品です。
②《猫の百めんそう》ねこのひゃくめんそう
1841(天保12)年 団扇絵
国芳の本職、浮世絵も贅沢禁止の対象になり、春画、歌舞伎役者絵、遊女、芸者などの美人画を描くことが禁止されます。
加えて錦絵も三枚続というサイズ指定、色摺りは7~8度摺まで、価格を16文以下・・・イラっとする細かさ。
しかし国芳、この禁令に『じゃあ人じゃなければ良いよね?』と言わんばかりに発表したのがこの作品。
団扇に貼り付ける扇面に描かれている猫。
すごいです、猫なのに人間の顔というか個性がしっかり描かれている役者絵・・・じゃなくて猫絵。
役者の名前は書いてなくても、顔を見れば◎◎屋の●●だよね~と頷ける国芳の画力と、幕府の取締りをすり抜ける発想に脱帽です。
他にも雀、狸、金魚等の戯画作品を発表し、人気シリーズに成長。
③《荷宝蔵壁のむだ書》にたからぐらかべのむだがき
1847(弘化4)年頃 大判錦絵三枚続
改革は終わってからの発表ですが、個人的に好きな作品です。
名前の通り、どこかの蔵の土壁のむだ書=落書き。贅沢禁止令で歌舞伎役者絵、美人画を禁止された禁令すり抜けの技其の2ですね。
絶妙なヘタウマ絵です。今度は猫ではなくて人を描いてますが、あくまでむだ書=落書き。
壁(土壁)への落書きなので、釘で引っ搔いて描く感じに直線が多かったり余計な線が二重になってたり。
漫画のペン入れ前の下書きみたいな感じです。とは言え誰を描いてるかは一目瞭然。
でも安心してください、役者絵じゃないので。落書きです(笑)
②③のような役者絵じゃないよ猫だし、落書きだし。風俗画じゃないよ、金魚だし等々。。。
のらりくらりと作品を作り続け、江戸庶民の溜飲を下げつつ実質お咎め無しで乗り切った国芳(呼び出しは何度かくらっていたようですが)。
本当に頭の良い人だな―と感嘆します。
幕府側はウナギを掴むかのようにスルンと躱す国芳の絵にイライラと血圧を上げていたのではないでしょうか。
絵筆で反骨の意志を示し続けた多才な江戸っ子に、令和の小江戸庶民からも拍手喝采を贈りたいと思います。
国芳お好きならコスパも良いし、観覧お勧めです。
が、ちょっと休憩椅子が少ないのと作品数が多いので、自分なりのテーマを持って観るのも良いかもしれません。
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