特別展「恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造」
上野の森美術館|東京都
開催期間: ~
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恐竜画 見てきたような 色を塗り
21世紀の現代、恐竜に関する最新の研究が進んでるのは確かだが、ポピュラーな主役級のやつらの姿カタチは私らが子どもの頃(昭和中期)から変わってはいない。
チラノザウルスもトリケラトプスもステゴザウルスもブロントザウルスもプテラノドンも、あの雄姿でジュラ紀や白亜紀の地球上を闊歩している。
しかしながら、何かで読んだ受け売りだが、依然としてほとんど不明なのが、からだの色なんですと。
姿カタチはわかっても、色だけは想像の域を脱することはできないんだそう。
だから、毎年どこかでやってる恐竜展に出現するやつらの体色は、まあ大体がグレーだったり褐色だったりと、少年時代の記憶そのままに生き続けてるわけだ。
それでも「恐竜展」という三文字は、我々男子にとっては魅力的だ。
西にチラノ出現とあれば胸の鼓動が鳴りやまず、東にプテラ飛来とあらばこちらも飛んで行きたくなる。
全部行きたいのは山々なれど、やはり肝心なのは中身だ。
この展覧会も、神戸展に行く機会は何度かあったのだが、その展示が「絵」だけだとのことで、行かないで終わってた。
上記したように、姿カタチは昔と変わってないしね。
ところが、日曜美術館アートシーンで当展が紹介されたのを見て驚いた。「こ、この絵はなんじゃ!」
恐竜画というジャンルは昔からあるが、現代作家が描くとかくもリアルで美しい絵になるのか!
兵庫県立美に行っておくべきだった。痛恨の極み。
不幸中の幸い、マチスを見に上京する時期に合致して、上野の森美に巡回してる。マチス展の後にいそいそとやって来た。
入場料はなんと2300円! たっけえなあと思うも客は少なくてよかった。ゆっくりじっくり鑑賞できた。
まずは、お約束の昔のモノクロ画から始まる。
ファンタジーの世界に登場するドラゴンの延長線とでも言える恐竜画は、どこか懐かしく感じる。
ただ、恐竜学者たちの真摯な研究成果でもあるので、襟を正して見ねばならぬ。
19世紀初頭に発見された恐竜、それは如何様な生物だったのか誰も知らない。
J.マーティンやB.W.ホーキンスが想像力を駆使して描いた絵を私は決して滑稽などとは思わない。
そして19世紀末、いよいよ恐竜画の嚆矢と言っていい巨匠が登場する。C.R.ナイトだ。
このアメリカ人画家が描いた恐竜は今現在描かれている恐竜と何ら変わっていない。恐竜画の開祖であり、リスペクトの対象であろう。
今回やってきたナイト作品の多くはプリンストン大所蔵品で、タイトルが《生息紀、場所》で表されている。
例えばステゴザウルスを描いた作品では、《ジュラ紀 - ユタ》というふうに。
恐竜少年が一番興奮するのはたぶん《白亜紀 - モンタナ》だろう。なんたって、チラノとトリケラが一触即発状態で睨みあってるんだもんね。
米国州だけじゃなく、ドイツ、イングランド、モンゴル等々、世界各地に恐竜はいたんだと彼の絵は教えてくれる。
ナイトに続いて登場する大御所が、チェコのZ.ブリアンだ。
1940~60年代ぐらいの作品は、恐竜発見以来1世紀を経て到達した恐竜画というジャンルの一つの完成形だと思う。
少年時代に我々が心躍らせた恐竜を描いた日本人画家たちのバイブルとなったのはおそらくブリアンの絵だろう。
もう一つ、ブリアンが日本人に影響を与えたのは1950年の作品《イグアノドン・ベルニサルテンシス》だ。
このイグアノドンの立ち姿はまさにゴジラ。日本人としてゴジラファンとして、ブリアンには感謝せねば。
展覧会中盤は、その日本での恐竜受容史がテーマだ。
出展品のほとんどはジャズピアニスト田村博さんのコレクションで、明治から昭和の文献類が興味深い。
中でも個人的に嬉しかった展示品が二点ある。
一つは60年代の少年サンデーの恐竜特集記事。私の恐竜知識はサンデーやマガジンから得たものがほとんどだから。
もう一つが、小畠郁生の著書「恐竜博物館」。
カッパブックスで出たこの本を持ってたり読んだりしたのではなく、小畠郁生という恐竜大家を漏らさずに取り上げてくれたことが何より嬉しかった。
昭和40年代に出てた子供向け恐竜図鑑の類の監修者には、小畠郁生の名は必ずあった。
もちろん私も図鑑は持っていた。今も実家の押し入れの奥に残っているだろうか。
この日本人コーナーでは、フィギュアや模型の三次元作品も恐竜コミックもあったりする中、異質だったのは福沢一郎の絵画二点、《爬虫類はびこる》と《爬虫類滅びる》。
日本政界の派閥を爬虫類に見立てて盛衰を描いたんだそう。1974年作品だから、立花隆の文春記事の後、田中角栄が首相退陣した年だ。
福沢は角栄末期政権を見て恐竜滅亡になぞらえた。もうこれで派閥政治も終わるだろうと。
その後50年、現状は見ての通りだ。派閥という恐竜は滅亡どころか隆盛を誇る。しぶといねえ(笑)
さて、当企画展のオーラスが最大の目玉コーナーだ。すなわち、現代の恐竜画。
とにかく、実物を見てほしい。恐竜の絵なんてどれも一緒だろと思ってたかたは特に。
「講釈師 見て来たような 嘘を言い」とはよく言ったもんだが、現代の恐竜画家もまるでタイムトラベルして写生したかのような迫真の絵を描いている。
で、その体色や模様はすべて想像なんだから驚愕だ。
登場する作家は外国人12名、日本人3名。
福井県立恐竜博物館からやって来たD.ヘンダーソンの絵は、恐竜をモチーフにした超一流の写実絵画ではないか。
インディアナポリス子供博物館から海を越えて襲来した恐竜たちも、ものすごくかっこいい。
疾走するチラノを描いたJ.ビンドン《嵐の最前線》は当展での私的NO.1だ。
そして、日本人では小田隆。日本にもこんなものすごい恐竜画家がいたなんて。不覚にも初めて知った。
ショップで小田さん作品の絵ハガキ売ってなかったのが何とも残念。
旅先で行く美術展での図録はよほどのお気に入りでないと買わない私だが、当展のは1も2もなく購入。重たかったけど背負って帰った。
そして自宅で、愛でるようにページをめくり、2億年前へとワープだ。
VRは装着せずとも、眼前には恐竜たちが歩き、走り、泳ぎ、飛んでいる。