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みちのく いとしい仏たち

みちのく いとしい仏たち

東京ステーションギャラリー|東京都

開催期間:

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キュッと抱っこしたくなる、ギュッと詰まった仏さま

鬼やらいの節分目前にようやくの訪問。会場の東京ステーションギャラリーはJR東京駅直結でアクセスがダントツです。
予約制ではない平日の夜会場入りしましたが国宝・重文の無い知名度低めな仏像の展覧会としては混雑とはいかないものの盛況で驚きました。

青森・岩手・秋田の東北3県から蒐集した木像約130点を紹介し、仏像というより民間信仰のかたちについて紹介しています。
国内平定された江戸時代、ある程度の寺院本堂の形状や「荘厳(しょうごん)=見栄えを考慮した仏像の装飾や配置」が均一化されて立派に祀られるようになった仏像たち。
展示品はその対になるような、地方の村々の小さなお堂や祠、民家の神棚や護符替わりに懐に忍ばせていた、生活に根付いた『御守り』の仏さまたちです。
運慶快慶のような仏師でない、大工さんや地元木工品の職人さん達によって彫られた仏さまは、端正な顔立ちや美しい領巾を纏う仏像とは真逆というか異質の様相。
顔立ちも粗削りでアルカイックスマイル的な微笑みも無く、分かり易く笑顔だったりチベスナ?みたいな真顔だったり、ちょっとテキトーな造作で不自然に短足だったり。悪鬼なのに正座して行儀良かったりとなんだかチグハグ。
そして最も特徴的なのはその大きさ。1メートル以上のものはほぼ無くて、半分くらいは片手で持てる缶コーヒーサイズ。大きい物でも1人で多分抱えられるくらいです。
けれど1点1点の地理・歴史背景考察の伸びしろや民間信仰や習俗等々、小さな仏にギュッと詰まった引き出しの多さにちょっと興奮してきてしまいます。

そんな十人十色な展示の中で、いくつかの独断注目作を。

①山犬像(岩手県八幡市)と厩猿像(岩手県二戸市)※どちらも木製
2点別々の作品ですが、動物モチーフでセット紹介。
どちらもシンプルな造形で、彩色は剥落し木の地色一色。フォルムは北欧の動物モチーフグッズになりそうな愛嬌があります。
【山犬像】は子供が跨るくらいの、ちょうど柴犬サイズ。
明治時代の作品で、昭和頃までは実際地元の子供たちが村祭り等で跨ったりできたそうです。
【山犬ヤマイヌ】は犬ではなくて、狼。現在は絶滅してしまってお目にかかれません(泣)が、東北に限らず日本全国の山間部にはかつてニホンオオカミが棲息していました。
田んぼを造るのが難しい山間部では、麦や蕎麦などの農作物を売ることでお米を得ていたので、畑を荒らす鹿や猪の獣害は死活問題。
狼は害獣を捕食して畑と農作物を守る、農業の守り神「お犬さま」として親しまれる存在でした。
もう1つの【厩猿】は手のひらサイズの可愛い魔除けというか縁起物。
中国由来の民間信仰ですが、厩に猿の頭蓋骨や手の骨を祀って厩の火災防止、牛馬の無病や安産などを祈願したものです。
私が知ったのはお正月の縁起物でお馴染みの「猿回し」の芸の由来をたまたま調べたら【厩猿】だったからなのですが。
動力の限られた時代、牛や馬は人間の生活を支える大切な存在なので、それを守護する【厩猿】も身近な存在だったようです。これは記録より口承と共に伝えられることが多く、都市部では見ない貴重な遺物。【厩猿像】も【山犬像】も、シカや熊の獣害に今も頭を悩ませる里山や人と動物との関わりを考えてしまいます。

②多聞天像(青森県今別市)本覚寺蔵
色々な人の願いをギュウギュウに詰め込んだ仏さまの中でもTOP3に入る面白さだなと感心した像です。
青森県最北端の港町、今別の本覚寺の多聞天、兼 閻魔大王、兼 大黒天、兼 竜神像。4つ兼任は凄いです(笑)。
北の方角を守護する多聞天は、通常甲冑姿で手に宝塔と三叉戟を持って邪鬼を踏みつけてるんですが、この多聞天、甲冑着ていません。
宝塔と三叉戟は持っていますが、衣服と厳つい顔と衣冠姿がなぜか閻魔様。
そしていからせた肩にちょっと貫禄のあるお腹がふっくらと。。。。お腹には大黒天さまを主張する宝珠が彫り込まれています。
極めつけは背中になんと竜を背負ってます。多聞天の頭の上に顎を突き出している竜の彫刻も見事な主張。でも通常、多聞天て竜背負ってないんですけど。
津軽半島最北端と言えば、現在も大間のマグロで有名な漁業エリア。
この像には海に面した厳しい自然環境の中、多くの漁師たちの安全を祈願し、豊漁で人が豊かになるよう、海が風雪で荒れる事のないよう、善い行いで人々の心が神仏に正しく導かれるようにと、暮らしていくたくさんの人々の願いに全対応できる姿をしています。
短いビデオ紹介では、今も漁師さん達が出発前に祈念する姿が映り、木魚ではなく勇壮な和太鼓拍子のお経になんだかより気合が入るなと手に力が入ってしまいました。

③地蔵菩薩立像17体(青森県七戸町)※右衛門四良作
展覧会の中で、いちばん”みちのくの仏さん”らしいと思った仏像です。
大きさは大体高さが15cm直径5cmくらいで、どれもこれも片手で握りこめるサイズ。
作者の右衛門四良えもんしろう氏は初耳ですが、青森の旧家の当主で大工さんでもあったそうです。
18世紀中~後期に多くの仏像などを作って活躍したそうで、17体の仏像はそれぞれの個人宅から一軒一軒訪ねて蒐集したものなのだとか。
鑿と小刀で彫ったであろうお地蔵様の顔は皆個性がありつつも穏やかで、それでいてどっかで見たような…と親近感の湧く顔立ち。
みんな真っ黒なのも、おそらく古民家の天井の木材のように囲炉裏や蝋燭の煤に長い年月炙られたのではないかなと思います。
こんなに小さいのに200年以上も損なうことなく在るのは、大切に各家庭で受け継がれて来たのだろうとじんわり温かい気分になります。
なんというか、災害で非難する時とか受験でここぞと心の支えが欲しくなる時、しっかり握り締めて懐に入れたくなる仏さまたちです。

この他にも『起き上がり小法師(こぼし)』みたいにまるい達磨像に、錫杖の代わりに金太郎よろしく鉞(まさかり)を持つ役行者像、近所のおじいちゃんに似たような顔がいたな、と記憶が刺激される庶民的な冥界十王像と、親近感溢れる仏さまたちが並びます。
美術というより、民俗学や歴史習俗を知る機会として久しぶりに大満足な展覧会でした。
巡回は去年の岩手がスタートで、今回の東京会場がラストなので、見逃しの方はお早めに。

会場:東京ステーションギャラリー(JR東京駅 丸の内北口 改札前)
会期:2023年12月2日(土)〜2024年2月12日(月・振)
休館日:月曜日(2/12は開館)
開館時間:10:00~18:00(金曜日~20:00) *入館は閉館30分前まで
入館料:一般1,400円、高校・大学生1,200円、中学生以下無料
詳しくは(https://www.ejrcf.or.jp/gallery/)

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