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民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある

民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある

大阪中之島美術館|大阪府

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「民藝」を現在の生活にどのように活かしていくのか。

民藝の展覧会、割と多いです。
最近も大きな展覧会があった・・・「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」@東京国立近美、昨年の春先まで開催されていました。これまでの「民藝展」といえば柳宗悦の生涯を追いながらの展覧会が多く開催されて来たようです。あまりにも偉大な思想家?理論家?哲学者?美術史家?・・・故に。そこに引っ張られて来たようです。
そもそも今では有名なお話ですが「民藝」という語も「民衆的工藝」から宗悦の造語です。「民芸」と表記すると、お手軽なお土産物のイメージが付いてきます。
民藝展となれば柳宗悦と離れて展覧会が成立するわけではありませんが、日本民藝館の所蔵を中心にして150件ほどの展示品を「衣食住」のテーマから民藝を見て行こう(「紐解く」とHPなどには説明されています)とするものでした。
民藝の展覧会、「民藝」に関して宗悦が用いた「用の美」や「下手もの」「直観」などの言葉が先走りしていた?私の中で勝手に言葉だけが居座っていたように思います。
「暮らしのなかにある美」を宗悦は用語として表現しようとしたのかもしれません。
柳宗悦の特異な審美眼は、私たちとはかけ離れて「利休」に近かったのかもなぁと前々から思っておりましたが、本展で自分の中で「やっぱりな!」と思いました。

皆さんは大阪に「大阪日本民芸館」なるものがあるのをご存じでしょうか?
私にとっては、京都よりも遠く感じてしまう陸の孤島のような万博記念公園の中にあるので、何年かに一度訪れるのですが、70年の万博当時の姿をとどめた、良いところなのです。こちらのミュージアムショップを見て回るのも大好きです。
そして、関西人にとって「民藝」と言えば、大山崎山荘美術館です。1928年、御大礼記念国産振興東京博覧会のパビリオン「民藝館」をアサヒビール初代社長・山本爲三郎が買いとり、博覧会終了後、大阪の三国の自邸に移築、「三國荘」よばれます。大山崎山荘美術館では繰り返し「三國荘」の再現展示を開催してきました。あの重厚な山荘の建物に民藝のドーンとした作品が似合うのでした。今回の展覧会では、大阪民藝館も「三國荘」もすっぽりと抜け落ちておりました。
日本民藝館を建設するにあたって多額のお金をポンと出したのは、倉敷の大原孫三郎です。昔の大金持ちはスケールが違ってる!

この展覧会の目指すところは、実は「民藝」の現在とさらにその先にあるのかもしれません。盛り上がった民藝運動を全く知らない世代が殆どの現在において、世代間を繋ぐ役割を果たしたのは、宗悦の長男で、日本民藝館の館長も務めた、日本を代表するプロダクトデザイナーの柳宗理だったとあり、確かになぁとものすごく納得しました。

手間暇のかかった民藝の作品たちは、決してお手頃でもなく、重厚なものが多く重い。私なんぞは、ほぼ民藝の中のようなところで育ちましたが、現在は家族も少なくなり狭い所で暮らし、買い足さない、終活に向けてセッセと食器などを始末している状態で、民藝は美術館で観るものになっています。
「至れり尽くせりの家に住む代わりに、到らず尽くさずの家に住んで、却って自由な活き活きした暮しも出来る」とは濱田庄司の言葉です。さて皆さんはどちらを選びますか?

民藝の現在の産地においても後継者問題やその回りの道具(例えば、「小鹿田焼」なら今回の豪雨で被害を受けていらっしゃらないかととか、唐臼や登り窯を作れる職人さんがかなり高齢だとか、薪となる端材が調達しにくくなっているとか、「鳥越竹細工」の素材の竹が120年ぶりに一斉に花が咲いて枯れちゃってるとか、「丹波布」ならそれだけでは食べていけないとか)など課題も多いようです。
もちろん、「沖縄」のセクションもあります。歴史文化、気候風土が本土と全く違った沖縄は、宗悦にとって、民藝の人たちにとって特別な地でした。「琉球の存在は誠に奇跡のようであった」と宗悦は書き残しており、「自分たちの存在が沖縄の人々の仕事や感性に不要な刺激を与え、作られる品物に変化が生じるのを恐れた」ともありました。それが高じすぎて、「沖縄方言論争」へと発展していくのです。それは学者さんたち、外から見る人たちの身勝手なお話であり、アルアルなお話なのでした。

何だか日々世知辛く、どこまでも追ってくるデジタルな世の中で、身近にあるものの中に美を見出し、慈しみ、健やかで心豊かに暮らすヒントになるでしょうか。
最近展覧会が多く開催されるフィンランドの暮らしにも通じているような気もしています。

本展は、大阪を皮切りに全国を2年かけて巡回します。皆さんもお近くの会場へお出かけ下さい。

既に読んでいた本、今回読んだ本
・とりあえずは、泣ける小説 原田マハ著『リーチ先生』
・リーチ先生の種本 濱田庄司著『無盡蔵』
・『日本民藝館へいこう』
・『あたらしい教科書 民芸』←かなりお薦めです。

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