自然という書物 15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート
町田市立国際版画美術館|東京都
開催期間: ~
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すごいの一言。お腹いっぱい。
・アートアジェンダ(以下AA)の「自然という書物」企画展ページか、こちらの館の公式HPからyoutubeでの関連イベント動画が見られます。
かなりオタク度高いです(笑)
・ニコニコ美術館で配信ありましたので、2023.5/9現在はアーカイブが見られます。
youtubeイベント動画より、こちらの方が現地を巡りながらの解説なので
わかりやすいです。もし見るならこちらを先に見ることをお勧めいたします。
現在後期展示に入っているので、前期展示も見たかったぁ!という方には
特にお勧めです。
無料ですが、登録は必要です。
(ニコ美の回し者ではありません!)
では、行きます。
今回の展示、本当に超おすすめです。
既に図録が売り切れてます。
すごい、の一言でできたら終わらせたいくらいです(笑)。
ただ・・・前期早々に講演会聞きに行って、さらに後期展示に入ってからギャラリートークも聞きに行きましたが、文系オタク・フルスロットル状態なので人に内容説明するのが本当に難しい。超ハードル高い・・・(-_-;)。
一つには、前回こちらの版画美企画展はアートブログにさせて頂いてそこでも同じことを書いてるんですが、ここの展示は圧倒的に量が多い。もう半端ない。ギャラリートークで200点位と仰ってました。
しかも単眼鏡必須レベルの細密な版画がその量ですから、休み休み見ても眼球激痛(笑)。
もう一つは、これも企画者にギャラリートークで伺ったところ「わざとそうしてます」とのことでしたが、テーマが相当捻ってあるんですよね。その為展示も一筋縄で行かないように、「わ・ざ・と」そう配置されてます。
この素晴らしい文系・版画オタクの世界をどうやってたら読み解けるのかを考えてみたいと思います。
私が見て理解する上ですごく参考になったのは2つのキーワードでした。
一つ目が、もう売り切れてしまった図録の解説にあった「博物図譜」。
これ、実は会場の解説でわざと書かれていないと思います(もしどこかにちょろっと出てたらごめんなさいね・・・)。
今タイムリーに「らんまん」という連ドラやってて、多分、植物学者・牧野富太郎が植物を標本にしたり、観察して絵に描いたりしてると思うんですけど、つまりそういう類の絵(版画)です。
断言しますが、この企画展は「ヨーロッパの博物図譜が見られますよ」というものです。
ただそれだけじゃ済まないから文句として謳いにくいのも理解はできます。
4章構成になってますが、4章を除いては「博物図譜」というキーワードを頭に置いて見ると断然気が楽なはず。しかも1章から3章までは基本は時系列です。
では、何故企画者がその言葉を避けたのか。
それは1章「想像と現実のあわいー15、16世紀」を見ると非常にわかりやすい。
博物図譜としては「健康の庭」(1485年ドイツ)という薬効のある植物を中心とした植物誌が出てきます。
これが一発目なら「ああ、こういうのか」とわかりやすいと思うんですけど、その薬物誌の前、企画展初っ端にキリスト教の天地創造の版画が数点出てきます。AAの「自然という書物」企画展ページに「キリストの生涯注解」の写真が出てますね。
その中に植物や動物が描かれていて、それらは当然「神が創造したもの」ということです。
つまりこの考えが根底にあるとわからないと、この後出てくるヨーロッパの博物図譜や博物図譜のようなものが何故・どのように発展していったのか、理解するのについて行けないよ~ん、と示唆されているわけです。
同時にここが企画者の見てほしいところでもあると思います。
「博物図譜」って書いちゃうと、昔のものだから多少間違ってても、今の感覚で見ても科学的にきちんとしているものなんだろう、と思われるかもしれませんが、実は全然そうじゃないんですよね、と。
もっと言うと、今の科学になるまで相当あやしいことがいっぱいあって、割とつい最近までそうだったし、今もゼロじゃないかもしれない、世の中の当たり前を鵜吞みにしなさんなよ、と。
そこまで言ってもいいと思います。う~ん、文系全開だわ・・・。
そして「ヨーロッパの発展はキリスト教の普及活動とイコールの部分がある」という大前提がありつつも、ダーウィンの「種の起源」が展示されてるように、「いや、キリスト教もちろん大事だけど、やっぱり観察や事象からきちんと考えましょうよ」という今の感覚でいうちゃんとした科学も起こってくるわけで、両方ある。
両方あるけど画の中では明確な線も引けなくて、かなり混ざり合って、何百年も前の人たちが一生懸命考えて伝えようとしたことが、そこに一枚の画として存在するわけです。そこが面白いんだよ、と。
その為にあえて「博物図譜」という言葉を避けた、と私はそう思います。
もう一つの手掛かりは、講演会で指摘されていた「ヨーロッパは動植物の多様性が非常に少ない」ということです。
ギャラリートークでも触れられていましたが、キリスト教だけを発展させようとすれば当然ご存じのように異教との闘いや植民地支配なども起こってくるわけで、彼らは自分たちの住む場所を楽園に近づけるために、そして環境に多様性がある方が生き残りやすい(飢饉などに強い植物を探したり)とわかっていたので、色んな動植物を色んなことをしながら世界中から集めました。
キルヒャーの「ノアの方舟」がわかりやすいですね。
舟を輪切りにした状態で、動物図鑑みたいになってます。
また、メインビジュアルにあるような、アマゾンのジャングルみたいなところでキューピッドが矢を射ってる絵がありますが、これが象徴的でもあり、事実こうだった、とも言えるかと・・。
そう思って見ると、ただのきれいなすごい版画、から違う感覚も引き出されてくる気がします。
日本って動植物の多様性がすごくあるので、ここは敢えて指摘されないとわからなかったです。講演会で「はっ!」とましたね。
(※少し脱線します。興味ある方だけ。この施設にもポスター貼ってありましたが、東洋文庫ミュージアムで「フローラとファウナー動植物誌の東西交流」という展示が5/14までです。こちらの展示も上記の観点で見ると理解しやすいと思います。)
上記の二つを手掛かりに展示を見ていくと、めっちゃ博物図譜なやつがあって、その後に絵的にきれいな、または空想的な画があって、とわざとごちゃまぜになっているのがおわかりになるかと思います。それが冒頭の「わざと」です。
といいつつも。
ここも大きなポイントだと思いますが、もう画がすでにオタク度高いんですよ!
これも「博物図譜」を打ち出さなかったもう一つの理由だと思います。
骸骨がモデルみたいにポーズとってたり、お腹や頭蓋骨パカっと開いたまま何故かドヤ顔だったりの笑っちゃう系から、見た瞬間あまりの美しさにびっくりするようなヘッケルの作品とか、果てはウォルター・クレイン、ミュシャ(ちょっとだけど)、ビアズリー、モリス絡みのラスキン、エドワード・バーン・ジョーンズ、ヴァランスとか、よくここまでぶちこんだなぁ・・・と感心しながら引いてしまう位の質の凄さと量。
どれを勧めていいのか、あり過ぎてわからない・・・。
AAの「自然という書物」企画展ページにかなり沢山展示品の写真出てますが、グルー「植物解剖学」みたいな超細密画(この絵ちょうど一昨日行ったら出てましたね)、フンボルト「新大陸赤道地方紀行」みたいな大地や人間や動物や地球まで輪切りにしちゃったやつとか、面白いと思いません?
このページの写真でピンときたら絶対行った方がいい!
なかなかこんなに見られるもんじゃありませんよ!!
というのが企画展のレポートで・・・
さらにここ、常設があるんですよ(笑)
200点でふらふらになってから、さらに・・・。
特集展示「日本の自然と多色摺木版の世界」が6/11までです。
これがまた、個人的にどんぴしゃで。
前期後期合わせて105点(笑)。それ以外にページ替えあり。
点数から言ってもメインは広重・北斎の浮世絵でしょうけど、ケース展示の琳派コーナーがあって、少ないですが嵯峨本・芳中・抱一・池田孤邨・雪佳など。
ここで楽しかったのは江戸時代の画譜の展示。
疎いので作者の名前はわからないけど、お花の絵とかの和綴じ本が開かれて展示されていて、こういうの見るたびに手に取って全部めくってみたくなりますね。
ふらふらだからって見ないでとばしたら罰が当たります(笑)。
他にも個人の団体が展示をされてたみたいなのですが、時間的にそこまでたどり着けませんでした。
物販で過去企画展の図録セール中で、半額のもあります。ルオーなんてタイムリーなのに半額でしたね。
私は前期行ったときに「驚異の部屋」の図録悩んで買わなかったら早速売り切れてた・・・(-_-;)。
とにかくすごい。今回もすごかったよ、版画美は。
最後に。チケットをプレゼントして頂き、素晴らしい展覧会の鑑賞の機会を下さった、アートアジェンダ運営様に感謝です。
ありがとうございました。
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