芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル
三菱一号館美術館|東京都
開催期間: ~
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この絵師がすごい!幕末お江戸〜帝都東京を駆け抜けた浮世絵師【芳年】VS【芳幾】
4年ぶりの東京マラソンで約3万人がかつての江戸市街を華やかに(仮装的ルックスもいましたので(笑))駆けた日、ゴール地点の東京駅から徒歩5分の三菱一号館美術館で開催中の【芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル】展を鑑賞しました。
長期改修休館を前にしたメモリアルな展覧会は最後に輝いた浮世絵師2人のライバル対決がテーマです。
予備知識少なかったんですが、行けて良かったです!なかなか無かった満足感の展示品数と内容の濃さに満腹気分でした!
この場を借りて運営事務局様に感謝申し上げます。
動乱期の幕末→明治時代。袴からスーツ、髷(まげ)からざんばら髪+髭ルックが推奨され、あれよあれよと銀行・郵便・鉄道が出来てホントに忙しない明治初期。
嫌でもお上(新政府)の一声で変化する社会の中、絵を生業とする浮世絵師達にとっても、輸入される写真や活版技術に注文は激減、先行きの暗い時代でした。
そんな衰退の中でも描き続け、形を変えても己の作品を世に知らしめた浮世絵師、落合芳幾・月岡芳年。
展覧会は同じ師匠を持ち、一時は作品の共作もし、互いに競い合う2人が生み出した多くの傑作を見つめ、鑑賞の最後は2人の優劣を付箋で投票できる試み。会場は予約不要で入場可能です。参考までに訪問した日は混雑とまではいきませんが、人気作品の前は人だかりができる客入りでした。
音声ガイドは、アプリのダウンロードで視聴という令和仕様。語り部は講談師の神田山緑さんで、江戸っ子の節回しで軽快に解説していきます。
写真撮影は部屋毎に可・不可が掲示され、半分くらいは撮影可能でした。太っ腹ですね。遠慮なくパシャパシャ撮影。
まずは主役2人と師匠のおさらい。
月岡芳年つきおか よしとし(1839~1892)
歌川国芳晩年の弟子。11歳で入門し、14歳で合戦絵を任されるくらい抜群の才能の持ち主。
殺害現場などをテーマとして画中に血や血痕を色鮮やかに描く無惨絵の描き手としても知られ、「血まみれ芳年」という、呼ばれて嬉しいか微妙な二つ名もあります。
注文が激減する浮世絵に代わって新聞の挿絵で大成しましたが、繊細な神経のせいか後年精神病との戦い悩まされます。
過去帳に記された死因は「鬱憂狂」で、現代のうつ病に相当します。幕末→大震災→明治のストレスフルな時代ではさもありなんとも思いますが。
落合芳幾おちあい よしいく(1833~1904)
同じく歌川国芳門下の弟子ですが、芳年より年上の兄弟子。
17歳で入門し、22歳の時に安政の大地震の惨状を錦絵に描いて名をあげ、芳年との合作「英名二十八衆句」で本格的なデビューを果たしました。
明治以降は「毎日新聞」の前身となる「東京日日新聞」の創業立上げに加わって新聞挿絵で大成し、絵師には珍しい経済力も兼ね備えた人です。
ただ浮き沈みも激しくて挿絵、浮世絵、美人画、人形制作と手を広げ過ぎて逆に認知が高くなく、事業にも失敗したためか知名度が埋没気味。
歌川 国芳うたがわ くによし(1798年~1861年)
江戸時代末期を代表する浮世絵師で2人の師匠。斬新なデザイン構成と奇想天外なアイデア、確実なデッサン力に裏打ちされた風刺画で人気を博しました。
そして大のにゃんこ好き(ΦωΦ)
多頭飼いしていたようで、弟子の河鍋暁斎が出版した暁斎画談「暁斎幼時周三郎国芳へ入塾ノ図」に、猫に囲まれた国芳師匠の図があります。
これ見てるとSNSで人気になった【猫全部のせ朝食】で猫に囲まれながら猫と朝ごはんを食す栃木県の住職の姿がダブります( ´艸`)。
作品も好きですが、個性の強い弟子を70人以上も抱える面倒見のよい懐の深いところも好きですね。肝っ玉父さんというか。
弟子の古株の芳宗(よしむね・1817-80)なんかは十数回破門された(破門されてまた戻るループ)そうで、、、うん、ゆるくて素敵な一門です(笑)。
ちなみに国芳は弟子2人についてこのようにコメント。
「芳幾は器用に任せて筆を走らせば、画に覇気なく熱血なし、芳年は覇気に富めども不器用なり。
芳幾にして芳年の半分覇気あらんか、今の浮世絵師中その右に出る者なからんと」
訳:芳幾は技術があって器用だけど絵に気迫というか迫力がない。一方で、芳年は絵に迫力があるが技術が足りない。
芳幾の絵に芳年の半分の迫力があれば、当代一の絵師になれるだろう。
師匠も2人の短所と長所を解っていて、足して2で割ればちょうどよいのに・・・と思っていた模様。
展示に戻り、以下勝手にピックした注目作ご紹介。
①英名二十八衆句(えいめいにじゅうはっしゅうく)
芳年と芳幾が半分この14図ずつ描いている浮世絵木版画の連作。
ほぼ歌舞伎等の芝居が題材になり、だいたいが殺害現場の場面。鮮血が迸る血みどろ絵(無惨絵)です。
しかし、どれも歌舞伎の見得を切ったかのような象徴的な絵で強烈なインパクト。
特に芳年の【妲己の於百】だっきのおひゃく。江戸時代に最大の悪女と評された女性で、歌舞伎・小説・講談・落語とたくさんの題材で有名。京都祇園出身の遊女で大河ドラマ尺の犯罪⇛流転⇛結婚の繰り返し。画中の悪びれない堂々とした佇まいの於百と、無残に使い捨てされる元旦那様の1人(名前失念)の対比表現が凄いです。
②芳年武者无類(よしとし むしゃぶるい)
1883年から3年かけて出版された全32枚の武者絵傑作コンプリート。昨年の大河ドラマで人気を博した源頼朝・義経兄弟、北条時政パパや平将門、新田義貞に武田信玄や上杉謙信など歴史上のヒーロー&アンチヒーローらを大胆な構図で描き、全部格好良いです。
男性鑑賞者が熱心に見ていましたね。カードゲームで男の子がキャラクターのカードを収集するのが思い起こされます。
織田信長は無いのに強烈なアンチヒーロー松永久秀(3回主君変更して、4人目の主人の信長に2回謀反して焼死or爆死)がいる不思議セレクトも気になります。
③浮世よしづくし
師匠の国芳の作品。良しづくし=【良い】判定される事が細かくたくさん描かれていて、見ていてほっこりニコニコしてしまう作品です。
画面の中央に「よし」と真っ黒な太い大きな文字が配され、たくさんの「よし」人が取り囲んでいます。
赤ちゃんは「きげんがよし」、微笑む美女に男性が肩を叩かれて「夢でもよし」(笑)、手を揃えて待つ人は「しんぼうがよし」、鳥のフンが落ちて当たったら「縁起がよし」⇐謎な縁起。
そして作者の国芳本人もちゃっかりすみっこに。花押に使っている芳桐紋の着物を着て後ろ向きに猫をあやし「よしよしする国芳」・・・駄洒落?
この他【太平記英勇伝 】の武者絵もズラリと勢揃いして圧巻。美人画の【東京自慢十二ケ月】では都内各地の美人達がブロマイドのようですし、東京日日新聞の挿絵にも歌舞伎役者の市川団十郎の歌舞伎に魅了された西欧人紳士の絵や、生き別れた家族再会の新聞ネタ挿絵等、往時の活気溢れる世相が感じられる展示の数々に時間を忘れて見入ります。展示会場を繋ぐ案内パネルに可愛い応援キャラクター 【くにャよし】ネコがちらほらいるのも可愛い。
展示の最後には青年誌モーニング漫画『警視庁草紙』の展示コラボ案内パネルがあります。
漫画は戦後日本を代表する娯楽小説家の一人である山田 風太郎氏の原作で現在連載中なんですが、芳幾と芳年を主人公とした外伝『異聞・浮世絵草子』が掲載中なのです。本誌読みましたが、ひと言で云うと【このマンガがすごい!】。展覧会との相乗効果が本当に高く、推奨せずにいられません。購入確定。
鑑賞するとはちきれんばかりに満腹になる芳幾・芳年展。巡回予定もあるようなので、今後も公式HP要チェックです。
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