
三井記念美術館コレクション名品展 自然が彩る かたちとこころ -絵画・茶道具・調度品・能装束など-
三井記念美術館|東京都
開催期間: ~
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作品はあるべき場所で生命力を放つ
『雪松図屏風』をこれほど美しく感じたのはこの美術館だったからだと思う。以前とはまったく異なる印象に驚いた。松に積もる雪は白さが冴えるだけではなく一瞬、雪は輝いて見えたのである。真冬の凍てつく靄。朝の日差しが新雪の結晶ひと粒一粒を照らすそのキラキラを感じた。画材の金粉ではない。たしかに水滴の反射であった。
ここは室内が明るく、作品と隔てるガラスとの距離が近いように思う。そのため、みな生命力に満ち、清涼な美を湛えているよう。『雪松図屏風』にとってはホームグランドであり、ここでこそ一層映えるのだと思った。
さて、今回の展示は自然を9つに分類して魅せる、がテーマである。理想化された自然、デフォルメされた自然、詩歌や物語世界の自然、実在の自然を描いた風景画や昆虫図もある。そうしたなかで惹かれたのは「銘を通して自然を愛でる」の一群であった。
たとえば、眺めた茶碗の印象が「銘」を知ったあとでは別モノのように変わる。興味のないものから心の琴線に触れるものへ。モノクロが色彩を帯びる。その転換が自身の内部で何度も起きるのを体験するのは面白かった。
抱一の襖絵は木の張り合わせで風を表す。描かずして視せる律の風は洒落ていた。リアルさを追求した染象牙の果物、自在置物、蒔絵箱や大胆な意匠の織物も、各々のフィルターを通した自然を投影していて秀逸。国宝茶碗の『卯花墻』はセットのように作られたお茶室のなかに佇んでいた。会場で上映される林屋晴三氏のお茶席の様子とも重なり、これも特別な感慨を抱かせた。
この美術館はリニューアルでしばらく休館とのこと。再開を待ち遠しく思いつつ、前室も含めて最後にもう一度全ルートをゆっくりと眺めた。選ばれた作品の趣向を凝らした陳列と体現する自然がゆるやかに溶け合い鑑賞者を楽しませる。重文である建物自体の厳かな雰囲気、重厚な壁やマントルピースなどの装飾も見応えがあった。