コシノヒロコ展 ーHIROKO KOSHINO EX・VISION TO RHE FUTURE 未来へー
兵庫県立美術館|兵庫県
開催期間: ~
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感覚を研ぎ澄ます衣服たち
大規模なファッション・デザイナー展を立て続けに開催する兵庫県立美術館。ミナペルホネン・皆川明の次はコシノヒロコ。
ミナペルホネンはどちらかというとテキスタイルにおける創意を重視した展示だったが、コシノヒロコ展はより造形物としての衣服にフォーカスしている。それらがいかにデザイナーの創造性から生まれ出たものかを示すように、展示室にはコシノヒロコによる多彩な絵画作品が並ぶ。モノトーンからカラフル、具象的なものから抽象作品まで。ここからもさまざまな表現を試みるデザイナーの創作の姿勢が目に浮かぶよう。そして、壁面のアートワークとしてだけでは収まらないというように、そこここに衣装を身に着けたマネキンが立っている。平面から立体へ、創作の尽きない愉しさが展示空間を迸っているように感じた。
なんとも欲張りと思わずにはいられないのが、各章はオノマトペがタイトルとなっていて、平面や立体造形の視覚的魅力にとどまらない感覚刺激が促されている。「ニョキニョキ」と題されたスペースにはタイツを履いた脚が壁から無数に突き出していて、ともすればセクシーというほうがお似合いの人形の美脚は、あれだけ壁から飛び出していると笑いを誘う。
極めつけは最後の展示室。ファッションのオーケストラが出現する。おそらく200点ほどの衣服作品が立ち並ぶ大空間。指揮棒を持ってそれらをとりまとめるヒロコマネキン(?)。BGMを聴いて楽しみつつ、あるいはそれがドビュッシーの曲である意味を考えながら、ここでは衣服たちのストーリーに想いを巡らせるのも一興かもしれない。
帽子やアクセサリーから靴まで、トータルでコーディネートされたマネキンの衣装は別世界の貴婦人たちといった雰囲気だ。全体としてももちろん美しいけれど、細部まで間近で鑑賞できるからこそ、一点一点の個性がより鮮明になる。たとえば、衣服の素材のなんと多様なこと。これはどんな感触なんだろうかと思わず触れたくなるような生地もたくさんあった。もちろん展示品なので触れることはできないが、視覚的に見ただけではわからない部分というのが、衣服の芸術性というか、おもしろさだろう。硬そうだけど柔らかいかもしれない。ざらざらしてそうだけどつやつやかもしれない。
コシノヒロコがアートワークを制作する一方で、ファッションでもこれだけ多様な作品を制作するのは、さまざまな感覚を総動員してもまだ尽きない想像力を、衣服が誘発してくれるからかもしれない、と個人的には思った。ひょっとすると、オノマトペというテーマは感覚を研ぎ澄ますためのそのひとつのきっかけとして、今回の展覧会の底流にあるものなのではないだろうか。
というようなことで、ファッション好きのひとは何時間でも見ていられるのだろうというくらい濃密な展覧会だった。これだけの(あるいはここに並んでいるもの以上の)作品を生み出してきたのかと思うと、驚嘆すると同時に、指揮棒一本のこのヒロコマネキンが恐ろしくも感じてしまうほどだった。