ポップ・アート 時代を変えた4人
山梨県立美術館|山梨県
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ウォーホルのマリリンで思い出す伊丹十三のアートレポート
ここ最近の山梨県立美術館の特別展は非常に気合が入っており、単館開催で行われる山梨ならではの充実した内容もそうだが(本サイト内にある先に開かれた皇室の美と山梨の拙レポートを参照のこと)学芸員の方々のご尽力もあってベル・エポックや超絶技巧など大変貴重で魅力的な巡回展が行われている。そして今夏に開かれる展覧会のテーマはポップ・アートで、夏休みの親子連れには打ってつけの企画である。
ポップ・アートに特化したコレクションでは世界有数という御仁の展覧会のなかでも特筆すべきは、このページの上部に掲載されているアンディ・ウォーホル「マリリン」の連作だろう。なかでも今展のポスターやフライヤーなどに使用されている上のバージョンが特に良い。ウォーホルのマリリンと聞くと、元祖マルチタレントと言われる故伊丹十三監督がテレビマンとして若かりし頃に企画・出演したテレビ朝日の「伊丹十三のアートレポート」を思い出す。
それはNHK「日曜美術館」のようなお堅い美術番組ではなく(それはそれで作者の経歴や人柄を知ることができて面白いのだが)、クリストやナム・ジュン・パイク、日本人では河原温など取りあげる現代アーティストの画風によって番組のフォーマットを変えてしまう。ウォーホルの回では大きな絵を抱えたヒッピーファッションの若き伊丹監督が質屋を訪ね、高齢の男性店主を相手に何とかそれを質に入れてお金にしようと作品の価値を得々と解説するシナリオ。
ウォーホルもシルクスクリーンも知らない店主がこれは本物でなく印刷だと言うのに対し、それが分かるとは大したものだと伊丹節を効かせつつこう続けて納得させる。「つまりね、この作品はね、印刷した本物なんです。これがこの作品の一番すごいところなんです。今ね図らずもおじさんはね、この作品の本質をね、見抜かれたわけです。それじゃあ一体この絵が誰の作品になるのか、一体これはウォーホールの本物の作品かどうかそれが疑わしいとおじさんは仰るでしょう。ね、実はね、本物かどうか分からない、これこそがこの作品のテーマなんです」。
これがもう半世紀前になる1970年代に深夜放送されたというその斬新さと伊丹監督の発想力に驚かされるが、残念なことにその番組自体はDVD化されていない。ウォーホルの回は以前とある展覧会で上映される機会もあったが、今は愛媛県松山市・伊丹十三記念館販売のDVD『13の顔を持つ男 伊丹十三の肖像』でギルバート&ジョージの回とともにその一部が見られる。のちの映画監督がその片鱗を見せたテレビマンなど様々な側面をぜひご覧頂ければ、伊丹ファンのひとりとしては有り難く大変幸甚である。
本題に入る前に前段が長くなったが、今回の展覧会でようやくその実物を目にする機会に恵まれた。先の番組で伊丹監督が質屋に持ち込んだのは1点だが、美術館の壁面に並ぶのは10点の連作である。それだけにこの連作の迫力にまず圧倒されるとともに、カラフルな作品の数々を観ていると不思議と心が落ち着く。事前の印象と異なり実際に本物を見るとビビッドながらそう違和感はなく、版画ならではの色彩の表現で微笑むその人の美しさをより一層強く感じる。
会場にはその他の代表作「キャンベル・スープ」(スープ缶デザインのミニドレスも)や「花」「牛」の連作なども一堂に並ぶ。ミュージアムショップは本展の図録やポストカードの他、作品があしらわれたマグネットやトートバッグ、チキンヌードルのキャンベル缶なども。ウォーホル自身は生前に「ポップアートはみんなのものだ」(後出『とらわれない言葉』)という言葉を残している。あまり難しく考えずにただみんなでアートを楽しめば良いのだろう。
地元ニュースを見ていると、この週末から夏休みに入った子どもも少なくないという。夏休み期間を利用して感受性が豊かな子どもたちにぜひ1人でも多く観てほしい。かくいう私自身も小さい時の記憶とは不思議なもので、子どもの頃に県立美術館で観たフランソワ・ポンポンの白い彫刻が心に深く残っている。子供心にも滑らかで思わず触ってみたくなったからだろう。そのことを大人になって同じ場所でポンポン展が開かれた折に作品と再会して思い出した。
「アンディ・ウォーホルって人間について知りたいと思ったら、僕の映画や絵をただ、表面的に見てくれればいい。そこに僕がいるから。裏には何もないんだ。」(アンディ・ウォーホル美術財団編、夏目大訳『とらわれない言葉 アンディ・ウォーホル』青志社刊より)
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