小林徳三郎
東京ステーションギャラリー|東京都
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素朴な眼差しが好き
東京駅辺りでの所要の合間に、時間つぶしでふと立ち寄り。
特段の期待感や予習もなし。そういう流れで、惹かれる作家に出会えると、嬉しいものです。この小林徳三郎回顧展は、まさにそうでした。
田中晴子学芸室長による図録の寄稿文の言葉。
今や知る人ぞ知る画家のひとり、身近な光景を明るく素朴なタッチでのどかに描き出した画家、と評されています。そもそも本展企画の初期段階では、フュウザン会や春陽会の関連画家を集めて深堀するつもりだった。それが、色々と資料を辿るうちに、小林徳三郎単独で進めようという流れに、巡回各館の総意で決まったらしい。こういうエピソードには興味をひかれます。その経緯の詳しいところは知る由もありませんが、結果的にはとても良かったのではないでしょうか。
若き日に徳三郎が参画した、フュウザン会。
大正時代初の短い時期に集合した、新しい芸術運動集団。主導メンバーの岸田劉生、萬鉄五郎、木村荘八らはモダンなポスト印象派に傾倒する一方で、徳三郎はやや時代遅れ的な日常描写のドガやロートレッへの志向だったようです。
フュウザン会参画は、徳三郎の30歳手前の頃。
東京美術学校を卒業し画壇に出るまでの間の、スタイル模索の時期。本展では萬鉄五郎、木村荘八、そして後輩の硲伊之助との交流が所どころに紹介されています。画家として、相互の影響も大きい時期のはず。なかでも、萬との相互影響の大きさは、本展を観ていて感じました。
木村荘八とは特に仲が良かったとのこと。
後年、徳三郎の没後に、木村から政子夫人に宛てた手紙が展示されています。これが泣かせる。国立近代美術館で没後回顧展が開催された直後に、その開催が徳三郎を敬服する硲伊之助の尽力によるものであったこと、そして、徳三郎の遺作品をよく整理して公立美術館に寄贈・寄託することを強く勧める内容の書簡です。万年筆書きで、一文字が2センチ角の大きく雑な続け字、叙情を挟まない簡潔な文章だが、これぞ真の友情。この助言にを受けて、政子夫人は実際に、本展にも出展されている2作を、なんと国立の東近美に寄贈しています。訴求力ある岸田や萬とは違い、画力はあれども稚拙の味、蕪雑さが持ち味の、地味な画風の徳三郎です。木村荘八はそれを評価し、将来に残すための行動を取った。そして約百年後に、人々が往き交う東京駅のギャラリーで、掘出しモノ的大回顧展が開催される契機を作った。そんな粋な計らいの書簡に感銘しました。
徳三郎の実働画業は約30年。
興味深いのは、ある時期に特定のモチーフに集中して取組んでいること。題材への動機や執着が実に強い。
・政子:最初は、美校時代からの付き合いの政子夫人。
習作として、顔を多数描いている。どれも瑞々しく、若き日の恋慕が筆致に表れている。観ていて少しこそばゆいが、素敵です。
・魚:40歳頃は、魚の静物画。
これで「鰯の徳さん」と言われるようになる。竹籠に3匹の《鰯》は出世作にして、確かに良作。他にも《鯵》《鯛》と作品が並ぶ。私は、「魚」モチーフは良いと思う。
・子供:40歳代半の主題は、我が子。
メインビジュアル《金魚を見る子供》を含め、私は、この「子供」モチーフが最良と思う。画角を切り取る眼差しの距離感や日常感が巧妙。そして、輪郭線などに使う濃茶の線描が画面を引き立てる。鍛え抜いたデッサン力を下地に、敢えて素朴味を醸す画風。これは、素朴感の対極で押出し感ある萬鉄五郎の人物画の黒線と、手法的には被るように思う。
・日常題材:50歳手前。
《西瓜》、《へちま》、板張廊下に寝そべる《子供たち》は、マチス的なビビッドな色遣いとともに、徳三郎らしくない訴求力(鉄五郎的)を発する。私は、これも好き。
・風景画:50歳代。
私には、この題材は凡庸な作が多いように思う。素朴画風の風景画となると、致し方なし。
但しそのなかで、1942年《海》は特別。ピンクと水色の色面ストロークで描く夕刻の海面・空は、大胆かつシンプルな構図に勢いが溢れる。後の1952年に東京近代美術館が開館し、翌年に日本画4作・洋画9作を初めて買入する。本作はその一つであり、所蔵番号はなんと「000001番」という名誉。因みに、他の洋画作品は黒田清輝《舞妓》(重要文化財)や萬鉄五郎《裸婦》というからすごい。
・強羅風景、渓流: 60歳頃以降。制作意欲は旺盛です。
私は、直ぐには食いつきませんでした。徳三郎にとって、流れる水はチャレンジだったのかなあ。
東京ステーションギャラリーの展覧会。
馴染みの薄い作家やジャンルを取り上げることが多いです。今年もそうでした。個人的には、ヒット率は5割程度ですが、これは凄いことです。なかでも今回の小林徳三郎回顧展は、力のこもった秀展。徳三郎&フュウザン会・春陽会を伝えて頂き、ありがとうございます。
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