特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」
東京国立博物館|東京都
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― なぜ、この7体だけの空間が人を1時間も留めるのか ―
東京国立博物館で開催中の特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」に行ってきた。
この展覧会は、一見すると非常に“質素”である。
展示室には仏像が7体あるだけ。急げば10分で見終えることもできる。
それでも多くの人がここで長い時間を過ごし、1時間前後じっと像と向き合ってしまう――不思議な魅力をもった空間だ。
■ 7体の国宝が創り出す「ほぼ当時の北円堂」
展示されているのは、奈良・興福寺北円堂に安置されている運慶作の像群である。
• 弥勒如来坐像(国宝)
• 無著菩薩立像(国宝)
• 世親菩薩立像(国宝)
• 四天王立像 4体(国宝)
本来、北円堂には9体の仏像が並んでいたが、両脇侍像は行方不明となり、現存するのは7体。
だが、会場には9体の安置状況を再現したCGが併せて提供され、当時に近い空気を感じることができる。
運慶の像が「堂内配置」という本来の姿に近いかたちで見られる展覧会は非常に稀で、これこそが本展の最大の価値だ。
■ 興福寺北円堂は“日本建国の祈り”の場である
北円堂は、藤原不比等の一周忌追善のために建立された。
火災と戦乱による度重なる焼失をくぐり抜け、1210年に運慶一門により再建されて今日に至る。
藤原不比等は、平城京遷都の実現、大宝律令の制定、『日本書紀』の完成など、国家体制を築きあげた人物だ。
父・中臣鎌足とともに藤原氏の基盤を築いたが、むしろ“実質的に日本国家の制度を作った中心人物”といってよい。
にもかかわらず、藤原不比等は日本で十分に評価されているとは言いがたい。
戦国武将や幕末の志士に比べ、文官は「物語」になりにくいためだろう。
しかし、統治制度や行政システムを構築した人物にこそ、現代のビジネスパーソンは学ぶべき点が多い。
むしろ徳川家康や豊臣秀吉、西郷隆盛よりも、藤原不比等こそが現代日本を最も深く形作った“建国のデザイナー”である。
■ この展覧会は、運慶を見る場であると同時に
「藤原不比等の祈りを体感する」場でもある
北円堂は、不比等の死後に家族と門弟が心血を注いで建てた祈りの空間だ。
その場に運慶が作り上げた仏像が並び、800年以上の時を経て、いま東京に再現されている。
だからこそ、この7体だけの静謐な空間には不思議な“密度”がある。
仏像を見るというより、歴史そのものと向き合うことになる。
10分で見終えることもできるが、足が止まってしまう。
誰もが1体の前で長く立ち尽くすのは、像そのものだけでなく、
不比等の祈り、運慶の技、鎌倉仏教の思想が重層的に迫ってくるからだ。