名古屋市美術館をめぐる4つの対話

はじめに.
新年早々、名古屋市美術館で「コレクション×現代美術 名古屋市美術館をめぐる4つの対話」展を見た。「アートの最前線に立つ作家たちは、名古屋市美術館をどのように見るのでしょうか?」という問いをもとに、愛知にゆかりのある斉と公平太、田村友一郎、蓮沼昌宏、三瓶玲奈の4人が、それぞれの新作と名古屋市美術館のコレクションを使って、新鮮な展示空間を作っていた。
展覧会のタイトルにある「対話」とは、お互いの価値観や感情の理解を深めるために、相手を尊重しながら、丁寧に話し合うことを意味する言葉だが、相手が人間ではなく物質(作品)の場合、どのように理解を深めるのか。はたして、相互理解を深め、新たな作品の魅力を発見できるのか、とても興味深い。それでは、順番に展示を見ていこう。
田村友一郎 × ジョナサン・ボロフスキー
展示の冒頭では、ボロフスキーの≪フライングマン≫が出迎えてくれる。普段、美術館の地下1階から地上2階までの吹き抜けの天井付近から観客を見下ろしている作品が、手の届きそうな高さにある。おかげで、その表情がよく見えるのだが、寝起きなのか、ぼんやりとした表情をしている。まるで夢の世界の住人のようだ。

展示室を進むと、目に留まるのは、天井付近から吊り下げられた金色の人物像だ。先ほどの≪フライングマン≫とは異なり、仰向けで、何かにすがろうと手を伸ばす姿が、彼の必死さを表している。その下には、卓球台が置かれ、さらに壁際の展示は、卓球台が展示台になっている。実際に卓球はできないが、作品を見た感想を誰かと卓球するように対話することを暗示しているのだろう。展示に使われる卓球台には、まだ余分があるようだし、対話の続きが気になるところだ。ところで、この金色の人物像は、2階の展示室から見下ろすことができる。彼の表情を見て、彼の叫びが想像できるだろうか。

斉と公平太 × アメデオ・モディリアーニ
この展示で驚くのは、まず、壁面に並んだ物量の多さだ。改めて、対話の相手に選ばれた≪おさげ髪の少女≫の作家であるモディリアーニの人気ぶりに気づかされる。≪おさげ髪の少女≫とは、言わずと知れた名古屋市美術館のコレクション展の看板娘である。彼女にまつわるグッズのあれこれを集め、丁寧な対話を重ねたようだ。

展示室を進むと、≪おさげ髪の少女≫の拡大模写がある。巨大な「少女」の肖像を見て、ある違和感を覚えた。それは、「少女」という言葉の持つ小柄な人物のイメージと、目の前の作品に描かれた巨大な人物のスケール感の差異に気づいたからだ。さて、皆さんは、どのように感じるか。地下のコレクション展の展示室にある≪おさげ髪の少女≫のオリジナルと、ぜひ見比べてほしい。

三瓶玲奈 × 桑山忠明、アンディ・ゴールズワージー
大型の作品が並んだ展示の奥に、このコーナーを見つけた。三瓶と桑山のどちらの作品も、とても静謐な印象だ。中央の三瓶の作品を見ると、左側の三瓶の作品と右側の桑山の作品が響きあい、このように変化したというストーリーが込められているようだ。その他に、ゴールズワージーの作品にみられる、連続する色の変化の効果も取り込まれているのだろう。3人の作家による時間を隔てた対話の経緯と、その成果が見て取りやすい展示になっている。

蓮沼昌宏 × マリア・イスキエルド、高松次郎
蓮沼の作品は、見たままの対象よりも、その影を強調したイメージを描いている。絵画作品に混じって、鏡を使った影絵の作品があり、とても良い展示のアクセントになっている。見方によっては、実際の作品より影の方が存在感を主張しており、主客転倒した印象がおもしろい。

本展に先立ち、蓮沼は名古屋駅桜通線の通路にある高松次郎の壁画の調査・清掃プロジェクトに参加した。高松の作品も影を主役とした作品だ。近いうちに、清掃された高松の壁画を見に行かなければなるまい。

おわりに
とても興味深い展覧会だった。一口に「対話」と言っても、本展で扱われる対話には、実際に人間同士で行う会話以外に、メールやチャットでの対話もあれば、残された資料や作品との内省的な対話も含まれる。対話したけど、分かり合えない場合もあるだろう。楽観、悲観を含め、幅の広い対話の可能性に気づかせてくれる展示だった。
話は変わり、美術館1階のエレベーター横に2026年のカレンダーが掲示されている。水野里奈による≪チューリップ≫というタイトルの作品を原画に使用した、とてもカラフルで明るい絵柄が目を引く。名古屋市美術館協力会の会員特典なので、興味のある方は実物を見てみては。

展覧会名 コレクション×現代美術 名古屋市美術館をめぐる4つの対話
会期 2026年1月9日から3月8日
会場 名古屋市美術館