あべのハルカス美術館開館10周年記念 円空-旅して、彫って、祈って-
あべのハルカス美術館|大阪府
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円空作のスマホ
最初はタイトルを「やはり野におけ円空仏」にするつもりだった。だけど、それじゃ当たり前すぎて何か他にないかと考えてて、ふと思った。
このなんとも大雑把でほほえましい木彫仏たちは、日本各地にあるとはいうものの、その各所在地では一か所に定置されてはおらず、近辺の村々を巡回してたのではなかろうか、と。
これすなわち、移動型の仏様、スマートホトケ。略してスマホだ。
もちろん、寺によっては「うちの寺宝だ、出張開帳などまかりならぬ。」というとこもあったろう。
が、当展に出てる円空仏のほとんどは人一人が小脇に抱えて持ち運べるようなものばかりだし、《千面菩薩像》や《観音三十三応現身立像》に至っては、数十個一組のハンディータイプのミニ仏たちだ。どれか一つを持っていきなよと寛大なお寺さんもあって不思議じゃない。
そんな「スマホ」は江戸時代から今日まで、地元のアイドルとして大事にされてきたに違いない。
アイドルって言葉も冷やかしじゃなくて、まさに訳語は「偶像」だからね。偶像崇拝の最たる宗教が仏教なんだから、布教の中心的存在としては奈良の大仏も円空仏も本質的には同じものだ。
あべのハルカス美で開催中の円空展は、とにかく愉快な気分にさせてもらえたいい展覧会だった。
訪問したのは2月中旬、奈良の不染鉄展からの帰路、近鉄鶴橋駅で降りて環状線に乗り換えて天王寺へ。平日の16時ごろだったが、客は結構多かった。
この美術館は、所蔵品を持たない会場提供オンリータイプで、年に4件くらいの企画展を比較的長い会期で、しかも会期中は無休でやってくれるのがいいね。
企画コンテンツも、私ら素人にもわかりやすくてとっつきやすいものばかりだから、毎回行きたくなる。
入場してすぐにあるのが円空が三十代半ばの最初期の作品《十一面観音菩薩立像》、《大日如来坐像》、《釈迦如来坐像》で、一見円空仏には見えない「まともな」仏様だ。
絵でも彫刻でも、抽象に走る作家には確たる腕があってこそというのは、まあ芸術家のお約束みたいなもんだが、円空も間違いなくそうだ。
弘前市西福寺にも若き日の円空仏二体があって、それを見たみうらじゅんさんは、「青の時代あってのピカソだからね。」と名言を吐かれた。
(出典:「見仏記 道草編」)
私も以前から抽象やミニマルの作品を見るたびに、「この作家に青の時代はあるのだろうか?」と疑ってかかっていたが、みうら説にわが意を得たりと自信を持った。
それはともかく、当展においでになった円空仏は、岐阜、愛知、三重からを主体に、北は栃木、埼玉、南は京都、滋賀、奈良まで、およそ160体。
青の時代仏以外は、どれもがおなじみ "THE 円空" の仏様たちだ。
中でも飛騨高山の千光寺所蔵仏が今回のハイライト。メインビジュアルの両面宿儺像は千光寺を開山したと伝えられる1600年前の異形の豪族だそうで、彫りが緻密な部類に入る。
上記「見仏記」の中でみうらさんは、円空仏の彫りの度合いを円空のその地への滞在期間で評してらっしゃる。
弘前・西福寺の二体は、「これ、滞在期間長いね。」と。
いとうせいこうさんは、それは慧眼だとして「いずれ『円空』という時間単位になるかも。」と書いておられる。
確かに、ズラリと並ぶ円空仏見てたら、これは1時間、これは半日、これは丸三日はかかってるなとかいろんな想像ができる。
一宿一飯で一体の仏様を彫るのを「1円空」とすると、当展に出てるほとんどは1~3円空ぐらいだろう(笑)
千光寺の両面宿儺は5円空ぐらい、最初に挙げた数物の《千面菩薩像》なんかは、0.1~0.5円空だね(笑)
仏像以外には、狛犬、烏天狗、明王、天、童子など多岐。柿本人麻呂なんてのもある。
そんな中で私が好きなのは《大黒天立像》。丸木を縦方向に二つに割ってそれぞれをレリーフ状に彫っていくのが円空スタイルなのだが、この大黒様は、ぶっとい丸太をそのまま生かして彫り込んだ肉厚像だ。
360度から鑑賞できるので、正面の温和なお顔と背中に担いだ大袋との一体感がよくわかって実にいい。傑作だ。
円空仏は、「目がセン」なのが最大の特長で、真横に一本線が最も多いタイプ。これに口角が上がってれば微笑んでるし、上がってなければ無表情に見える。
目じりが上がってれば怒りの表情になるかと思いきや、口角も上がってるので「怒りながら笑う人」みたいな憎めない仁王様や蔵王権現となる。
目が上に凸のアーチ型は、もうそれだけでスマイル仏だ。役行者や大黒天がこのタイプ。
円空仏はスマートホトケのスマホと書いたが、スマイルホトケのスマホでもある。
遠路はるばるやって来たスマホたちの大半は、おそらくご実家のお寺が雪に閉ざされて参拝休止中だから、外出許可が出たんでしょう。
当展会期は雪どけまで。その後はお寺に戻られます。
そしてまた来年2月には三井美術館へ。東京の方は1年お待ちください。
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