生誕140年 ユトリロ展
美術館「えき」KYOTO|京都府
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アル中画家が手にした武器とは
ユトリロの絵は見て本当に安心感がある。建物や通りや街の風景画ばかりでこれほど見る者を惹きつける画家もそうはいない。
絵を見て、あ、ユトリロだとすぐわかるのもいい。特に白の時代はユトリロの真骨頂なので「この絵誰のだ」クイズでも正解率高いと思う。
例えば、古今東西の西洋画家の人気投票やったとする。投票者一人につき第1位から3位までの3人を投票する方式。
1位ではゴッホ、ルノワール、セザンヌ、モネなんかの有名どころが票を集めて競い合うはずだ。
が、2位や3位になると他のいろんなクセ強画家が入ってきて、群雄割拠の様相を呈するのではなかろうか。
でも、そんな中に割って入ってくるのがユトリロで、1位の票は少なくても2位や3位にあげる人って意外と多いと思う。
そう、リンゴスターがビートルズ4人の人気投票で何位に入ると思うかと聞かれて、1位は無理だけど2位のトップにはなれると思うと答えたように。
まあ私の勝手な想像だから異論はありましょうが、ユトリロって、名前の響きがのどかなとこも味方して絵の好感度は高い部類に入る画家だと思う。
しかし、である。その画家の経歴を知った時、ユトリロほど作品との落差を感じる例は少ない。
画家が肉体的にせよ精神的にせよ病むことは珍しくないし、その中で残した作品に名作があることも史実が示すとおりだ。
ユトリロもそんな病人の一人であるが、他者と異なるのは病名がアルコール依存症だということ。
これが私には今回のユトリロ展まで解せないことだった。
アルコール依存症、俗称アル中の人を見たことありますか?
私はかつて、その患者と同じ職場にいたことがある。症状はいろいろあって仔細は書かないが、最も顕著なのは手の震えだ。字がまともに書けないのだ。
だから、ユトリロがアル中だったと知った後に作品を見たら、信じられなかったわけだ。
美しい線と正確な遠近法によるパリの風景は、アル中患者が描くには不可能だと思えたからだ。
症状が治まっているわずかな時間でキャンバスに向かったのは間違いなかろうが、今回の展覧会場にあった解説文に、「定規とコンパスを用いていた」とあったのを読んで長年の疑問が氷解した。
なるほどそうだったのか。定規でもコンパスでも分度器でも何でもいい、とにかくアル中の呪縛から逃れる術を見つけたことに拍手だ。
ユトリロを語るキーワードは3つ。白、アル中、母だ。
母バラドンとの二人展を十年近く前に見て以来の今回展覧会だったが、バラドン作品は1点のみでユトリロ作品でお腹いっぱいになれた。
白の時代も白から脱却した時代も、どれもいい絵だ。
えきKYOTO美術館は入口まで来たことはあったが、入場したのは今回が初めて。
百貨店内の一画なので、スペースは広くないし天井も低いけど、売り場とは切り離した場所にあるので横浜そごうみたいな催事場の延長感なく静かでいい。
作品は西山コレクションと八木コレクションの二つからで、特に前者は町田の奥地にある私設美術館とのことで行ってみたくなった。武相荘も近いしね。
展示会場出たらショップもあったので絵ハガキ買った。
ベタだけどユトリロと言えばこれの《可愛い聖体拝受者、トルシー=アン=ヴァロワの教会(エヌ県)》だ。
家で女房に見せたら、アラそんなのイロハのイじゃないと、絵ハガキコレクションブック引っ張り出してきたのを拝見すると、40年前の展覧会(結婚前!)でご購入済みでした(笑)
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