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特別展「本阿弥光悦の大宇宙」

特別展「本阿弥光悦の大宇宙」

東京国立博物館|東京都

開催期間:

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乙(オツ)な異風者、本阿弥光悦

人気を博している光悦展。開館時間延長の恩恵で時間ずらした休日の夕方に訪問です。

入口正面には代表作の舟橋蒔絵硯箱 (ふなばし まきえ すずりばこ)がスポットライトに淡く金色に輝きます。
デザインが斬新で、全面に波濤を描いた金の蒔絵。その黄金をぶった切るように黒の鉛板が張り付き、黒地に銀色の和歌文字が浮き上がります。
美しい作品(隣の部屋でどアップの8K映像紹介あります)ですが、「なんでこうしたんだろ?」とツッコみたくなる遊び心が光悦作品には見受けられます。
例えばこの鈴廣カマボコより膨らんだ山型に盛り上がった箱の蓋。
硯箱の蓋は平坦なのが当たり前で、開けて引っくり返した蓋を筆の台にしたりする情景を時代劇でたまに見ますけど、これは絶対に無理。
グラグラ揺れて台になんてならないし、むしろ邪魔(笑)。実用より、置いた美しさやテーマの表現が前面に出ている感じです。
なんていうか、『珍しいし、綺麗でしょ!ちゃんと飾って!』という主張を感じます(笑)

硯箱から視線を移すと2番目の展示は本阿弥光悦坐像 木製。初のお目見えです。これまで見た肖像の掛け軸はにこやかでふくふくしていて大黒様みたいな印象。木像の作者は孫の光甫と言われています。こっちが実物に近いお姿だろうなととっくり見てみると、6〜70歳代の好々爺像でした。
頬がふっくりとして柔和なツリ目が笑い皺を刻んでいます。
肖像よりも現実味があるけど、やはり芸術家というより愛想の良い商人寄合いの会頭さんのような雰囲気。
『異風者=人並みでない者』と呼ばれた光悦。
書家・陶芸家・作家・庭師と草鞋何足履いてるんだと言いたくなります。
ちなみに書は当時の達人ベスト3に入る(なぜか自分で言ってる(笑))る能書ぶり。
多才さにL・ダ・ヴィンチを引き合いに出す論評も見かけますが、多分レオナルドとは真逆に愛嬌と愛想が突出し、ダントツにモテたんじゃないかと思います。
芸術家という個人の技術を究めていくタイプとはちょっと異なりますね。

展覧会では4章の構成で何故光悦が多芸多才になり得たのか、彼の家庭環境、歴史的背景等を作品や資料を通して紹介しています。
勝手に注目作3点紹介。

①短刀 銘『兼氏 金象嵌花形見』14世紀 + 刻鞘変り塗忍草蒔絵合口腰刀 17世紀
光悦の指料(持ち歩いていた刀)です。
鎌倉時代の名刀をなんで武士でもない光悦が常時持っていたかというと、光悦が刀の研ぎと鑑定の名家出身だから。
より素晴らしいものを判断する鑑定能力と、刀の最高の状態を維持する研ぎの調整力が幼少期から鍛えられる環境だったのが伺えます。
そして鞘も美しく、色鮮やかな朱塗りに金の蒔絵で忍草が全面に描かれています。そもそも刀剣は刀を造る刀匠だけじゃなくて、鞘には鞘師、刀と鞘を繋ぐ金具を造る白銀師、鍔にも職人と、手間と幾人もの職人技術が詰まった美と技術の集大成。
そんな抜きん出た集大成の美を常に持ち歩いていた光悦はやはり『異風者』。

②鶴下絵三十六歌仙和歌巻 17世紀 ◎重要文化財
展覧会のメイン、絵師の俵屋宗達とのコラボ作品で大作。何mも広げた巻物は金銀と薄墨色の鶴が描かれ、その上から光悦が流麗な字でバランス良く和歌をしたためています。
絵と書どちらかでなく、2つで1作品となっている所が新境地。相乗効果で1つの和歌の世界を創り出しています。時間があれば3ループしたかった。。。

③赤楽兎文香合 17世紀 ◎重要文化財
光悦の描いたウサギが可愛い楽焼の香合です。
敢えて茶碗ではなく、この可愛いウサギ香合が光悦のセンスと茶目っ気を表してるんじゃないかなと思ったので。

本阿弥一族の記録『本阿弥行状記』で、「一生涯へつらい候事至てきらひの人=へつらうのが大嫌い」と評された光悦。
茶道の師匠が古田織部(凄い贅沢!!)で、豊臣に近いと見做されたのか、大阪の陣の後、徳川家康から鷹峯の地を拝領しました。拝領で土地もらうって字面だけならありがたいですけど、400年前の鷹峯は洛中から北に凄く外れた、追い剥ぎがウロウロしてそうな山の『超』僻地。実質都追放です。
でも、そんな僻地に光悦は本阿弥一族や仲良しの町衆、職人達を連れて移住し、芸術家の村を作ります。観世宗家と能の謡本を作って(ここでも豪華コラボ!)、樂家から陶芸の土を融通してもらって樂家の窯で作品を焼いて(めちゃくちゃ贅沢!)、漆工品で『光悦蒔絵』と称される斬新な意匠を創ったりと実績を積み、やがて徳川家に樂家や職人を逆紹介したりと芸術を生みつつも時の権力者に堂々渡り合っています。

展示の合作品を見ていると、権力者からの圧をどこ吹く風と、飄々と仲間や友人と創作に励む光悦が浮かびます。
なんだかなぁ~、、カッコいい。
しかし光悦って、あまり自己主張が強くないんですよね。素晴らしい共作発表しても、作品はきらびやかでも本人はどこか控えめ。
美の最先端を生み出しつつ、スマートで控えめって。。。きっとこういう人が乙オツな人なんだろうなぁとため息つきつつ感嘆し通しな展覧会でした。

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