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【特別展】日本画聖地巡礼 ―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門― 追体験する傑作誕生の地、発見する画家の心

【特別展】日本画聖地巡礼 ―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門― 追体験する傑作誕生の地、発見する画家の心

山種美術館|東京都

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〝聖地巡礼〟で追体験する名画の背景にある画家の想い

山種美術館「日本画聖地巡礼」展に行って来ました。〝聖地巡礼〟は映画やアニメでよく言われる言葉ですが、今回の展覧会は「日本画聖地巡礼」です。日本画としては新しい試みだそうで、名だたる日本画家たちが実際に訪れ描いた場所を、傑作が生まれた〝聖地〟として、北は北海道から南は沖縄まで、山﨑妙子館長をナビゲーターに、その地を巡ります。私たちは美術館に居ながらにして、名画の世界を追体験し、その地に立った画家たちの視点を再発見していこうというものです。作品の横には、館長が〝聖地巡礼〟した時の写真が置かれ、作家自身の言葉や、巡礼した館長の言葉が添えられていたりします。時の流れで随分と変わってしまった場所も面影そのままの場所もあり、添えられたコメントに、へぇーなるほどなどと思いつつ改めて作品を観直せ、来る前には「何これ!!」の思いでしたが、結果なかなか面白い企画だったと思います。サブタイトルが「〜東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門〜」となっているので、やはりこの5作以外もやや魁夷と土牛の作品が多かったです。が他、速水御舟《名樹散椿》や奥田元宋《奥入瀬(秋)》など、まだ他にもかなりの名作が並び、とてもみどころ満載の展覧会でした。
平日午前、混雑という程ではありませんが、結構にぎわっていました。撮影は一作品を除いて不可です。それからスマホの音声ガイドサービスがありますので、イヤホンをお持ちになると良いでしょう。
最初の作品は土牛の《鳴門》でした。何度も船に乗っては、渦潮の様子を何十枚も写生し、轟音を上げる渦の近くでは「後ろから家内に帯を掴んでもらい写生した」と言う談に、夢中になったら手の付けようもない画家土牛とそれを支える奥様のご苦労の様子が、見えたような気がしました。順不同になりますが、山種美術館の顔ともいえる速水御舟の《名樹散椿》。ここに描かれた五色八重散椿は、加藤清正が朝鮮から持ち帰り、豊臣秀吉により寺に寄進されたという逸話の残る名木だそうです。花の首から落ちる椿を武士たちは忌み嫌ったとされますが、この椿は、花弁がひとひらずつ散るため珍重されたそうです。御舟が描いたものは既にその銘木の何世だったか分かりませんが、御舟の椿の二世が、今は立派な大樹に成長した写真に、感動を覚えました。山種美術館所蔵49点にたった1点ですが、個人蔵作品吉田善彦《大仏殿春雪》もありました。この作品は一昨年の「速水御舟と吉田善彦―師弟による超絶技巧の競演」展で観てとても好きになりました。また出会えて嬉しかったです。豪快で大胆な作品が多い川端龍子のやや小ぶりな作品《月光》。龍子は1933年に「日光に題す」という個展を開き、東照宮の陽明門や眠り猫から、男体山、奥日光の石楠花に至るまで、多彩な主題による作品20点を出品したそうです。この《月光》では、大猷院の拝殿を対象として、下から上に仰ぎ見る視点のもと、建物の一部を切り取ったような構図で描き出しています。派手さを抑えてかえって荘厳さを纏う建築に、空にうっすらと浮かぶ月もすごく似合っていて、とても美しく面白いと思います。「華麗な中に多少の渋味を持つところが、家光その人の廟としてふさわしい」という龍子の言葉が響きます。橋本明治《朝陽桜》。ずっと以前に私も見に行ったことがあります。私の好きな横山操の作品《蒲原落雁(越路十景 のうち)》も観ることが出来ました。(昨年も《蒲原落雁》《越前雨晴》2点を観ているのですが)山種所蔵の彼の作品はさほど多くはない様でも、新潟近美さんに次ぐくらいかもしれません。《蒲原落雁》は横山が生まれ育った西蒲原郡の光景で、一面の雪原と、そこに生えるのはハザキという樹のみ、そして遠く日本海の雰囲気を漂わせる暗い空が、墨によって描き出されている作品です。さまざまに水墨表現を試み、伝統に竿を指しつつ、水墨が持つ可能性を探っていた時期の作品と言われています。力強さと繊細さで、風の音や遠い海鳴りも聞こえて来る感じの作品です。三春滝桜は樹齢1000年以上と言われています。その桜の一部を切り取って画面いっぱいに咲き誇っている様は一見、圧倒的な華やかさと生命力を感じさせています。けれど、明治は滝桜を写生するために四回にわたり三春町を訪れているそうです。「まず雪の降る冬に行った。枝ぶりが克明にわかった。ついでつぼみの時を見、花の盛りに訪れて、スケッチした。最後に葉桜をみて下絵を完成した」と述べており、満開の姿だけではなく、滝桜のさまざまな時期の姿を見て写し、桜の細部まで捉えようとしていることがわかり、なんだかすごく感動してしまいました。巨樹つながりで、山口華楊《木精》は以前からとても好きな作品です。京都・北野天満宮にある樹齢600年と伝わる大欅。豊臣秀吉がこの地に御土居を築いた時、すでに同じ場所にあったという名木で、今も成長を続けているわけですが、隣に置かれた巡礼写真も全く変わらない姿でした。永い年月この地にありこの地を守って来た巨樹は、神霊そのもののように思えます。「記憶の中のミミズクが、なにかの拍子に立ち現れて、木の根に止まった」と華楊。もしやしじま、巨樹自の精が華楊に見せたものかも知れませんね。東山魁夷の《京洛四季》が四点揃って並ぶのは初ということでした。実は魁夷はこのタイトルで20数点の作品を描き、そのうち四店が山種さんにあります。京都各地の四季に応じた自然美を描いた作品で、《春静(鷹峯)》、《緑潤う(修学院離宮)》、《秋彩(小倉山)》の3作は、横の写真から、今も当時とあまり変わらない風景を〝巡礼〟出来るようです。ただ冬の町家が連なる要法寺の周辺の光景は、現在ではすっかり変わってしまいました。作品に描かれた「京の町家」はその趣を失ってしまいました。個人的に私はこの《年暮る》が4作の中で一番好きです(リトでもなくオフセット同サイズですが寝室にあり何時も眺めていますが)。じっと観ていると、「東山ブルー」といわれた群青のグラデーションで画面全体が統一された絵の世界に、本当に包まれている感じになり、静けさの中、しんしんと降り積もる雪の微かな音や、厳かに鳴り響く除夜の鐘までもが、聞こえてくるようなのです。本当に作家川端氏の「京都は今描いて頂かないとなくなります」の言葉のように、失われてしまった風景と人々の営み‥。気に入った作品のいくつかを脈略無く挙げて来ましたが、京都に限らず、日本中あちこちで、失われていく景色の数々に思いを馳せながら、画家の心を揺らした色や光や畏怖や郷愁に思いを寄せながら、名画を観し〝聖地巡礼〟させて頂きました。
今回は時間がなくて残念なことに和菓子をいただけませんでした。メニュー写真は新緑っぽい色で紅葉でないけれど、「会期中、錦玉羹の中の葉の色が緑から赤に変わります」とあったのでぜひ、『渓流の秋』が食べたかったのですが‥、またの機会にはぜひと思っています。

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