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私たちは何者? ボーダレス・ドールズ

私たちは何者? ボーダレス・ドールズ

渋谷区立松濤美術館|東京都

開催期間:

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南極1号はいなかった

あやうく見逃すとこだった。当展にはR18の隠し部屋があることを。
そもそも私の興味は、この企画展の章立てで言うと第9章「ピュグマリオンの愛と欲望を映し出せ!」のみだと言っていい。
受付で順路は2階から地下1階へとお回りくださいと言われ、その通りに進み、全部見終わったと思って1階に戻って椅子に座って一服してて気づいた。
「あれ? たしか例のやつが出てたはずじゃ?」と。 
もらった展示リストを見直した。そして、第9章をまだ見てないことが判明したのだ。
2階にも地下1階にも「例のやつ」はなかった。じゃあ、どこだ?
ふと目をあげれば真正面にドアがあって、展示室となっているではないか!受付のおばちゃん、この部屋のことを何も言わなかったな。

時を戻そう。
松濤美術館は2回目の訪問。「ボーダレスドールズ」なる惹句に釣られてやってきた。
ここでいう「ボーダー」は国境じゃなくてジャンル。したがって、世界各国のお人形さんの展示会ではない。
出自はすべて日本で、古くは平安時代の呪詛人形から、21世紀の村上隆作品まで、いろんな人形をかき集めて来たという趣向。
人形と漢字2文字で書いてるが、当展では「にんぎょう」じゃなくて「ひとがた」のニュアンスが強い。
にんぎょうなら玩具、ひとがたなら人間の代わりという捉え方で良いだろう。

人間の代わりとは何か。これすなわち、実在のモデルがいる、あるいは生身の人間として扱うということ。
わかりやすいのは丑の刻参りの藁人形だ。さすがに当展には出てないが、前記した呪詛人形も同類だ。
むしろこっちのほうが名前まで書いてあるのでより具体的で恐ろしい。よく残ってたもんだ。お祓いはしてあるんだろうか。
青森県の《サンスケ》は藁人形ではあるが人さまを呪い殺すためのものではない。
山に入るときの縁起かつぎで13人目の仲間として帯同させるんだそう。面白いね。

実在のモデルのひとがたとしては、明治期の安本亀八の生人形にとどめをさす。
先ごろ全国巡回してた「リアルの行方」展に出てた相撲人形で私は安本を初めて知った。
ふくやま美術館で見たそれは、手足が分解された状態で出てて酷い展示だったが、今回は完全体で素晴らしい作品を拝めた。

生人形の文字通りの生生しさは凄みさえ感じると同時にある種の怖さ・悲しさもある。
松山市三津浜で保存されている吉村利三郎《松江の処刑》は当地に伝わる孝女松江の伝承がモデル。今にも首をはねられるシーンが涙を誘う。

生人形見てて思うのは、子供の頃に見た菊人形。あれって、本当に怖かった。今でも菊の香りを嗅ぐとちょっとヤバイ。
このボーダレスドールス展も秋にやって、菊人形出したら恐怖感倍増したと思う。

失礼、当展は恐怖の館ではありませんでした(笑) いたって真面目な人形展ですから、誤解なきよう。
ただ、他のかたのレビューにもあったように、もっと出してほしい作品や作家はある。
日本のTV番組史上に君臨してた人形劇が最たるもので、辻村ジュサブローの新八犬伝、ひとみ座のひょっこりひょうたん島の人形たちがいたら展覧会に華が添えられたはず。リカちゃん出すなら玉梓が怨霊やドン・ガバチョも呼んでやってほしかった。
もちろんこっちは「ひとがた」じゃなく「にんぎょう」だけど。
ちなみに、リカちゃん見るなら、弥生美術館で今やってる「いとしのレトロ玩具展」がオススメ。
そっちのほうが保存状態良くて、何より女子向け玩具ばかりの男子禁制的企画展なので。

さて、いよいよ第9章。
1階の小部屋で最初に登場するのは、嬉野武雄観光秘宝館からやってきた《有明夫人》。
本当は回転しながらムツゴロウとのコラボが見れるそうなんだけど、同館はすでに廃館。You Tubeで稼働中のお姿が見れます。
そして、最奥におわしますのが3体のダッチワイフ、もといラブドール様。
お三方とも美しい。シリコンゴムという新素材が登場して製造技術が格段に向上したせいだろう。
ただ衣服を纏ってらっしゃるので、これじゃ単なるよくできたマネキンだ。だからといって、脱いでもらうわけにはいかないし。嗚呼無情。

この業界というかメーカーさん、現在も地道に継続されてるみたい。当展にご協力いただいた「オリエント工業」さんには深く感謝申し上げます。
でも、キュレーターさんに言いたいのは、手を尽くしてでも「南極1号」を探し出して出展してほしかった。
今や伝説となったその商品、一度は見てみたいという殿方は少なくないはずだ。

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