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111年目の中原淳一展

111年目の中原淳一展

そごう美術館|神奈川県

開催期間:

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マルチクリエイター中原淳一の美の哲学に、心を揺さぶられた展覧会でした。

戦前から戦後にかけてファッション、インテリアデザイン、雑誌編集、イラストレーションなど、それから人形作家もと、領域を大きく超えたマルチクリエイターとも呼ぶべき多彩な活躍をしていた中原淳一の、クリエイションの全貌を紹介する展覧会です。そごうさんでは3度目の中原淳一展なんだとか‥(私は実はまだ2度目です)。今回は600点以上を集めた大規模回顧展で、原画などを中心に見どころ満載です。とりわけ、彼のデザインを実物の洋服や和服で展示したコーナーは一部撮影も可能でおすすめです。そごうさんは横浜を出た今の私にはとても遠いので、なかなか行かれず、会期末ぎりぎりになってしまいましたが、やっと行くことが出来ました。
「中原淳一」、実は母が結構好きでした。雑誌やポスターで見る淳一の描いたスタイルに似せて、時々趣味と、節約のためとで、祖母や私や自分の服を縫っていました。私は彼の絵が載った雑誌などを何枚も写して、それに塗り絵をして遊んでいた思い出があります。
昨年は、マリー・クワント、シャネル、クリスチャン・ディオール、イヴ・サン・ローランと、結構モード系の展覧会を多く観ました。ファッションに全く疎い私でも、なかなかに楽しかったです。でも淳一は、当然にして全然違う存在でした。雑誌が絵から写真の時代になっても、彼の描いた少女たちは、写真以上に生き生きとしていた感じがします。展覧会場は、はじめ可愛い子どもの絵がずらりで、可愛いけど‥、中原淳一ってこんなだった??と思って観ていると、『ひまわり』に『それいゆ』が出てくるあたりから、「コレコレ!!」って感じで懐かしく、大いに楽しませて頂きました。
古い雑誌を大事にとっていた母の気持ちは、実のところ分かりません。そのお宝を見て、私が憧れたのは、ただそのファッションやスタイルや大きなお眼目だけでなく、凛としていて知的で決して媚びず、自分の美しさを良くよく知っている雰囲気の『それいゆ』お姉さんたちでした。驚いたのは『それいゆ』は実は終戦からちょうど1年後の1946年8月15日、「再び人々が夢と希望を持って、美しい暮らしを志せる本をつくりたい」という思いから発刊されたのだということです。淳一は文化的な側面から、暮らしの豊かさを追求したようとしていました。モノも乏しく敗戦に打ちひしがれた日本女性に、自分らしさや内面からの美というものに気づいてもらおう、としていたようです。ちょっと憧れる裕福そうなそして、洗練されたファッションの、きれいなお姉さんたちや、健康そうな、でも元気過ぎない可愛らしい女の子たち。みな決して全く別世界のものごとではないのです。少し前の時代の慰問絵葉書など戦時下の作品にも、しっかり美の追求がされていました。「派手だ!」「贅沢だ!」と批判され排除されなかったのには、ちゃんと理由があったのだろうと思いました。防空服のデザインは流石に無理矢理のちぐはぐ感がありましたが‥。
会場内には沢山の垂れ幕があり、淳一のメッセージが記されていました。それが何気にグサグサ来ます。「(清潔で美しく整えられた部屋に住んでいるかどうかで)あなたには目に見えない雰囲気が身について、美しい印象を人に与えるのだということも知っていてください。」「花を飾る気持ちを忘れない」「たとえ小さな野の花でも庭の片隅に咲く花でも、そんな心のゆとりが欲しい。」「美しい服装とは決して着飾ることでもなく、また華やかな色彩をいうのでもありません。またたくさんのお金をかけてのみ、できるものでもありません。それは程よい調和の中に、あなた自身を生かすことです。言葉を換えれば、あなたらしくあることです。」「どんなにお金がかけられなくても、上手に美しい効果を見せられるひとは、やはり天才かもしれません。しかし、天才が努力しないよりも、むしろ天才でないひとが、どうしたらほんとうに美しくなれるかを研究する方が、却って天才を凌ぐことも多いのです。」「ゼイタクな美しさでなく、神経のゆきとどいた美しさ。理知の眼が自分をよく見ている美しさ。そんな美しさを生み出していただきたいのです」ハギレのパッチワークが洋服だけでなく着物にまで使われていることにも、ちょっと驚きました。みんな工夫して、ささやかな美を楽しみ、自分らしさを表現して、ちょっぴり豊かな心をもって、戦後のなにかにつけてとても厳しい時代でも、新しい風を感じながら、前を向いて夢をもって生き生きと生きていた少女たち‥。あの『それいゆ』の凛とした素敵なお姉さんたちは、きっとそんなだったのだなと‥なんだか現在はもう失ってしまった、或いはどこかに置き忘れてしまっている何かを、淳一の哲学に揺り起こされたような気持ちです。凄かった‥。頭が下がりました。私はほとんどファッション誌なるものを観ないのですが、最近もこんなに気概のあるファッション誌が沢山あったりするのだろうかと、ふとそんなことも思いながら‥会場を後にしました。「おしゃれの手引き115」「あなたがもっと美しくなるために」の二冊、図書館に予約注文してしまいました。

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