戦後日本版画の展開 照沼コレクションを中心に
茨城県近代美術館|茨城県
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地方公立美術館のお手本。大充実の企画展。
初めに、運営様からチケット頂いて鑑賞することができました。
ありがとうございました。
チケット頂いた時点で週末が残2回しかなく、また、こちらの美術館が4都物語しないと辿り着けない場所でした故、何とか調整して最終日に滑り込んだ次第です。
とにかく見応えありました。茨城県近美、ボリュームあり。
副題に「照沼コレクションを中心に」とある通り、特に駒井哲郎、浜田知明、清宮質文がお好きだったようで多めですが、これで大衆版画ブーム時の作品と本や雑誌、新聞の挿絵系足せば、タイトル通りに、戦後の版画の流れがまるっと見れちゃうくらいの素晴らしい内容でした。
とにもかくにも照沼氏の版画に対する猛烈な愛情を感じました。
1940年代位~1990年代までの作品があり、ず~っと蒐集し続けていたご様子。
今回各章の解説も素晴らしくて、それを読むと前途した大衆版画ブームがあったことや、その後版画が下火になっていったことにもきちんと触れられています。
この方、その間もずっと版画がお好きで集めておられたのでしょうね。
・・・素敵✨
靉嘔さん始め、作家さんがご自身で寄贈なさったという作品もちょいちょいあり、初めて訪れた美術館でしたが、地元の方に大事されているのもすごく伝わりました。
企画展の内容が「戦後版画史」という大きな枠で語られていて、かつ出てくる作家さんがえらい数なので、この作品がどうこうと言うよりは、「このコレクションは素晴らしかった。見応えあったよ」というのが率直な感想です。
もう一つの感想として、地方の美術館でも版画であれば、自前の収蔵品だけでこれだけの企画展が可能なんだなぁ、と。
最近版画の企画展多くて嬉しいですが、版画なら地方の美術館や私設美術館が蒐集しやすいのでしょうね。個人的に最近は大型の企画展より自前の収蔵作品を駆使して作り上げられた展覧会により魅力を感じてます。
もちろんコレクションの寄贈などがあってのことだと承知してはおりますが。
今回後援で各新聞社の水戸支局とか水戸市とか色々ついてますが、主催は美術館だけです。
偕楽園目当ての梅の花観光客も見込めない、一番人の出入りの少ない時期の企画展かと思います。
次回の梅の時期は「速水御舟展」ですから、当然そちらの方が集客するし、お金も掛けてるでしょう。次回展の主催は同館と日本経済新聞社。特別協力で国立近美だって。
でも、そういう華やかでない時期だからこそ、企画した人達が自由にできる部分も大いにあるはず。
しかも版画の企画展は何回か行ってますから、とのこと。当然ですが聞いて納得です。解説がすごく自信に溢れてて、伝えたいことも明白で、作品点数も180点とがっつりある。堂々たる企画展だったことは間違いない。
企画者さんに拍手です。堪能致しました。
多分この先もこの照沼コレクションを絡めた企画はこちらで何度も見る機会があるでしょうから、版画がお好きな方は是非お披露目の際には足をお運び頂きたいですね。コンディションも抜群でした。
章立てを記載しておきます。
第1章 戦後日本版画の新たな出発
第2章 国際舞台で活躍する版画家たち
ー2-1 木版画の展開
ー2-2 活躍する銅版画家
(駒井哲郎、浜田知明、長谷川潔、浜口陽三)
ー2-3 多様な技法へ挑む作家たち
第3章 清宮質文ー作品とその技法に迫る
(遺品による画室の再現あり)
第4章 東京国際版画ビエンナーレの時代
ー4-1 多様化する版画表現
ー4-2 1970年代以降の現代美術と版画
第5章 新たな潮流
ー5-1 手業による版画表現の追求
ー5-2 版画の新しい可能性を求めて
次、常設展。と、中村彝(なかむらつね)アトリエです。
第1常設展示室は「冬から春へ(前期2/12まで)」。
ナルシス(バルビゾン派の作家)、モネ、ルノワールの西洋絵画(油絵)があって、日本作家の油絵、日本画、という、とにかく出せるやつ出してる感あって、正直「何かわっさ~としてるなぁ」と思いました(笑)。地方行くとよくあるし、しょうがないところでもあるし、なるべく見せようとしてくれてるんだから当然これもまたよし!と。
ルノワール→中村彝の「裸体」で、この絵がもろルノアールで、「静物」なんかはもろセザンヌっぽいなぁ、とわかりやすく繋げてくれます。
この常設の中村の絵の中に出てくる椅子やソファの実物をアトリエで見ることができます。
日本画は、小川芋銭の「祭魚」←獺が木の枝に魚を数匹結んだものを肩に引っかけてルンルンと歩いてる、というのが可愛い過ぎてツボでした。芋銭は色紙もあってそちらも可愛かった♡ 彼も牛久沼のほとりに住んでいたとのこと。
ここだけで30数点あり。
常設展も寄贈多。
第2常設展示室は「熊岡美彦とその時代」。
熊岡の作品15点と関連作家の作品数点。
この中で三井家の三井美尾子さんがモデルとされている「緑衣」、
マネの「オランピア」オマージュ作品「裸体」(練馬区美の「日本の中のマネ展」に出てた)は私でも見たことあったので有名なのかな・・・?
解説が面白くて、「佐伯祐三と一時期同じアパートに住んでた」「裸体をばばーん!と書いたから当時は問題になっちゃった」「日本でマネが紹介されてないのはけしからん、と書いてます」とか(笑)。さらに「先生は指導が厳しくて・・・」みたいな、要するに鬼教師だったようで、生徒のぼやきはかなり面白かったです。
あと陸軍美術協会の発起人の一人だったようですが、そこはちょっと触れるだけ。これ、勿体ないからじゃんじゃん触れた方がいいですよね。むしろ腫物みたいに扱う方が変。むしろ見たい。
第2常設展示室を出ると、アートフォーラムという「五浦の作家」=横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山の解説などが展示してあるスペースがあり、そこにいるスタッフさんに声を掛けて中村彝アトリエへ案内して頂くという段取り。
中村彝は「エロシェンコ氏の像」を見て、「あ~、国立近美にあったな、そういえば」という感じでした。本人が知ったら泣かれそうですが、「エロシェンコってすごい名前(笑)」と思ったから覚えてたという、精神年齢小5な落ちでして・・・ごめんなさい・・・。
まず、中へ入ったら「作家の解説映像見ますか?」と聞かれたので見せて頂き、その後ボランティアさんの熱量がすごくて色々教えて頂きました。
Wikiに記載が多くあるので、そこにない部分を少しだけ。
・まず中村は人望に厚く、支援者に東京下落合(目白)アトリエを立ててもらった。当時650円のうち、中村屋の相馬ご夫妻が500円位支援し(いかに手厚くサポートされ、信頼を受け、将来を有望視されていたかこれでわかる!)、残りを仲間が集めて建てられた(確認取れずで実際と数字が違ったらご容赦を。参考まで)。
このアトリエ(茨城県近美)は彼の死後、目白アトリエを新築復元したもの。しかし目白アトリエは戦争で焼けてしまった為、現在新宿区が管理している新宿区立中村彝アトリエ記念館は、こちら(茨城県近美)のアトリエの設計を元に復元された。新宿区立中村彝アトリエ記念館は元の資材など残ったものを使用したりしているのでオリジナルの部分があり、こちらは完全にコピーだが、遺品はこちらに殆どある。
・亡くなる直前は天井にグレコの絵を張って眺めていた。(これは私の感想ですが「頭蓋骨を持てる自画像」はグレコ味を感じます)。
・絵を習うも病気の為なかなか通えなかったりして、独学の部分がとても大きい(!)。画集を得ては熱心に研究していた。病気に掛かってからは多くの時間を家の中で過ごしていてあまり外に出ることはできなかった。
・おまけとして、中村屋の相馬ご夫妻はインドの革命家・運動家などを匿ったりしていた。相馬俊子さんはインド人と結婚。俊子さんは早くに亡くなってしまうが、その恩を受けたインドの人たちがカレーを作って恩返ししようと頑張って、中村屋のカレーパンが誕生。(公式hpにはそこまでは書いてないんだけどどうなのか・・・)
・早逝の為作品が少なく悔しいが、茨城県民にとっては縁が深い大事な作家で、多くの人に彼の絵を見て、作家のことを知ってほしい。
今回この作家を深く知ることができたのは予想外の嬉しい出来事でした。
新宿未来創造財団は漱石山房や佐伯祐三アトリエなどを維持・管理していたり、素晴らしいと思ってましたが、この作家のアトリエは知らなかったので、是非行ってみたいと思います。同じ建物だろうけど(笑)。
長々とすみません。お読みくださった方、ありがとうございました。
下記参考までに。リンク貼れてなくてすみません(´;ω;`)ウッ…。
・中村屋hp―中村彝 解説
(中村屋にゆかりのある作家や、今もあるサロンの情報もここから繋がります)
https://www.nakamuraya.co.jp/pavilion/founder/people/p_002.html
・新宿区立中村彝アトリエ記念館
https://www.regasu-shinjuku.or.jp/rekihaku/tsune/40357/
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