
東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密
東京国立近代美術館|東京都
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麗子と黒猫
会場に入ると黒い猫がお出迎えしてくれた。
菱田春草の『黒き猫』
私が今回一番会いたかった作品だ。
心の準備もなく「えっ? いきなり?!」と少し驚いたが、黒い猫は「文句あるか?」と言わんばかりにじっとこちらを見ている。
この作品の魅力は構図だと思う。上から垂れてくる大きな柏の枝葉は全体の2/3を占めるが全体的に薄い黄色のトーンなのでうるさい感じはしない。下の1/3には、ちょうど良い曲がり具合の幹の上に真っ黒な猫がちょこんと座っている。毛並みはふわふわ。猫と幹との境界線は薄い墨を使っているのか黒との対比で少し光って見える。猫が神々しく感じられるのは、そのせいかもしれない。
この作品は第四回文展に出品されたが、それまで準備していた作品をやめて僅か5日で描き上げたとのこと。その前の年に同じく文展に出品した『落ち葉』とニュアンスが似ているとは言え驚異的な速さだ。菱田春草は慢性腎臓病により37歳の若さで亡くなってしまうが、亡くなる前の2年間で『黒き猫』や『落ち葉』などの傑作を残している。この2作は1956年には重要文化財に指定されており、横山大観の『生々流転』が登録される1967年より11年も前。大観に「春草君が生きていたら俺なんかよりずっと巧い」と言わしめた天才画家だけある。
もう1点お目当ての画家は岸田劉生。『道路と土手と塀(切通之写生)』と『麗子微笑』をじっくり鑑賞することができた。『道路と土手と塀(切通之写生)』を近美で初めて観たとき「単なる土手と塀なのに、この迫力は何?!」と圧倒されたのを覚えている。真っ白な塀と青い空を押しのけるようにゴツゴツした土手がそびえ立ち、まるで生きているようだ。
『麗子微笑』との初対面は大抵の人がそうであるように教科書。その後、実物を何度か観ているせいか段々不気味に感じられなくなっている。顔を横に引き伸ばしてグロテスク感を出しているのは、顔輝の『寒山拾得』の「寒山」をイメージしていると聞くと納得。毛糸の肩掛けは見事な質感だがボロボロなのが前から気になっていて、麗子のお母さんは「恥ずかしいからやめて」と言わなかったのだろうかと思っていたが「寒山」を目指していたら仕方がない。
この他、今村紫紅の『近江八景』や福田平八郎の『漣』など個人的には初めての作品にも出会えて充実した展示会だった。
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