秘蔵!重要文化財「長谷雄草紙」全巻公開 ―永青文庫の絵巻コレクション―
永青文庫|東京都
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横長の画面に繰り広げられる物語の世界をたっぷり堪能。絵巻ファン必見です!!
《長谷雄草紙(重要文化財)》は、平安時代初期の文人紀長谷雄を主人公とする珍しい説話を絵巻にしたものだそうです。紀長谷雄は、平安朝きっての実在の漢学者で、この絵巻詞書の書き出しにも「学九流にわたり芸百家に通じて」と見えます。とにかく多芸博学の男だったようです。菅原道真にその才を認められ、次第に頭角を現し、道真のような悲劇はなく、最後は従三位中納言にまでのぼり、68歳で没しています。
物語はわずか五段の絵と詞書からなっていて短く、内容も明快です。朱雀門の鬼は色々な説話に登場していて、非常に多才な鬼で、鬼の王などともいわれていて、笛の名手で源博雅と笛合わせをしたたり、この絵巻でも双六の勝負をしたりしています。その勝負に勝って美女を手にした長谷雄は、鬼との約束の100日を待てず、女に触れてしまい、女は水になってしまい、その後約束を違えたことで鬼に襲われそうになるものの、北野天満宮のご加護で事なきを得た、というものです。要するに賢く地位もある男でも、男は女人の魅力と自分の欲望に勝てない。男は約束を守れない。天満宮の神力は偉大だ。ということらしいですね(笑)。この説話の本分に相当するものは、文永7年(1270)に成立した「続教訓抄」にも出ているそうです。ある程度世に知られたお話だったのでしょう。この絵巻物はその後の14世紀前半に作られたと考えられています。徳川将軍家の宝物で「柳営御物」として秘蔵されていたものが江戸開城の際上の寛永寺に移されたものの、いわゆる上野戦争の戦火の中、ほとんどの御物が消失或いは散逸し、『長谷雄草紙』も模本(東京国立博物館蔵)によって知られるのみで、行方不明とされていたそうです。それが昭和になって細川家宝物庫に健在であったことが分かり、重要文化財として同家の永青文庫に秘蔵されることになったとか。徳川家から何故細川家に渡ったのかは不明の様です。絵は、登場人物の表情も仕草表現も豊かで、着ている衣装なども興味深く、長谷雄の警護の男が乗る馬も、白鞍に舌長鐙、鮮やかな朱の鞦で飾っていたり、長谷雄の牛車の中に敷かれた小紋高麗縁の畳が見えていたり。屋敷は、板戸に絵が描かれていたり、水を引き込む立派な庭を造らせていたり、部屋に置かれた書棚は黒漆で角には金の金具があしらわれ、猫足の様にまでなっており、更に中の二段などは棚面に緋毛氈でも敷かれているのか朱色になっています。とにかく色々芸も細かく、中納言長谷雄の地位や趣向を表現しています。それから飼い猿の登場とか、なかなかに面白いです。松の古木がささくれ、苔を置き、枝をくねらせる様なども、とてもこなれていて見事です。双六の賽を入れた筒を盤にパシッと打ち付けるシーンで、音を線で描き込んでいることが「今日のアニメや漫画に通じる表現が見受けられるのが興味深い」などと言われています。絵ももちろん良いですが、文字もとてもきれいでした。
《長谷雄草紙》他も、とにかく貴重な絵巻が並んでいました。誰もが多分歴史の教科書で観たことのある《蒙古襲来絵詞(国宝、鎌倉、宮内庁三の丸尚蔵館蔵)》も、かつて熊本藩士の大矢野家に伝来したの模本上下巻(江戸)や白描本上下巻(江戸)、また南北朝時代に成立した稚児物語の秀作《秋夜長物語絵巻上下巻(室町)》、中国の小説を原拠とした《申陽洞記絵巻下巻(江戸)》、《信貴山縁起絵巻上中下巻(江戸)》模本などなど、永青文庫さんの絵巻コレクションの数々。まさに壮観でした。更に、奈良絵本として最大の冊数の全83冊を誇る《絵入太平記》うち6冊も公開されていました。奈良絵本とは室町時代後期から江戸時代中期にかけて制作された彩色絵入り写本のことで、永青文庫の《絵入太平記》は、軍記物語『太平記』を奈良絵本化した現存唯一の作品だそうです。挿絵も金泥や金箔を用いた、極めて豪華な逸品でした。他にも《絵入平家物語(江戸)》36冊のうち5冊や《絵入伊勢物語(江戸)》3冊などなど、とにかく充実した内容で、これでもかという感じのコレクションでした。少し疲れました。
平日午後、特に混雑はありませんでした。ただ、絵巻類はこまかいので、さっと観るならそれ程でもないでしょうが、一生懸命キチンと観ようとすると、とても時間がかかってしまいます。少しの混雑でも観辛いところも出てしまいます。事前にHPで目録を確認しておいて、自分が観たいものをある程度絞って、時間をかけてしっかり観るところとさっと観るところを、考えておくのも一つかと思います。
トーハクさんで今、特別展『やまと絵』が開催されていて、4大絵巻《鳥獣戯画》《源氏物語》《伴大納言絵巻》《信貴山縁起絵巻》が展示され、毎日大変な混雑の様です。そちらはそちらで勿論凄く素晴らしいですが、こちらの絵巻も負けず劣らず素晴らしいです。とても貴重な機会です。横長の画面に繰り広げられる物語の世界をたっぷりと楽しんだ後は、これからの季節、隣接する肥後細川庭園の紅葉(ライトアップ有)、更にお隣の椿山荘でも、紅葉と雲海(ライトアップ有)など、も一緒に楽しめ素敵ですね。ぜひ、こちらにも足を運んでみてはいかがでしょうか。
全くの余談ですが、先日銀座のポーラミュージアムアネックスで、「殿」こと元総理で細川家18代目当主の、『細川護熙展「京洛の四季」』を観ました。「殿」は60歳を機に政界を引退した後、主に陶芸家、茶人として活動し、やがて書や油絵などの創作活動も開始し、悠々自適の第二の人生?を満喫されているらしいです。近年は奈良・薬師寺慈恩殿「東と西の融合」障壁画や京都・龍安寺「雲龍図襖絵」など、大型障壁画の制作に携わっているとか。この展覧会では、2014年に京都 建仁寺正伝永源院に奉納された四季山水図襖絵が展示されていました。いつか「殿」の作品も永青文庫に収められ、100年とかの後に文庫で回顧展とか組まれたりするのかしら、などと思ってしまいました。
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