美をつくし―大阪市立美術館コレクション
サントリー美術館|東京都
開催期間: ~
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関東ではなかなか出会えない作品たち。貴重な経験でした。
この展覧会は、改修工事のため長期休館する大阪市立美術館のコレクションの優品を、館外で初めて一堂に展示するものだそうで、東京で見られるのは本当においしいと言うか幸運かと思います。また、タイトルからしてサントリーの学芸員さんたちの力の入りようが伝わります。サントリーさんは、いつも展示の見せ方、解説の視点、が面白くて、楽しく鑑賞させて頂くのですが、今回はこちらも、より期待が高まってしまいます。展示は「仏教美術」日本の「中近世美術」「近代美術」「中国美術」日本の「近世工芸」の全5章で構成されています。
仏教美術は大好きな範疇なのでじっくり堪能。かの有名な尾形光琳の意外な放蕩ぶりがうかがえる弟乾山の書簡は、絵画で身を立てる前とはいえ38歳は決して若くはなく、天才は借金さえも芸の肥やし??紙一重の天才が、堅実な弟に支えられて踏みとどまった人生を思い、なんだか楽しくなりました。その光琳の「燕子花図」も素晴らしいですが、対面の勝部如春斎という狩野派の絵師さんはあまり知りませんでしたが、その「小袖屏風虫干図巻」は凄いです。衣替えのこの季節にピッタリの、と思って見始めれば、重なりあう屏風と小袖との美しい多重唱の魅力に、どんどん引き込まれて行きます。見えていない部分の世界に心を持って行かれ、しばしこの不思議な感覚を楽しみました。他の作品も見てみたいものです。重要文化財《四季花鳥図屏風》 狩野宗秀、圧巻です。近代絵画のハイライトコーナー、大阪市立美術館のコレクション第1号、橋本関雪による「唐犬」は、展示ケースに入れてからでは開けない、縦2m×横4m、二曲一隻の巨大屏風。搬入シーンのネット動画を見て、訪館前から楽しませてもらってはいましたが、実物は、三頭の美しい毛並みと気品ある姿に、感動と納得でした。同じ一角に、上村松園「晩秋」と北野恒富「星」も。気づけばこの「星」の女性に感情移入して、ちょっとぼーっと眺めてしまいました。そしていよいよ、最も楽しみにしていた近世工芸コーナー。技巧を凝らし贅を尽くした豪華な振袖小袖。その後は館蔵品の半数を占めるカザールコレクションコーナーです。先ずは大好きな蒔絵作品、「九曜紋蒔絵調度」に「橋姫蒔絵硯箱」。橋姫‥は、硯箱の中にカラフルな水滴が!七宝の技法で、色とりどりのかわいらしい小花が表わされています。更に水車が回る仕掛けとか…。技術も勿論すごいのですが、この遊び心には感動です。更に江戸の粋が象徴的に表れた小さな世界、櫛などの装身具に印籠、そして、根付です。超絶技巧もさることながら、とてもユーモラスで、もう可愛いのなんの、面白いのなんの、単眼鏡で覗き込んだこの独特の小さな世界に釘付けになります。いくら見ていても飽きません。すっかり時間を忘れて見入ってしまいました。あと、中国美術で不思議な形の青銅器がありました。殷(商)代の《青銅饕餮文斝》で、今回の展示品で最も古い品。松岡で見た奇麗な饕餮文青銅器を想い起こしてしまいますが、これはこれで面白いです。それにちょっと不思議な形で、いろいろ想像してしまいます。あくまで私の勝手な想像ですが、これは「鳴釜神事」ではないでしょうか。元は蓋が付いていて、水を入れて火にかけ、沸騰により押し上げられた蓋が踊り、キノコ型の突起があるため外れることはなく、また蓋が突起に触れて色々な音がする、その音で吉凶を占う、みたいな祭祀で使われたのではないかと…。そんなことも考えながら鑑賞を進めました。
ともあれ、日時指定予約不要で、でも平日午後の訪館で、特に混雑もなく、時代を超え、地域を超え、美をつくした名品に囲まれ、あれこれ目移りしつつ、想像の世界にまで心を飛ばしながら、学芸員さん方のご指南も楽しみつつ、じっくり鑑賞させて頂きました。とても良い、楽しい展覧会でした。
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