マリー・クワント展
Bunkamura ザ・ミュージアム|東京都
開催期間: ~
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もう一人のブリティッシュ・クイーン【マリー・クワント】
多分ティーン以上の女性なら誰もが1度は見た黒のデイジーのロゴマーク。
今なお92才で健在のイギリス大衆ファッションの女王、デザイナーにして実業家のマリー・クワント展覧会を訪問しました。
会場入口の巨大ポスターに大きく書かれたのは【ミニの女王】。
膝上ミニスカートにボブカットヘア、体育座りのマリー本人がドンと大写しにカメラ目線を向けています。
彼女の事は【ミニスカート作ってロンドンポップカルチャーを引っ張って、叙勲された凄い女性】くらいのふんわり知識でしたが、展示を見て認識がもの凄く改まりました。
故エリザベス女王と同年代の彼女は、世界のファッション潮流で一時代を作り上げた、カルチャーの女王と呼ぶに相応しい人。
そのエネルギッシュで陽気なキャラクターと抜群の事業センスでブランド事業を世界展開し、女性のファッション世界をガラリと変えました。
冗談抜きで『一変する』とか『世界が変わる』としか言えないくらいの生活の変化をもたらしています。
会場では衣装を中心に、革新していくファッションの歴史、ブランド事業の展開、結果として女性のファッションがどれほど進歩したのかが分かり、あれもこれもそれも彼女が生み出したのかと唖然。ありすぎる功績をレポートします。
象徴はもちろんミニスカート。
今なら当たり前のファッション、ミニスカートの世界爆散も彼女の功績です。
想像すればさもありなんですが、第二次世界大戦終戦の爪痕の最中、イギリスに根強い階級差別が残る頃に現れた膝上スカートの存在はもの凄い衝撃です。
膝丈スカートはマリーより前に大御所ココ・シャネルが創り出しましたが、オートクチュールがメインであくまでエレガンスな装いを意識したデザイン。
翻ってマリーの提唱したファッションは、【膝上】スカートとカラフルなタイツ。着ているモデルもボブ、ショートヘアのティーンエイジャーに見えます。
彼女の想定した購買対象は自分と同じ20代、あるいはティーンの若者でした。戦後の解放感と自由、新しさを求める若年層にマリーの衣服はまさにジャストフィット。日本でも大ブレイクです。
昭和を懐かしむTV特集でもビートルズと並んで紹介されるくらい有名なツイッギー。彼女もマリーのブランド広告から世界規模に認知されたモデル。
蛇足ですけど日本でのツィッギーのあまりのフィーバーに、菓子メーカーの森永が【小枝】を発売するくらい(笑)。
これってツイッギー=『(意)小枝』からの命名らしいです。ちゃっかり便乗ですね。ロングセラーに美味しいからいいですけど。
マリーのミニスカートを纏うモデルは枝と評されるくらいに細い華奢な手足と、ショートあるいはボブの活動的なスタイル。
それまで当たり前の、女性ならではの身体の凹凸というかプロポーションの見せ方の優先順位がガクンと下がったというか、当時は無かった『ユニセックス』という単語が浮かびます。男性目線ではなく、あくまで当事者の女性が気持ちの良い服。
短いスカートもショートヘアーの髪も、軽くて動きやすいし走りやすい。そして可愛い!
しかし展示資料映像の中で、年配の男性紳士が『破廉恥だ』というコメントを出していました。ファッションに対しての男女の目線の違いを象徴していますね。
2022年の今もどこかのインタビューで同じようなセリフが聞こえるのですから。
男と女では、かくも服への目的が異なっているのだと展示に浮かれた気分に微妙な冷や水を浴びた心地になりました。
話を戻してミニスカ-トの他にもマリーの開発したファッションは以下の感じです。
・カラー・タイツ=ミニスカートとの組み合わせで必須。それまでのタイツといえばフランス国王ルイ14世肖像画みたいな、カボチャパンツの下に履く白タイツしかなかった。そして男性メインだった。
・ロング・ブーツ=これも今はミニスカート、パンツとの組み合わせが鉄板。ロングスカートのままなら日の目を見なかった。
・スキニー・パンツ=ゆったり身体のラインを隠すけどエレガントなシャネル考案のパンツとは真逆。脚のラインがでるけと動きやすさは太鼓判。
・ビニール加工のレイン・コート=化学繊維を衣服に使うパイオニア、ビニールのレインコート。展示ではカラフルな黄色や赤で、テルテル坊主みたいな可愛らしさ!普通にレディースブランドの店先のマネキンが今着ていそうなデザインです。50年近く前なのに。
・リブ・セーター=伸縮性を持った縦ラインがあるセーター。今の秋冬服定番です。
・ホット・パンツ=これもタイツやロングブーツとの組み合わせが定着化してます。
他にもお部屋で寛げるルームウェアやらネクタイワンピやらメイクパレットの化粧品やら、ありすぎるので割愛します。
え?あれも?これもマリーが?と今私たちが楽しむファッションの幅をどれだけ拡げてくれたのかとなんだかもう拝みたくなってきました。
そして伝統の本家であるエリザベス女王陛下から大英帝国勲章(英国王室第4等勲章:OBE)を受賞した時も、彼女は自分の代名詞となったミニスカートで宮殿に行き、女王陛下に拝謁してるのです。
ホントにカッコいい、男前女子なマリー・クワント。
もう一つの特筆はライセンス契約を駆使した世界的なブランド展開。大衆への量産化、波及の速さと広さです。
ポスター写真掲載からも分かるように、マリーは自らファッションアイコンとなり積極的に露出して宣伝する戦略行動をしていきました。今でいう広報活動も、1960年代当時は斬新な試み。
更にはアメリカの大手衣料メーカーに既製服のデザインを提供して大量生産にいち早く反応し、オーストラリアやアジアへも事業を拡大。
デイジーのブランドロゴを商標登録し、現地企業に生産・販売をまかせるライセンス契約を採用して、スカートやワンピースの型紙も公開し、世界中瞬く間にマリーが創ったレディースファッションが席巻します。
ここが起業家としてのマリーの凄さですね。旦那様も卓越した経営手腕をお持ちだったようですが、瞬く間に世界中に波及したマリーのストリートファッションは戦後女性の自由や選択を象徴しています。
ニューヨークタイムズ紙を始めとした新聞各紙も経済欄に「マリーの事業」は掲載されていて、ファッョンページの行数を上回るほどだったそうです。
【君臨】という言葉が相応しい、イギリスの誇るもう一人の女王マリー・クワント。
眼の醒めるような彼女のきらきらしいファッション史、お奨めです。
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