
生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展
東京都現代美術館|東京都
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日本の特撮映画よ永遠に
これはすごい展覧会だ。
文句なしの私的2021年度企画展BEST1だ。
日本の特撮映画史上、最も有名で重要な人物は特撮技術監督の円谷英二であり、以下、プロデューサーの田中友幸、本編監督の本多猪四郎、音楽の伊福部昭といったとこだろう。
そこに突然出てきた井上泰幸という名前。正直、私は知らなかった。
特撮美術監督と言う肩書があって初めて、ああそういうかたかと頷けるということ。
井上”タイコー”泰幸さんは、円谷監督の下で、怪獣、SF、戦争映画などの美術スタッフとしてデビューし活躍されたかたで、特にミニチュアセットの製作においてはその再現性に心血を注がれた。
「ミニチュアじゃない、本物を作るんだ。」という自負のもと、当時のあらゆるアナログ的手法を駆使、図面上に数値化してリアルを追及するという神業ともいえる成果を残された。
会場にあるのはその証拠物件だ。
スケッチ、模型、絵コンテ等々が、当時の姿そのままに我々の前に並んでいる。
3mm方眼紙上の建造物図面は、そのまま作れてしまう精密さだ。
今ならCADやCGや3Dプリンタで軽くできることが、一人の人間の手作業によりドラフター上で鉛筆書きされていたということだ。
さらには、映像そのままの絵コンテを見ると、あの映画のあの場面がまざまざと脳裏によみがえってくる。
数年前に見た成田亨展では、怪獣やウルトラマンの原図に感激したが、まさか彼らにぶっ壊されるセットの図面見て感激するとは。
特撮美術はセットだけではない。
たとえば海底火山の大爆発シーンでの噴煙をどう作るか。
会場内のモニター映像で見ることができます。
そうか、なるほどね。一発OKかなと思えど、井上さんは2回やり直しさせる。
妥協なる言葉はこのかたの辞書にはないのだろう。
文字、数字、図面や模型の洪水に見舞われ、噴煙シーンの撮影映像を後にすると、そこに現れるのは福岡天神、岩田屋デパートに飛来したラドンのセットだ。
現代のジオラマの精巧さに慣れている目には、さほど驚きはないかもしれない。
しかし、66年前にこのセットが作られていたとなると話は別だ。
しかも、井上さんは現地の目測、歩測でこの街をパーフェクトに再現させたのだ。
島倉二千六さんの青空と雲の背景画も美しい。
当展を企画された学芸員さんの構成力にも脱帽だ。
日本の特撮映画の歴史を知るうえで、この展覧会が開催された意義は大きい。
タイコーさんのDNAは庵野さんや樋口さんにも必ず受け継がれているはずだから。