企画展 死と再生の物語(ナラティヴ) ―中国古代の神話とデザイン―
泉屋博古館東京|東京都
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信仰と物語のデザインされた青銅器・青銅鏡。知れば面白いけれど、その思いは熱すぎてちょっと恐いかも
2023年の「不変/普遍の造形―住友コレクション」展以来の、中国青銅器コレクション名品たちのおめみえですね。京都から泉屋博古館さんのアイドルのような存在でもある《鴟鴞尊》も、やってきました。《鴟鴞尊》とても可愛いです(でもショップのぬいぐるみの様なポシェットは、いくら何でもいただけませんよね(笑))。何だかとてもとっつきにくい感じの青銅器の文様も、古代中国の独特なデザイン感覚、その背景となった神話や世界観や信仰を焦点に、丁寧に解説されていました。「動物/植物」「天文」「七夕」「神仙への憧れ」という主に4つの観点から、デザインの背景を読み解いて行き、更には日本美術に与えた影響についてもご紹介してくれていました。今展、私は「死生観」「十二国記」「七夕・棚機津女」などのワードから、いつもの泉屋博古館東京さん以上に興味を持ち、早々に出かけました。青銅器のデザインに宿る、人類不変の願い「死」と「再生」を思いながら、休日ながら会期初盤でまだ空いていたため、ゆっくり鑑賞しました。
ところでキャプションによれば、「龍」は天に昇って雨を降らすことができ、また天と地を結び、死んだ者の魂を守護すると考えられました。一方「鴟鴞」(ミミズクやフクロウをさす)は、夜行性の猛禽類と性質が注目され、漢代以降の中国では、伝統的には「悪鳥」の代表例とされていたのだそうですが、更に古い殷周時代では、墓などの副葬品にも多く出土していて、死後世界とかかわりの深い霊鳥「死者の世界(夜)で邪霊から死者を守護する」モチーフとして扱われていたとのだとか。時代を経るうちに「死者を守護する」→「闇を司る」→「邪悪」などとだんだんに変わっていく、そういうものって結構沢山あるものなのですよね。それから、《戈卣》という尖った嘴と大きな目に何故か獣の足を持つ不思議な器なのですが、香草薬草の汁を入れる器だそうで、2羽の鴟鴞が背中合わせで表されているのは、四方ににらみを利かせる死者を守護する意味だとか。「戈」は武器とか力とかいうことなので、香草薬草汁の酒とセットでとても呪術的な強い力の象徴のような品だったのかと‥。このような品を作る人々の、死者の死後の世界での安寧への願いが、なんかビシビシと伝わって来ます。
話は逸れますが、日本ならではの美意識を語るとき、「侘び寂び」と同じように、「間」と「余白」という言葉も欠かせないものだとよく言われます。「間」は、主に演劇や音楽、対人関係の中で意識されるもので、「余白」は美術やデザインなどの平面的なものにおいて、頻繁に用いられてきた言葉です。東洋美術の中で、イスラムやヒンズーや古代中国で、余白を徹底排除するかのごとき美術表現を見ると、日本の美意識の異色さを感じてしまうのですが、思えば日本にだって古代には縄文の火炎式土器がありますし、曼陀羅やびっしりと化仏に覆われた後背などもありますよね。信仰や呪にかかわる美術には、日本でも「余白」より「びっしり」だったのかも知れません。「びっしり」の力を、やはり感じずにはいられません。
さて、青銅鏡にも古代の人々の宇宙観が鋳込まれているそうなのですが、読み解くのはなかなか骨が折れそうです。当時の人々にとっては、天文の知識は生活上に必要であるだけでなく、世界で起こる様々な出来事を前もって知るための技術でもあったようですね。こうした現象の出現は何かの出来事の前触れなどと‥。鏡には、よく天体と瑞獣が関連付けられデザインされたりしています。日本でも高松塚などでもよく知られた四神なども、こうした古代天文学と密接にかかわるモチーフと言われています。このあたりの知識が乏しい私などは小説、小野不由美さんの『十二国記』や、文化人類学者でもあった上橋菜穂子さんの『守り人』シリーズなどの記述が頭に浮かんでしまいますが(笑)。そんな中「断琴の交わり」や「知音」の故事にもなった物語も紹介されていました。そういえば日本で「星まつり」と言えば七夕と真反対の冬至ですよね。ずいぶん以前に国立京博で《星曼陀羅》を見ました。1年の中で最も日照時間が短くなる「夜が一番長い日」ということから、死に最も近づく時期と考えられ、そのため、古来から冬至の日には、無病息災を祈願して厄払いを行ったり、健康的で栄養のある食事をしたりする風習があって、その一つに北斗七星・十二宮・二十八宿に、個々人の「当年星」「本命星」などを祀る「星まつり」「星供養」というのもあるそうです。もっとも真言密教のお寺くらいでしかあまり聞かれないお祭りかもしれませんが。中国の「乞巧奠」と「星まつり」と日本の水神信仰の「棚機津女」や祖霊信仰の盆行事などが合体しての、「七夕」。古代中国の信仰・思想が時を経て少しずつ変わり、それが日本にも伝わって、また日本の中でも時代と共に少しずつ変わって行った、そんな壮大な流れを思いながら、今年は現代の「七夕」の日を迎えてみようと思います。
今展では青銅器や青銅鏡ばかりと思いきや、応挙《西王母図》や「オタケ・インパクト」の尾竹国観《黄石公張良図》、上島鳳山の美人図など、今展の紹介する死生観に影響を受けたであろう日本美術の優品も展示されていました。また第4展示室では、「中国古代青銅器×現代鋳金作家」として、泉屋博古館さんの過去のビエンナーレ作品の展示もありました。なかなか力のこもった作品でした。こちらは撮影も可能でした。久野彩子氏の作品は、とても気に入りましたが、古代中国というより近未来の感じですね。
色々色々思いを広げながら、勉強になる、そしてとても楽しい、展覧会でした。
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- morinousagisanさん