鰭崎英朋
太田記念美術館|東京都
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テクノロジーと「美人」のうつりかわり
本展では、鰭崎英朋は長らく美術史から忘れ去られている絵師だと評されていますが、最初はピンときませんでした。英朋の作品は近代版画の展示では比較的よく見かけるからです。
しかし後で調べてみると、たしかに英朋の画集や図録は古書でもほとんど市場に出回っていないようです。
同時期に同じように小説や雑誌の口絵、特に美人画で名をはせた絵師でも、鏑木清方のように「展覧会画家」に転身したわけでもなく、橋口五葉らのように新版画の活動に参加していたわけでもなかったために、どうやら美術史家からは英朋はメインストリームの画家ではないと等閑視されてしまったらしいです。
ですが、本展で展示されている日本美術院の展覧会に出品された「本画」を見てみると、前田青邨や小堀鞆音にも引けを取らないような正統的な歴史画(武者絵)を描くことのできた人だったと解ります。彼を本展のキャッチコピーのようにただ「最後の浮世絵師」として紹介しても良いものか、ちょっと疑問も感じました。
英朋の生きた時代は印刷技術の変遷が激しかった時代でした。NHKの朝ドラ『らんまん』で、牧野富太郎が「これからは石版の時代だ!」と目して博物図鑑を出版するために自ら印刷機を購入してしまった、というエピソードをご記憶のかたも多いかと思います。
その後も小説や雑誌の口絵や表紙絵で主流となる印刷技術は、わずか数十年のうちに浮世絵に由来する木版→石版→三色版→オフセット印刷と目まぐるしく変遷していきました。
英朋はそれらすべての時期にわたって原画を提供し続けてきた絵師でした。本展はそうした印刷技術の変遷史を総覧できる展覧会として楽しむこともできると思います。
キャプションでは “木版と比べると後代の印刷技術では色彩の透明感や描線のシャープさに劣るが、技術の革新により飛躍的に改善が進んだ” というようなことが書かれていましたが、逆にいえば “浮世絵版画はそれだけ美しいものだったんだぞ!” と強く主張されているようで、浮世絵専門の美術館の学芸員さんの心の叫びが聞こえてくるようでもありました。
英朋とも時代の重なる新版画運動の掲げた「木版リバイバル」は当時失われつつあった彫師・摺師の技術を後世に残さなければいけない、という使命感で立ち上がった運動でした。本展で浮世絵木版のクリアな色彩とキリっとした形態を後代の印刷作品と比べて見てみると、当時の新版画関係者の気持ちにすこし近づけたような気もしました。同時に、まだ成熟していない新しい技術でより美しいものを作ろうとした人たちの努力にも感銘を受けます。
最後に、これは個人的な印象なのですが、江戸の浮世絵のような切れ長の目、うりざね顔のきりりとした女性から、伊藤深水の描いたような目鼻立ちのハッキリした、しかしゆるふわな感じのモダンな美人画まで、英朋は同時代の美人画家たちと比べても画風や表現の幅が広いように思います。近世から近代へ急激に移行した時代、世間の「美人」観というものも変わっていったと思うのですが、英朋はその変化に敏感にキャッチアップしつつも粋でいなせな「江戸の美人」観も残そうとしたのではないか、そのように勝手に思っています。
太田記念美術館の図録は人気の展覧会では会期末には売り切れてしまうこともありますので、欲しい方はお早めにどうぞ。
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