円山応挙―革新者から巨匠へ
三井記念美術館|東京都
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静かなる対話:応挙と若冲、筆のあいだに宿るもの
三井記念美術館の静謐な展示室に足を踏み入れると、そこには筆の呼吸が漂っていた。円山応挙—江戸絵画の精緻を極めた画家。画賛や詞書にみられる筆跡から応挙の几帳面で神経質な性格がにじみ出ていて、大好きだ。墨の濃淡、余白の呼吸、筆先の緊張までもが、彼の内面を語っているようだ。描くことへの執着と、描かないことへの美学。その狭間に生きていた応挙の真髄にまた会えたいう喜びでいっぱいだ。
今回の展覧会のお目当ては、伊藤若冲との対屏風—《竹鶏図屏風》と《梅鯉図屏風》。鶏と鯉が互いに視線を交わす構図は、まるで時を超えた静かな対話。若冲の鶏が尾羽を高く掲げ、応挙の鯉が水面からそっと見上げる。交流の記録は残っていないというが、両者を結びつけた誰かの意思が、この屏風に宿っているように思えた。
応挙が若冲よりも若く、先に描いたのではないかという説がある。だとすれば、応挙の鯉は、若冲の鶏に向けて一歩引いた視線を投げかけているのかもしれない。そこには、技巧を競うのではなく、先達への静かなリスペクトが感じられる。応挙は若冲の奇想を真似ることなく、あくまで自らの写実の美学で応じた。その距離感が、かえって両者の天性を際立たせているように思う。
そして毎年恒例の公開が楽しみな国宝《雪松図屏風》。これを見ないと私の新年はあけないとおもうほどだ(大げさだが)。描かずして雪を描くという逆説の美。金泥と金砂子が陽光を表し、紙の塗り残しが松に積もる雪となる。応挙の筆は、冬の空気の凛とした静けさをそのまま閉じ込めていた。
その存在の温度まで描き出すのである。滝を描かせたら右に出る者はいないと言われるのも頷ける。水の流れ、空気の揺らぎ、そして沈黙の中にある生命——それらすべてが応挙の画には息づいている。あっぱれ。
いつもながら三井財閥のすごさを見せつけられる。これほどの作品群を一堂に集め、空間の品格を保ちつつ展示できるのは、文化への深い理解と支援があってこそ。江戸の美意識と現代の鑑賞者を静かに結びつけてくれるこの空間に感謝したい。
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