4.0
認識/存在論を視覚表現する
木下佳通代という作家は今回初めて知った。展覧会広報に使用されている抽象作品から受けた淡泊なイメージで、展示そのものもこちらを突き放してしまうような抽象性を保持したものになっているのではないかと想像していた。しかし、木下が関心を持っていたという哲学、とくに認識論的な問題は、視覚芸術に置き換えられることでむしろそうした抽象的な思考世界への問いや理論的展開に私たちを誘ってくれているようだった。
たしかにコンセプチュアルな作品特有の難解さや無骨さは漂ってはいるものの、木下の作品には、視覚的である以上に対話的な雰囲気があった。それは、微細な変化を加えた写真作品や映像作品に端的に表れているように、順を追って共に考え理解できるような提示の仕方のためかもしれない。少なくとも木下の表現は彼女の内面に終始するものというよりはもっと汎用性のあるテーマを持っており、決して突き放すようなものではなかった(後半に展開される抽象表現はやはり内面的にもみえるが)。木下の表現史をたどる展示構成もまた、そうしたテーマへの彼女のアプローチを丁寧に紹介してくれている。