4.0
甘く虚ろな世界
キスリングの絵画にはじめて出会ったのは中学時代。美術室の画集に載っていた女性像だった。白いワンピースの幽霊のような女性の絵だった。その当時は絵のインパクトが強く残っただけで、模写をしたものの作家の名前を知らなかったが、神秘的な魅力を感じた。本展には当時模写した作品が出展されており、懐かしい再会を果たしたような感覚を覚えた。
本展では、彼の特徴的な肖像画以外に静物や風景画も見ることができた。キスリングの肖像画だけを見ているともっと死を予感させる画風の芸術家なのかと思っていたので、意外にも生命感があって頭を掻き乱された感じだった。光を照り返すような表面を描く彼の画風は、不自然ながらも、とても美しく甘ったるい表現だ。一方で、吸い込まれるような女性の瞳がどこか空虚なのは、いつまでも続きはしない甘美な夢の世界を物語るよう。そんな想像力をかき立てるような表現の魅力にあらためてやられてしまった。