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市制施行70周年記念 自然、生命、平和 私たちは見つめられている 吉田遠志展

市制施行70周年記念 自然、生命、平和 私たちは見つめられている 吉田遠志展

府中市美術館|東京都

開催期間:

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世界を旅した絵本画家

吉田遠志という名前に即座には反応できなかった。
今夏に上京するに際し首都圏での企画展を物色してて、府中市美術館でやってるその開館70周年記念展とやらにビビっときたわけではなかった。
メインビジュアルのシマウマ親子も最初は写真かと思い、ならば優先順位は低いかなと思っていた。
ところが、美術館ウエブサイトで詳細見たらいきなりドカンと電撃だ。あの動物絵本の作家かい!
そうか、そういえば作者は吉田遠志という名前だったような。絵本は我が家に全巻揃ってたが娘が嫁入り道具で持ち去っている。
とにかくあれを描いた人に違いない、こりゃもう行くっきゃないと即決だった。今年の夏のお楽しみは武井武雄と吉田遠志の二強で決まりだなと。

武井展を満喫した翌日に府中市美へ向かった。京王線東府中駅or府中駅どちらからでもコミュニティバスで行けるが、その日は府中駅から。
平日だから競馬場の誘惑はなく、鉄火場へ向かう血の気は引いて優雅なもんだ(笑)
10時開場の20分前ぐらいについてしばらく日陰のベンチでミンミンゼミの声を聞きながらボーッとしてた。
東京のセミはおとなしい。うちの庭じゃ朝の5時半からクマゼミが大絶叫だもんね(笑)

10時入館、2階の会場へ。
展示は遠志の少年時代の作品から始まる。父である吉田博のことも当然出てくる。博の息子が遠志であることは実は今回初めて知って驚いた。
道理で超絶上手いわけだと思った。実際父の教えは結構スパルタ式だったそう。

少年期の病で足に障害を持った遠志は、裕福な家庭環境もあって絵を描くことに集中していった。
展示冒頭では十代の頃の作品が出てくるが、もう上手い(笑) 当時のスケッチ帳も展示されていて、そこでもその画力には目を見張る。
この父にしてこの息子あり。父子鷹とはこれを言う。
《かに》14歳、《とら》15歳、《文鳥》16歳は最初期の木版画で、父のDNAはティーン時代にすでに出現している。

遠志の画力は油彩でもよくわかる。デッサンは幼少時より鍛えに鍛え、磨き上げてきてるので当然ハイレベルだ。
色使いもいい。このまま油絵画家に行く道もあったろうにと思えるのは《石切場》。これは父の版画をそのまま油彩にしたように美しい。

キュビズムやアブスト的な油絵も描いてるが、やはり血は争えないのかやがて木版画への道へと専念していく。
それは父の大正~昭和初期作品を模倣した東京名所版画から始まっている。1940年前後の頃である。
《夜の東京》なる一連の作品はまさに父や巴水や清親の新版画テイストが溢れてる。
おそらく父と一緒に回ったであろう日本各地の風景版画は、吉田博作品と称してもいいぐらいだ。《夕の燕岳》なんかは、まんま吉田博の山岳版画みたい。

父が未訪の世界各国の風景版画も多く、その点に関しては父を超えている。南極含めた世界の大陸はすべて踏破しており、そのどれもがとにかく美しい。
父にない遠志の特長は横長の構図ではなかろうか。タテヨコ比が1:4ぐらいの北米、豪州、アフリカなどの風景版画は本当に素晴らしい。
日本には絶対にない光景をパノラマでとらえた傑作が横長版画だろう。《エアーズロック》なんかそのサイズでないと入らないからね。
そんな制作ライフの中、1950~60年代にかけては木版抽象画に没頭していた時期もある。父の未踏の領域への興味か憧れか挑戦かはわからぬが、やはり長続きはしていない。

そこで1980年ごろから登場するのが動物画だ。遠志70歳過ぎてからの作品だ。
もともと十代に描いた《雷鳥》や三十代の《警戒》のように遠志の動物観察眼と画力は卓越しているのだが、それが年を経てさらにブラッシュアップされて、鳥獣木版画の新たな世界が切り拓かれていく。特に鳥の動きを捉えた大作が素晴らしい。
《飛ぶ》でのフクロウの水平飛行、《飛び立つ》での鷲の羽ばたき、《丹頂鶴》での連続分解画、《清麗の舞い》での雌雄丹頂の戯れ。
一瞬を切り取った鳥たちのショットは、眼前にその場面があるかのように迫真かつ美しい。

そしてアフリカ大陸で見た光景。国土全体が檻のない動物園という別天地に生きる様々な動物たちに遠志は惹かれた。
風景画で活躍していた横長の構図が、疾走するチータやヌーを描くのにこれ以上ないというスピード感を発揮している。
動もあれば静もある。広大な平原に群れるゾウやリカオンやダチョウを絵という枠内に収めるにもやはり横長画面の効果は絶大だ。
動物の背景にキリマンジャロがあるとさらに絵は輝きを増す。
同じ版木を使い色を変えて刷った《キリマンジャロ 夕》、《キリマンジャロ 曇りの日》、《キリマンジャロ 朝》、《キリマンジャロスペシャルエディション》にはしばらくの間見入ってしまった。

木版画家吉田遠志の最後の仕事が、アフリカ野生動物の世界を色鉛筆で描き自作文も書いた絵本シリーズだ。
お持ちの方も、本屋さんで見た方もたくさんいらっしゃると思う。1982年から刊行開始、全20巻の予定が遠志の死去により17巻で終わった。
当展ではその原画を3巻ずつぐらいに期間を分けて展示替えしながら公開中。
子育て中のお父さんお母さん、子供の時に読んだというヤング世代、もちろん全然知らないかたがたも、夏休みを利用して吉田遠志の世界に耽ってみてはいかがでしょう。

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