最後の浮世絵師 月岡芳年
芦屋市立美術博物館|兵庫県
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芦屋で芳年展やるとどうなるか
答えは「無血」です。全150点の出展作品のうち血が流れてたのはたった1点、それも後半の報道画の中でのみ。
芳年の名を一躍有名にした《英名二十八衆句》他の「血みどろ絵」は出てません。
芦屋レーヌが見たら卒倒者続出になると、変な忖度があったのでしょうか、スプラッター全開の無惨絵は絶対にあると期待して来た私は拍子抜けでした。
「ク●●プを入れないコーヒーなんて」じゃありませんが、「血のない芳年展なんて」と言いたくもなります。
でもまあ、芳年の真の実力は血みどろじゃない歴史ものや伝奇もの、あるいは怪奇ものや風俗ものなんかで遺憾なく発揮されてることは周知の事実で、当展でも《大日本名称鑑》、《芳年武者无類》、《新撰東錦絵》、《新形三十六怪撰》などが楽しめます。
《東京自慢十二ヶ月》や《風俗三十二相》では美人絵でいい味出してるし、芳年最後のシリーズもの《月百姿》では、画業の集大成的な渾身の描写力で様々な月を表現しています。
とにかく上手い。師の国芳を超えたと言っていいのではないでしょうか。
国芳のデフォルメチックな人物の所作が、もっとリアルで大げさに、かつありうる動作になっているのがまるで、映画のスチールのようでもあります。
そこに彩色の美しさが加わるので、こりゃもう浮世絵じゃなくて確かに新版画だなあと改めて感ずるのです。
それにしても、やはり無惨絵の数点は出してほしかった。それあってこその芳年でしょう。
日本一の高級住宅街を有する芦屋市は、厳しい景観条例があることでも知られている町。建物や看板の配色仕様は、ここまでやるかというぐらい制限されています。
マチス的な色使いを町中の商業施設なんかで使おうものなら、たちまち市民からクレーム入り行政指導で塗りなおしさせられるはずです。
そんな町の美術館でやる芳年展に、血は不要だとのキュレーター判断があったのでしょうか。
市民も「血のない芳年」で満足し、血が見たけりゃよそでどうぞと割り切っていらっしゃるのかもしれません。
まあ、他で芳年見たことあるかたはそれでいいでしょうが、初めて芳年見に来たかたが、上手やなあ、えー絵を描きはるなあで終わってしまっては、なんとイケズな企画展なのかとつくづく思います。
芦屋市美術博物館はアクセスがやや不便な場所にあります。最寄り駅はJR芦屋駅か阪神芦屋駅で、そこから徒歩だと遠いので私はいつも阪急芦屋川駅からバスで行きます。(バスはJR芦屋→阪急芦屋川→阪神芦屋と回るので、どこの駅からでも乗れ、運賃は同じです。)
緑町バス停で降りて美術館までの道路沿いにはコンクリートの擁壁があり、そこにいろんな人が絵を描いています。
美術館に含めたタウンアートなのでしょうが、これがもう古くなって色褪せ、何が描いてあるかが全然わからない。
作者名を刻んだメタルの銘板が何とも悲しく見えます。
修復はもう無理かもしれませんが、景観を重んずる芦屋市なら何らかの手を打つべきです。