開館60周年記念 走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代
京都国立近代美術館|京都府
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走る走る泥たち
「前衛陶芸」なる言葉を初めて聞いたのだが、絵画や彫刻、音楽や舞踏にも「前衛」はあるのだから、陶芸にもあって不思議じゃない。
わざわざそういう接頭語をつけずとも、置物やオブジェとして前衛的な作品は目にすることはあったし。
ただ、美術作品に「前衛」と付くと、良くも悪くも「なんじゃこりゃ?」となることは多い。
京近でその二文字を堂々と掲げた陶芸の企画展があるのに興味が湧き、訪れてみた。
そのパイオニア集団は、戦後まもなく結成され、名を「走泥社」と言う。「走る泥」。泥を捏ねつつ時代の最先端を走り続けたということか。
作者名はすべて初めて聞く名前ばかり。でも前衛陶芸を観るにはむしろそのほうが好都合だ。
作者が誰であろうと、「なんじゃこりゃ」には、心を無にして対峙すればよいだけだ。
展示はイサム・ノグチやピカソの陶芸作品から始まる。走泥社の初期とほぼ同時期の巨匠作品も自由闊達でオモロイやつ。
戦後の解放された空気感がそのまま作品にも表れてる。そして走泥社員さんがたの作品へ。
第1章「前衛陶芸の始まり」では1946~1954年の作品群が並ぶ。ここでは、まだ「器」としての作品が主流をなす。
すなわち、花器であったり壺であったりの「用途」も持つ陶芸品。ただし、その形はまさに攻めまくり翔びまくりだ。
それが成功した例が生け花とのコラボである。
1950年代中期に、走泥社と華道との共催展が行われており、花が生けられた状態での器のモノクロ写真を見ることができた。
宇野三吾《ハニワ型花器》に小原流の生け花。これが実にいいのだ。普通なら主役は花だが、それを脇に追いやるかの如く主張する器。
走泥社の「器」はそれだけで見て楽しいのだが、生け花という強力な援軍があると両者の持つポテンシャルは掛け算で増大する。
今回の展覧会には、それをやった展示はなかったのが残念と言えば残念。
1951年の第1回走泥社展を取り上げた「美術手帖」のコラムには、「前衛分子」なる懐かしい闘争用語が出て来てるも、期待がこめられた評価であったのが印象的だった。
第1章では「なんじゃこりゃ」作品は少なく、余興の範囲にとどまっているが、第2章「オブジェ陶の誕生とその展開」ではついに、前衛陶芸が爆発する。
1955年以降1963年ぐらいまでの時期であり、「オブジェ」という錦の御旗の下、走泥社もそれ以外の作者も、堰を切ったようにイメージとアイデアの具現化に突き進んでいる。
「なんじゃこりゃ」も当然その数を増し、絵画や彫刻に負けじと陶芸作家たちは大張り切りってとこか。
私が好きなのは、見てオモロくてユーモアが感じられるもの。顔あるいは顔に見えるものって、童心をくすぐられていい。
NHKのゆるキャラ「どーもくん」みたいな森重忠男《作品》は好きだなあ。
こういうの見てて、「どっかで見たことあるような?」と思って気づいたのは、うちのセガレが小学生のとき、図工の時間に作った焼き物《謎の壺》だった(笑)
さて、「前衛陶芸」はますます加速し拡大し、日本での牽引者だった走泥社もその中の一つとしての存在となっていく。
第3章は、1964年~1973年の「現代国際陶芸展」に視点を置いた展示だ。同展出展作品が数々並んでいるが、技法の進化に伴っていろんな新しい表現が生まれてきたのがわかる。
特に大サイズの焼き物制作が可能になったのは、焼成炉等のハード部分が開発され普及してきたことによるものだろう。
この時期になると、今やあちこちの美術館の現代アートコーナーにあるような陶芸作品ばかりで「なんじゃこりゃ」のオンパレード、当展第1章がものすごく懐かしくなってくる(笑)
ふと思ったんだけど、前衛陶芸作品に失敗はあるのだろうか? 窯出しして、「だめだこりゃ」になるのか、ならないのか。
作者さんには失礼かもしれないが、少々の割れや欠け、発色のイメージ違いも大目に見てOK出してもわからんよね。
その点、「前衛じゃない陶芸」の作者さんが、窯から出した作品をたたき割る光景は、なんとストイックで神聖なのかと思えてくる。
当展、知らない作者さんばかりの中、唯一知ってる人がいた。
萩焼第12代三輪休雪(後の三輪龍気生)さんが、襲名前に本名の三輪龍作だった時の作品が5点出てた。
12代は、歴代休雪の中でも異端で、茶器からスピンアウトし、一貫してオブジェを作り続けた人だ。
前衛陶芸とはそこまで魅力的だったのか、私なんかには計り知れない世界だ。
その先駆者集団、走泥社の足跡を辿り、現代陶芸へとつながっていく歴史を振り返る格好の展覧会。
「前衛」なる言葉に拒否反応起こすかたもそうでないかたも、見ておいて損はないと思います。
なお、コレクション展「関東大震災から100年 池田遙邨《大正12年9月関東大震災》の全貌」も同時開催中。
関東大震災の20日後に上京した作者が、焼け野原となった東京や横浜で描いた膨大な数のスケッチ。
具体的な場所や地名が震災の凄まじさをリアルに伝えます。コレクション展は企画展料金に込みですので、絶対にご覧ください。