鑑賞レポート一覧

激動の時代 幕末明治の絵師たち

激動の時代 幕末明治の絵師たち

サントリー美術館|東京都

開催期間:

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圧巻!! 激動の時代を生き抜き、描き切った絵師たちの、気概を感じる作品たち

「芸術はバクマツだ!」のコピー(笑)流石です。
会場に入ると假屋崎省吾?かと思うクロスする真っ赤な角材。美術館のCM動画が言っていた《立ち向かう絵師たちの挑戦》《独創的》《新機軸》《迫真》《劇的》《伝統と革新》の文字が脳裏に‥。そしてその先にはキャプションなしにいきなり度肝を抜く『五百羅漢図』。これです。2011年に江戸東京博物館で100幅一挙公開の『五百羅漢図』を観ました。その数年後アメリカで公開され、ものすごい話題を呼んだだとか。それから間もなく増上寺で本堂地下に新しい宝物展示室が完成し、その記念と絵師狩野一信(1816~63)生誕200年の記念とかで、100幅の「五百羅漢図」の40幅づつを二度に分けての特別展示がされ、こちらもまた観に行きました。その『五百羅漢図』でした。
増上寺では「羅漢は釈迦の弟子として悟りを開き、人々を救済する存在として長く信仰されてきました。一信は様々な過去の作例を踏襲しながら、2幅に10人ずつ、計500人もの羅漢を描く空前絶後の100幅を構想。その信仰心と自らの画業の集大成として恐るべき技量を駆使し、一心に制作を続けましたが、完成まであとわずかというところで没してしまいました。残り4幅は妻・妙安、弟子(養子)一純らが補作して完成させ、文久3(1863)年増上寺に奉納されました。」と言っていました。出家した奥さんとお弟子さんは明治の廃仏毀釈運動から羅漢図を守り抜き、自ら尽力資金集めをして増上寺内に羅漢堂を建て、定期的に絵解きも行っていたとか。その後の羅漢堂火災や、更に震災戦災からも奇跡的に逃れ、今日も増上寺で守られているそうなのです。何より奥さんに喝采です。
展覧会では、永きにわたり画壇のトップであった狩野派にありながら、狩野一信は、あえて流派伝統にとらわれず新たな表現へ挑戦した絵師、の代表の様に紹介されているように感じました。確かに江戸画壇の主流だった狩野派は、江戸時代後半では伝統を守るだけではなく、やまと絵や浮世絵、琳派、西洋画法なども取り入れ、伝統に胡坐をかいて守るだけの流派ではありませんでした。でも、「一信」は生前一度も自らを「狩野一信」と名乗ったことはなかったそうです。婿養子先の「逸見一信」で通っており、弟子の名も「逸見一純」であったと。署名も「源一信」「顕幽斎一信」、僧位を得てからは「法橋一信」「法眼一信」と記しており、「狩野」署名のある例は全くないとのこと。「狩野一信」と呼ばれ始めたのは、彼の死後30年余もが過ぎた明治27年の大村西崖「狩野一信伝」が初見だそうです。もちろん木村氏は一信の妻に取材していて、「狩野一信」には妻の意志もあったのかも知れませんが。名や所属流派はともあれ、今、研究者でも何でもない私たちにとっては、「一信」がこの激動の時代に、この作品を描いたことに意味があると思います。西洋絵画的な明暗表現や漫画を思わせるような吹き出しの用い方は今見ても斬新です。そして観る者の心をぐっと引き寄せる迫力、ばかりではない細やかな描写も、極めて上手いです。何だろう、南北朝時代の全50幅東福寺の画聖明兆の「五百羅漢図」といい、江戸時代中期以降、各地で様々な五百羅漢の画像や木彫、石像が盛んに制作されるようになります。やがては制作に想像を絶する時間と労力が必要なことから、ひたすら打ち込んで造るという功徳に対する願いも反映されて、「羅漢ブーム」ともいえる現象が起こったといいます。先にも書きましたが、一信は約10年の歳月を五百羅漢図の制作に費やし、その間、他の作品をほとんど描いてないと推測され、かなりの思い入れがあったのではないかと想像してしまいます。あまりに打ち込み過ぎたのでしょうか、あとわずかで完成という96幅で、まだ48歳で病没してしまいました。不安と希望とがないまぜの、激動の時代に、五百羅漢には何か特別な力があるように思えて来ます。そんな一信の悲願に思いを馳せながら、特に表情豊かな第45・46幅と陰影表現の凄い第49・50幅、全期通しの展示作品です。是非観てください。一信だけで長く書いてしまいました。すみません。
ともあれ、私が今展を観たいと思ったのは、ずっと以前に観た、ある意味衝撃だった一信の『五百羅漢図』と、奇想の画家と言われる国芳・暁斎・芳年が、そして光線画の清親が大好きなことと、そして洋風画・銅版画で有名な雷洲を、一度じっくり観たかった、のが理由でした。ボリュームもあり、変化にも富んだ内容で、期待以上にとても素晴らしい展覧会でした。是真の絵画にも感動しました。平日昼時、会期終盤の割にとても空いていて、ゆっくりじっくり観ることが出来ました。
幕末明治の激動の時代に、ややもすればジリ貧に陥りそうな状況下にあって、どん欲なまでに洋画を学び吸収し、そして伝統を受け継ぎつつも他国にはない、新しい表現の「日本画」をまた「浮世絵」を、生み出した絵師たちが、こんなにも沢山いたということが、ものすごく嬉しい気持ちになりました。そうして彼らが繋いだバトンは、その後の沢山の絵師たちがまた其々なりにしっかり受け継がれて来ているのだとも、感じた展覧会でした。

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