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日本工芸会陶芸部会50周年記念展 未来へつなぐ陶芸―伝統工芸のチカラ展

日本工芸会陶芸部会50周年記念展 未来へつなぐ陶芸―伝統工芸のチカラ展

山口県立萩美術館・浦上記念館|山口県

開催期間:

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攻撃は最大の防御

「伝統と革新」などと簡単に言うが、実際には日本の伝統芸術の世界では伝統はあっても、革新が大手を振って席捲している分野はあまりないように思う。
しかし今回、陶芸の今を代表する作品を目の当たりにして、これぞ革新、しかも伝統に根差した世界に誇れる日本の芸術だと確信した。(ダジャレじゃないですw)

この展覧会は、日本工芸会陶芸部会の50周年記念展だそうで、戦後日本の陶芸界を牽引してきた作家、さらにそれを継承しアップデートしてきた作家たちの名品を1作家1作品で紹介するものだ。人間国宝の物故者もいれば、現役バリバリで大活躍中のかたも多数あり。日本の最先端陶芸は、これほどまでのものだったのかと、全作品に感動した。

「伝統」的な作品は、やはり備前、萩、唐津、志野などのシブイ作品が典型だろう。
金重陶陽、藤原啓、三輪休輪、中里無庵、荒川豊蔵らの作品は奇を衒わず見る者に安心感を与えてくれ、なおかつ気品と重厚感に満ちている。これが伝統というものか。

そして、伝統技法・作品・作家の薫陶を受け、そこから陶芸の未知なる「革新」領域へと踏み出した作家たち。
彼らは、色、艶、文様、絵、形、彫り、掻き、ひび、肌合い、等々陶芸が有するアスペクトの新たな可能性を求めて情熱を燃やし続けてきたチャレンジャーだ。
挑戦は幾度となく繰り返され、数限りない失敗や挫折を経てたどり着いた作品が会場に並んでいる。
これは、もはや理科系の為せる技であり、実験結果とも言える。
実験で最重要なのは再現性である。ここに並んでいる作品群は、偶然できた一発作ではないはずだ。
土、水、釉薬、窯、火、温度といったパラメーターをコントロールすれば、再現性のある作品はできる。
これこそが、当展のテーマ「未来へつなぐ陶芸」だろう。

個々の革新的な創作技術は、会場でキャプションを読んでいただきたい。それでも難しければ、図録を2200円で買えば、基本用語と共に理解可能だ。
ただ、読めばわかるとは言うものの、その技術は達人、超人の領域にあるのは事実であり、板谷波山の葆光彩磁、松井康成の嘯裂に至っては、神業だ。

出展作品見ていて、個人的に惹かれた技術はグラデーションだ。
色のグラデーションは、思わずハっとするような美しさ。絵画と異なり、焼成という目視確認できない技でこれをなしえた点に価値がある。
徳田八十吉、木村芳郎らの作品を見ていると色の磁力みたいなものに吸い寄せられてしまう。
形の漸次変化も面白い。
たとえば岡田優の鉢。特徴をここで文字にするのは非常に難しいのだが、一見普通の白釉鉢に現れる特異点に何の違和感もなく美を感じることって、すごいとしか言いようがない。

陶工たちに何故か好まれている形に、逆円錐形の鉢がある。
口が広く底が極小で、内側が蟻地獄状の形。当展にも5~6点はあった。
陶芸の美しさをシンプルに感じるのに適した形とでもいおうか、これも私が好きな作品だ。
しかし、この形の鉢は観賞用には良いが、実用上の問題がある。最近はラーメン屋がこの形のドンブリをさかんに使うようになったことだ。
スープ量を大幅削減でき、上げ底で出してるわけだから誠に遺憾であるw。
話が逸れたが、当展に出てくるような作品には、「用の美」は必要ないってことが言いたかった。
だって、こんな名品に水入れて花生けたり、饅頭乗せたり、煮しめを盛ったりしたくないでしょ。
いや、それを是非してくれと作家さんたちは言うかもしれないが・・・

それにしても、現代陶芸の美しさは何なんだ。大胆にして繊細、流麗にして堅固、単純にして精緻。
色にせよ形にせよ、こういう切り口があったのかという、「攻め」の姿勢が作品となって見事に開花している。
「攻撃は最大の防御」。攻めることによって、伝統が守られることを作品が証明している。

それは、先祖代々のやきもの家元でも、言えること。
樂家十五代直入、三輪家十三代休雪のお二人に共通するのは、まさに攻めた樂焼、攻めた萩焼だ。
十五代坂倉新兵衛さんは萩焼の皿に絵付けをなさってるのにも驚いた。そしてそれが実にいい味出してる。
ここにもオフェンスの妙が見てとれるわけだ。

攻めて守って、現代陶芸はさらなる高みへと昇り続ける。
当展に集結した139点の精選傑作たちを見て「日本のやきもの」の美しさと技術を知ってほしい。

巡回は下記。
狭いパナ美にあれだけの数を詰め込んだのには驚いた。見るならやはり広々として、人いきれを感じない美術館がおすすめです。
その点、萩美は文句なし。私が行った7月3連休初日の土曜は、人影まばらで極上の鑑賞空間に浸れました。
各作品の間隔も余裕あって、他の客と近接して見るなんてまずありません。
ちなみに、萩美では当展関連イベントとして、8月6日に脳科学者の中野信子さんと、国立工芸館の唐澤館長の特別対談あり。
行きたかったぁ。

【巡回】
東京 パナソニック汐留美術館 終了
金沢 国立工芸館 終了
萩 開催中
有田 九州陶磁文化館 2022.9月~
熱海 MOA美術館 2022.12月~
瀬戸 愛知県陶磁美術館 2023.4月~
笠間 茨城県陶芸美術館 2023.7月~
丹波篠山 兵庫陶芸美術館 2023.9月~

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