Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展
東京都現代美術館|東京都
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戦争画に対する現代美術家の応答
ここでは、藤井光氏の展示について書きます。
日本美術史において、太平洋戦争に関わる戦争記録画は、特殊な歴史を刻印された作品群であることは、間違いありません。それは、いわゆる太平洋戦争をめぐる「負の記憶」ではありますが、単にそれだけの問題ではありません。戦時下における美術家たちの立場や心情、国内でのイベントとしての社会的機能・効果、戦後におけるアメリカ/GHQの依頼による藤田嗣治による収集、戦後における東京国立近代美術館の対応とアメリカからの無期限貸与等々、戦中/戦後、日/米に関わる複層的な歴史‐思惑が凝縮されています。
このように考えてくると、戦争記録画とは絵画作品の集合体であるというにとどまらず、また、美術という領域にもとどまるものではなく、現在の日本とその来歴に関わる問題系そのものといってもよいほどに、重要で、かつ、どう捉えるかというところから理解自体が困難な「問題」そのものといってもよいはずです。
そうした「問題」であるがゆえに、長らくの/大勢による等閑視がつづいてきたが、もちろん、そうした中でも、何人かの画家や研究者がこの「問題」に果敢にアプローチしてきました。その試みの蓄積は、現在までのところ、『戦争と美術 1937-1945』によく集約されているといってよいが、それはスタートラインではあっても、何かしらのゴールなどでは決してありません。
これまでに、何人かの現代美術家が、戦争記録画をめぐる「問題」に、作品のかたちで応答してみせたことはあります。ただし、藤井光氏による今回のアプローチは、初めてのものとして特筆に値するものです。というのも、藤井光氏は今回、《戦争記録画展》を、東京都現代美術館において「再演」してみせたのですから。もちろん、会場に、本物の戦争記録画はありません。しかし、会場にはキャンバスが所狭しと展示され、そしてキャプションが付されています。それを描いた画家の名前のタイトルも明示されながら「見ることができない戦争画」、こうした現況それ自体が今回の展示であり、藤井光氏による作品であるのです。ここに、「問題」に対する批評性は明らかだと思います。これもまた、スタートラインの1つには違いありませんが、米国資料のリサーチに基づいたこの展示が切り拓いたも視界の重要性を、最後に強調しておきたいと思います。
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