ボストン美術館展 芸術×力
東京都美術館|東京都
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【ボストン美術館展 芸術×力】~美の力・国の力・笑いの力~
都民の日、会期終了間際の【ボストン美術館展】駆け込み鑑賞に訪問しました。
会場は無料入園日で賑わう上野動物園の隣、東京都美術館。たまに鳥獣の雄叫びが聞こえますが、スルーしていそいそと会場へ。
幻の国宝【平治物語絵巻】と【吉備大臣入唐絵巻】を中心に、注目作品のレポートと、そこから妄想するいろんな『力(パワー)』への考察です。
そもそも本展のテーマである『力』が指すのは、世界に自らの力を表す君主・王侯貴族の肖像画等、権威を高める為に利用した芸術。美しい工芸品、装飾品で自分の周囲を彩り流行の力を持つ美術としての『力』を示しています。
しかし個人としてはその『力』の他に、展示品がエジプト、ヨーロッパ、インド、中国、日本など世界をまたぐ地域に及ぶ事実が示す、ボストン美術館がいかに経済力を持っていたのか、あるいは美術品を買い付ける能力が高かったのか。美術館、ひいてはアメリカというお国の経済力、政治力の強さに思い至ります。
そして最後の『力』は鑑賞作品と考案されたグッズに思わず漏れる『笑い( ´艸`)の力』。
歴史で紆余曲折、なんだかんだあっても作品自体が持つ『力』が最終的に人の心に遺る美術なのだなと再実感した展覧会でした。
まず会場の動線は時代や地域の枠に括られるのではなく、設定された以下のテーマに沿っています。
地域の括りや時代を想定するとてんでんバラバラな印象に見えなくもなくて、ちょっと違和感を感じますね。最後は気になりませんけど。
1------姿を見せる、力を示す=君主の権力がテーマ。入口正面には【戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像】がドーンと飾られてアピールしてます。ほかにも古代エジプトの神で王を象徴する、頭部がハヤブサの《ホルス神のレリーフ》やイギリスのチャールズ1世(清教徒革命で処刑されちゃいましたけど)の娘、メアリー王女の肖像など。そして権力という括りで、【平治物語絵巻へいじものがたりえまき】もこちらでした!
詳細レポ①【平治物語絵巻 三条殿夜討巻】へいじものがたりえまき さんじょうどのようちのまき 鎌倉時代 紙本着色
国宝レベルの歴史絵巻。作者は大和絵の流派 のひとつ、住吉派の祖と言われる絵師の住吉慶恩です。
実際にあった事件を絵巻にしているので、現代でいうと新聞、あるいは少々描写を大げさにしたタブロイドに近いですね。
藤原信頼と源義朝(鎌倉幕府を開く源頼朝の父)の軍兵が後白河(ごしらかわ)上皇の暮らす三条殿に放火して、上皇を誘拐した上で幽閉する場面です。あらすじで説明すると色々酷いですね。
夜襲と放火の襲撃場面なので、燃え盛る炎、上皇を無理やり拉致する鎧姿の武者たちの表情や人相まで千差万別でとてもリアルです。
そして火事と襲撃のせいで崩れる家屋の柱の下敷きになる逃げ惑う人々など、怒涛の情景が1000年近く前とは思えない色鮮やかさで描かれています。
2------聖なる世界=世界の宗教についての展示です。14世紀のキリスト聖母子を描いた祭壇画、東大寺に伝来した紺紙銀字経《華厳経けごんきょう(二月堂焼経)》、平安時代の大日如来像等。
3------宮廷のくらし=王侯貴族の暮らしに伴う美術品の紹介。陶磁器等工芸品や世界の宮廷の様子を描いた絵画等。
詳細レポ②【マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ】1929年アメリカ
アメリカの大富豪、マージョリー・メリウェザー・ポスト(1887-1973)が所有した大きすぎるエメラルドのブローチです。
彼女は実業家で、ハイジュエリーカルティエの上得意。収集したジュエリーを広く世間に周知したいと美術館に寄贈した太っ腹なアメリカ淑女です。
注目はエメラルドのサイズと細工です!なんと60カラットで多分縦の直径3cmくらいはありそうです。
しかも表面にはアイリスの模様が彫られていて、この彫刻というのが凄いのです。
宝飾関係では知られていますが、エメラルドは構造上熱や衝撃に弱くて、ちょっとぶつかると欠けちゃったりと取り扱い要注意な宝石。
その石に彫刻を施すのに、どれほど細心に繊細に心血を注いだかが察せられます。
4------貢ぐ、与える=外交においても活用された、各国特産の交易品の紹介。銀食器や陶磁器、日本の特産品ともなった伊万里焼きや金箔の張られた屏風等、赤や金箔等見栄えの良い工芸品が紹介されています。
5------たしなむ、はぐくむ=権力者たちが自国の芸術のパトロンとなり、重要な美術品を収集し、代々に継承し、時には同時代の芸術家を支援したことをテーマにしています。括りが少々大まかですが、ダントツの注目作品【吉備大臣入唐絵巻きびだいじんにゅうとうえまき】もこちらです!
詳細レポ③【吉備大臣入唐絵巻】きびだいじんにゅうとうえまき 平安後期~鎌倉初期 紙本着色
幻の国宝です。『幻』の理由は日本が所有していれば多分間違いなく国宝認定されていた作品のためです。
何故アメリカの美術館所有になったかをサックリ言うと、絵巻は京都の三十三間堂所有から戦国時代の戦乱を避けて若狭(福井県)に疎開。
現地の領主・浜藩の所有になりましたが、長く保管されたものの明治の廃藩置県と大正の関東大震災で保管できる経済状況では無くなり、泣く泣く手放しましたが青息吐息経済力の日本では買い手がつかず、ボストンに買われて海を渡りました。
ちなみに国宝級美術品の海外流出に当時から非難轟々だったらしいですが、お金のパワーの前には現実は厳しかった日本。
現在にも通じる世知辛い現実です。しかし湿気の少ないアメリカ大西洋気候でのバッチリ保管で劣化が少なく、色彩豊かな日本美術の粋が今こうして堪能できるので、それで良しとすべきなのでしょう。たぶん。きっと。
時代背景に複雑な気分になりますが、実際に内容を読み進めると作品へのツッコミと笑いが頭を占めてしまって美術の視点や感慨がどっかに吹き飛びます。
現在有力な説では個人の作成ではなくて工房での制作らしいのですが、このストーリー考えた人誰なの?と問い詰めたくなる。
内容を要約すると、当時の中国に留学した日本の官僚吉備大臣が、あまりに優秀で嫉妬されて脱出不可能な高い塔に幽閉。
ところが神通力持ち(なんで?)の吉備さんは空を飛んで脱出し、自分が受ける試験問題を外から覗いてカンニングして試験全問正解!
続く試練の囲碁の勝負では、人目を盗んで碁石を呑み込んでイカサマして勝利をおさめ、石の吞み込みを疑われて下剤飲まされても神通力で効き目無し!
というコメディ満載な超大作。ディズニーのラプンツェルとアラジンに、インド映画をトッピングしたような冒険活劇な入唐絵巻、だれか漫画にして欲しいです。
切実に!吹きそうなの我慢して腹筋使ったし。
以上の5章からなる貴重な文物の鑑賞を終えましたが5章のメイン【吉備大臣入唐絵巻】で笑いの印象が山水画やら宝石・花鳥図の美を上塗りしてしまった展覧会。
美術に意識を戻そうとしましたが、ラストの記念ガチャで引当てた缶バッジで再び笑いのパワーに玉砕します。
タイトル【ジャハーンギールの大使カーンアラムとシャーアッバース】モチーフの缶バッジ。
絵柄はイスラム風おじさん2人が仲良く串焼き焼いてキャンプ飯してるようにしか見えないです。
作品内容はムガル帝国(インド)の大使とイランの王様のはずなのですが。。。。。
王様と大使だよね?え?何故に串焼き。。。ボストン美術展という美術要素が無さ過ぎでいっそ清々しいです(笑)
厳粛なイメージから始まりましたが、最後は作品自体の力パワーに笑顔になった楽しい展覧会でした。
グッズは未だホームページから購入可能ですので、興味があればご参照ください。
ボストン美術館展公式HP
https://www.ntv.co.jp/boston2022/
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