鑑賞レポート一覧

佐野ぬい:まだ見ぬ「青」を求めて

佐野ぬい:まだ見ぬ「青」を求めて

青森県立美術館|青森県

開催期間:

  • VIEW193
  • THANKS1

青の森 @青森県美

 弘前出身の佐野ぬい氏の大回顧展。2年前に90歳で没する直前まで「ぬいブルー」という青の表現を探求された方。ということで、100点近くの青い絵がずらりと並ぶ空間。文字通り、青の森が、青森県美に広がっている。

 冒頭は、若かりし頃の白黒写真と、2枚の肖像画。お美しい方だ。そして、まずひと通り展覧会場をねり歩くのだが、空間をうめつくす青に視覚が支配され、個別の作品になかなか目が向かわない。これはやや困ったものだ。

 そして、2巡目。今度は、様々な色味・明るさ・鮮やかさの青が、丁寧に塗り重ねたり引っ掻いたりと筆致の表情も多彩に、語り掛けてくる。喜怒哀楽、希望も不安も、晴れやかさも憂鬱も、高貴さも卑俗さも。青には実に幅広い表情があることに気づかされる。多弁かつ器用で、奥深い。

 近現代作家の回顧展、特に女性作家の場合は、ライフイベントと作風変化を照らして思いを寄せるのが面白い。
 佐野ぬい氏の場合、30歳頃に、彩度高い青の色面が訴求する、表現意欲に溢れる作画が台頭する。シンプル、シャープで、迷いがない。これは丁度、2人のご子息に恵まれた時期に当たっている。なるほど、と妙に納得する。

 展示構成の中盤、天井高く広々としたC展示室は圧巻だ。ジャズやオペラといった音楽の絵画表現をテーマにした60歳代の大作が、威風堂々と大壁に掲げられる。
 ある壁面には「ブルーノートの〇〇」と題した三作。小さめの色面の繰り為すリズム感は、ジャズセッションの調和と緊張さながらである。パウル・クレーが連想される。
 また別の壁面を飾る2mx2.5mの大画面二作は、オペラが題材だろう。原色の面・線が複雑に絡み合う様は、オーケストラとコーラスをつきぬけるアリアの情景に見えてくる。モーツァルトではなく、プッチーニの連想だ。
 この展示室は実に劇場的な視覚なのだが、それには当館展示の仕掛けがあった。長方形のキャンバスの形状通りに、四角くスポットライトが照らされている。この照明方法はあまり馴染みがなく新鮮であり、キュレーションの心意気を感じる。
 部屋の中央には、画材の展示もあり。パレットと並んで、青の油絵具を混ぜている四角い缶箱をみつけた。これはヨックモックの缶箱かな、やっぱり青にはコレよ、と小さな発見に嬉しくなる。

 “まだ見ぬ「青」を求めて” と題した最後の展示室は、晩年90歳頃の作品群。静かなエネルギー、抑制されたセンチメンタリズムが滲み出る作品を前にすると、観者の私の呼吸もゆっくりと深くなる。
 同サイズの《モノローグ》《青い時間》の二作が並ぶと、そこは差し色の無い純粋に青だけの色使いに、佐野ぬい氏の原点回帰趣向が想起される。
 最後の大作《セルリアンブルーの街》は、作家自身の人生の回顧のようで印象的だ。画面上のフォルムは、街でもあり、ヒトにも見えてくる。少しだけ右下がりに傾いた中央の正方形の青はご本人かな。左側はひっかき傷で荒れているが、右側はゆったり平滑で豊か、このコントラスト。この正方形の右下には青・白に塗り分けた小さめの正方形、これはお二人のご子息と母の絆のように見えてくる。

 女子美大の学長まで勤めあげられた地元出身の作家を採り上げ、作品を数多く収蔵し、没後2年の時期に立派な大回顧展開催でリスペクトする。棟方志功の没後50周年展も同時開催である。県立美術館のあり方の正道を見た、清々しい余韻の展覧会であった。

THANKS!をクリックしたユーザー
Sukekiyo-Acckermanさん

鑑賞レポート一覧に戻る

こちらの機能は、会員登録(無料)後にご利用いただけます。

会員登録はこちらから
SIGN UP
ログインはこちらから
SIGN IN

※あなたの美術館鑑賞をアートアジェンダがサポートいたします。
詳しくはこちら

CLOSE

こちらの機能は、会員登録(無料)後にご利用いただけます。

会員登録はこちらから
SIGN UP
ログインはこちらから
SIGN IN

ログインせずに「いいね(THANKS!)」する場合は こちら

CLOSE


がマイページにクリップされました

CLOSE マイページクリップ一覧を見る


がお気に入りに登録されました

CLOSE マイページお気に入り一覧を見る


を訪問済みに移動しました

CLOSE マイページ訪問済みイベントを見る

CLOSE

name

参考になりました!をクリックしたユーザー 一覧
CLOSE