躍動するアジア陶磁 ―町田市立博物館所蔵の名品から―
山口県立萩美術館・浦上記念館|山口県
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アジアの純真
私と東京都町田市との関りは市立国際版画美術館に行くときぐらいしかありません。
いい美術館だし好企画展も開かれるので好きな方も多いと思いますが、もう一つ市立の博物館てのもあったんです。
過去形なのは、新築移転となって現在休館中だから。そしてその移転先は版画美術館の隣なんだそう。
隣と言ってもそこは山じゃんと、美術館をご存知ならそう思う人多いはず。私もそう。
そこを切り崩して併設することには、反対運動があったものの結局その案になったみたい。
新館は2029年オープンだそうですが、版画館と合わせてより一層良くなってほしいもんです。
で、博物館休館中を利用して所蔵品が他県各所を回っており、陶磁器展が浜松に続いて山口県に巡回して来ました。
場所は陶磁器と浮世絵の殿堂、わが山口県立萩美術館・浦上記念館です。(名前がダブルでも一館です)
AAさんのチケプレもあってさっそく夫婦で行ってまいりました。ありがとうございます。
7月最後の土曜日、館内はガラガラで貸し切り状態。暑いからか皆さんあんまり外出したくないのかなあ。
ちなみに、現在中国5県でインターハイやってて、萩市でも何かの競技やってたらもうちょい人出はあったかもしれませんが萩では何もありません。
町田からやって来たのはアジアの陶磁器です。アジアと言っても広うござんすが今回の展示は東南アジアが主役、プラス中国。
東南アジアは産地国名で言うと、ベトナム、タイ、クメール(カンボジア)、ラオス、ミャンマーです。
制作年代は、最も古いのでBC2~1世紀の中国前漢、そして1~3世紀の後漢時代の中国と同時代のベトナム。ただしこの時代の作品は数点に留まり、全出展数135点の大半は、10~16世紀の東南アジアで作られたものです。
展示はおおよそ時代順、さらには制作地域をまとめた形で並んでいて東南アジアの陶磁器について学習しながら見ることができます。
要所では壁に大パネルで当時の地図と解説もあって、痒いとこにもバッチリ手が届いています。
出展品の産地としてはベトナムが多いのは、地図から見たら納得できます。東南アジア諸国で中国に隣接してセラミックロードがあるのはベトナムだけと言っていいからです。ラオスもミャンマーも中国国境はあるけど山岳地帯なので、中国との直接交流はさほど活性化しなかったのかな?
宋や明の時代の中国陶磁器と作陶技術は東シナ海沿岸部から陸路や海路でまずベトナムへ流入し、続いてクメール、タイと地政学的に自然な流れで南下していったのでしょう。
東南アジア各国焼き物の特徴ですが、色調は概して落ち着いた感じです。
クメールの灰釉、黒褐釉の作品がその代表とも言えます。11~12世紀のクメール朝隆盛期に多く制作されています。
一方でクメールにはユニークで面白い形状があります。兎をかたどった壺なんかはボテロの絵みたいにずんぐりと丸まってます。
ベトナムは、中国に密接していただけに白磁と青磁が11世紀ごろから登場しています。
今回勉強になったのは青磁の色。青磁というと、二大国宝の飛青磁(大阪東洋陶磁美)や鳳凰耳花生(久保惣美)の緑色を思い浮かべますが、ベトナムでの青磁はあそこまで濃く発色していません。淡い色合いがほとんどで、キャプションなければ青磁だと思わないでしょう。
その解説によると、青磁の色は釉薬よりも焼き方に左右されるんだそう。タイの青磁も似たような色調で、やはり本家中国青磁の美しさを再現するとこまではいってません。それでも、渋い青磁もなかなかいいもんです。
タイは東南アジアにおいて植民地化されなかった唯一の王国だけあって、色よりも形や文様の優雅さが宮廷文化の香りを漂わせています。
15~16世紀ごろになると、ついに東南アジアにも色絵が席巻してきます。ベトナム、タイ、ミャンマーと、色絵陶磁器も当展終盤にまとめて競演です。
その師である中国からももちろん多数の模範的名品が華を添えてます。
今回は特に鉄釉による黒絵の章もあって、個人的にはいちばん良かったです。
3世紀からやってる中国の鉄絵は別格なので言うに及ばずですが、タイやベトナムで壺や鉢に書かれた黒の絵柄にも中国にはない良さがあって好きです。
ちなみに飛青磁の黒い斑点も鉄釉なんだそう。黒のアクセントって、なんかいいですね。
さて、当展で感じ入ったのはキャプションのカードです。品名、年代、産地を記したカードの冒頭に1行で豆知識が書いてあります。
これが実にいい! 静嘉堂のキャプションみたいで。
その作品の紋様や絵柄のウンチクとか、当時の時代背景とか、現地の慣習とか、作品に付随したエピソード的コメントがわずか1行にまとめてある。
これって、学芸員さんの素養が極めて高くないとできない技で、それを全作品でやってのけてらっしゃる。
萩美の学芸員さんの優秀さは以前から感じてましたが、改めてその思いを強くしました。
企画展見た後はコレクション展示室へ。陶磁室では「アジア陶磁の茶道具」、浮世絵室では芳年「風俗三十二相」が展示中です。
前者は浦上コレクションのうち、ベトナム陶磁器から茶道具に使えそうなのを見立てて陳列してみようという趣旨。
合子や水差といった「安南染付」の名品は茶の湯の席に出しても何ら違和感ないですね。
後者のコンプリート展示は2年半ぶりかな。これもキャプションの解説が秀逸。幕末~明治の全32人の女性は、32回のオムニバスドラマやれるほど表情豊かです。
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