寄贈記念展 澤乃井櫛かんざしコレクション ―美を継ぐ―
細見美術館|京都府
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小さなキャンバスの大きな自慢
これまで博物館や美術館で多くの櫛や簪を見てきましたが、それらは常に大きなテーマの一部であり、私はこの小さな作品たちをつい見過ごしてしまいがちで、ろくに知識も持ち合わせていませんでした。
そんな折、細見美術館で開催中の「澤乃井櫛かんざしコレクション-美を継ぐ-」を訪れる機会を得たことは、櫛や簪を美術品・文化財としてじっくり見直す良いきっかけになりました。
細見美術館はチケット半券と受付でいただくシールを提示することで再入場可能でした。今回は時間と体力に余裕があったので、一周目は予習無し、説明も極力見ず直観することにして、ひと段落したら休憩中に知識の付け焼き刃で学んだうえで二周目をまわることにしました。
先入観で高級な櫛といえば鼈甲というイメージがありました。確かに展示品にも鼈甲製品はいろいろありましたが、その他にも、木、象牙、ガラス、セルロイド、アルミニウム等さすが蒐集家らしいバラエティの豊かさのおかげで、見ていて飽きが来ませんでした。もちろん、女性を美しく飾る点では一貫しており、安心して蒐集した岡崎氏の熱意を堪能できました。また、仕上げには蒔絵を施しているものが多く、描かれたテーマも動植物、地図、古典絵巻、民話、年中行事など幅広く、まさに名刺サイズの自由なキャンバスをみているようでした。数ある櫛の中で私の推しは、「桜花嵌装鼈甲櫛」と、「蜻蛉秋葉蒔絵螺鈿象牙二枚櫛「芝山」銘」の2点で、前者は飴色の鼈甲を地として、褐色の鼈甲を桜の花木の形に精密に嵌め込んだ素晴らしい技巧の一品で、後者は隣接して展示してあった岡崎氏お気に入りの着物との調和がとれていて、渋くて品がいいと直感で気に入ったものでした。
和風な髪留めといえば、これもまた先入観ですが、櫛よりも簪(かんざし)の方が強いのは舞妓さんのイメージからでしょう。展示された簪はシンプルなものが多かったものの、「びらびら簪」に分類されたものは、これでもかというほど盛られ、とことん派手に作られていました。少し誇張して言えば、酉の市や十日戎の縁起熊手のような印象を受けます。普通の感覚なら、交番(警察官のいるあれです)を金銀珊瑚で作られた飾りに乗せようなんて、なかなか考えませんよね。これに目をつけた岡崎氏の、遊び心に満ちた茶目っ気を感じました。
また、展示の仕方が別格扱いだった秋田の花嫁がつけていた簪は、極端に大きく装飾も派手で、素材も鼈甲、金、銀でした。三日三晩かけて行われる結婚式に、一日ごとつけ変えていたのだそうです。派手な結婚式は何か所か見聞きしていましたが、秋田もその一つなのだと、今回初めて知りました。私の簪の推しは、上記の交番が乗っている、「文明開化飾り金銀珊瑚びらびら簪」でこれは細見美術館さんのホームページにも掲載されていますので、どのようなものかは大体わかりますが、ぜひ現地で見て欲しい一品です。笑ってしまうくらい文明開化を詰め込んでいました。
櫛や簪をつけた人とすれ違うだけなら、「綺麗だな」「可愛いな」といった感想で終わってしまいますが、身近な人同士で装いについて語り始めたら、この小さなキャンバスに表現された絵や細工は途端に輝き出します。風流、教養、そして洒落への造詣を主張し、女性同士で装いを褒め合ったり、時にはさりげなく教養をひけらかし合ったり。きっと互いの「粋」を競い合っていたのでしょう。
この特別展には、櫛や簪の他にも笄(こうがい)、矢立、美人画、筥迫(はこせこ)なども展示されており、小さなものでもこだわりを持って良いものを持つという気概は、昔も今も変わらないことを実感しました。
美術館の地下2階には、ミュージアムショップとJAKUTYU CAFEという喫茶店が併設されており、ショップには今回の展示会に合わせた、書籍、ポストカード、クリアファイル、マグネットなどが販売されていました。
今回、私は再入場して二周したわけですが、一周目が終わってからカフェのテラス席で紅茶を飲みつつゆっくりしていると、時間の流れから少し切り離された静かな時を過ごすことができました。一周目の回想をしたり、二周目の予定を立てたりしながら。
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