永青文庫 近代日本画の粋 ―あの猫が帰って来る!―
永青文庫|東京都
開催期間: ~
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細川護立氏に感謝。この時代にだからこそ生まれた? 素晴らしき近代日本画!!
「あの猫が帰って来る!」のサブタイトル。菱田春草の《黒き猫(重文)》は、永青文庫さんの日本画コレクションを代表する作品といえるらしい。墨のぼかしで表現された黒猫の柔らかそうな毛並。また、背景のうっすら色づく柏葉と、足元にひとひらふたひら落ちた枯葉から、深まる秋が感じさせられ、今の季節の「近代日本画名品展」の主演としては、まさに適役かと思われます。さらに今回は、修復明けのより美しくなった《黒き猫》お披露目ということらしいです。菱田春草と言えば、療養生活中に生み出された不朽の名作《落葉(六曲一双屏風/重文)》とそのシリーズです(永青文庫/六曲一双屏風、福井県立美術館/六曲一双屏風、滋賀県立近代美術館/二曲一隻、茨城県近代美術館/二曲一双、と未完品も‥)。もちろん《王昭君》、《賢首菩薩》も良いですが、私はこの《落葉》シリーズの、特に重文の永青文庫さんの作品の大ファンなもので。《落葉》の中にも登場している柏も描かれた黒猫ちゃんの帰還を楽しみに出かけました。修復を終えた《黒き猫》は、誰もが思わず手を差し出したくなる? その毛並みの繊細さに見惚れます。やや警戒してこちらを見る金泥で描かれた目もとやイカ耳の表情に、ちょっぴり毛を立ててふわっと膨張させて身を大きく見せているのかも知れませんね。すばらしい!! 春草は36年の短い生涯の中で判っているかぎり21点もの猫図を描いているそうなのですが、自身は「その媚びゆえに猫はあまり好んでいな」かったという‥。画材としてのみ、猫を見つめ続け描き続けた‥、なんかその人となりを感じます(笑)。クラウドファンディングに国・東京都・文京区からの補助を受け、まさに官民一体の支援で実現しました。これを記念して、修理のポイントも添えて、11月3日までの期間限定公開ということでした。後期展示を見ると件の《落葉》が記されていました。春草の《落葉》五作品は、未完の1点は一度しか見ていませんが、他の4作品はそれぞれ、これまでに何度となく見ています。永青文庫の作品は、写実的な構成が特徴で、少し後に描かれた福井県立美術館の作品は装飾性を追求した感じで、永青文庫のものより少し前に描かれた滋賀県立近代美術館の作品は、写実性を洋画の陰影表現でトライした感じでした。春草自身の到達点が、福井県立の日本画らしい装飾性にあったのかも知れないのですが、私は個人的には永青文庫さんのものが一番好きです。これはもう後期も行くしかありません!! と《落葉》好きの夫もつれて行って来ました。何度観ても素晴らしい!! 線や透視図法を用いずに、色づかいと樹木の配置や落葉の散り具合だけけで、雑木林の奥行きを見事に表現しています。そしてこの空気感。絹ではなく紙本なのに、うっすらと金色をおびた光沢。晩秋の朝の光の射す雑木林の、少し乾いた、それでいてしっとりとした空気をも、描いているようです。試行錯誤しつつ到達した朦朧体技法で、混色しても濁らない透き通った繊細な色の移り変わりに魅せられます。六曲一双の前に居て、本当に武蔵野の雑木林に身を置いているような感覚になり、「ヒッ!ヒッ!」と高く可愛らしいジョウビタキの声まで聞こえて来た気がしました。《黒き猫》も《落葉》病の身でありながらも、これほどの作品を生み出す春草の脅威の集中力に、つくづく感動し、今少し長く生きてくれていたらどんな‥などと思ってしまうのです。
その他も、前期では下村観山《春日の朝》、横山大観《柿紅葉》、後期では大観・観山連作の《富士図》や清方の《花吹雪・落葉時雨》、竹内栖鳳《松竹梅》、木村武山《祇王祇女》、あと小作品でも、なかなかに個性的で面白い、近代日本画を支えたパトロンの一人細川護立の依頼で描かれた、名士たちによる作品が並び、とてもみどころの多い展覧会でした。前後期とも行ったのは平日午前ながら、割合多くの方がみえていました。後期では外国の方も幾組かみえていました。今年は夏が暑すぎて、そして長かったため、また豪雨以外の普通の雨も少なく、各地の紅葉は今一です。それでも管理された庭園の紅葉はまあまあで、永青文庫さんから下る肥後細川庭園は、紅葉と雪吊りも見られて、なかなかでした。美術鑑賞の後のお帰りはぜひ、護国寺方面ではなく、肥後細川庭園に降り、少したくさん歩きますが、江戸川橋か早稲田へ出られると良いと思います。