鑑賞レポート一覧

小林徳三郎

小林徳三郎

東京ステーションギャラリー|東京都

開催期間:

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無名の画家の回顧展、大好物です。

 メインビジュアルの男の子に惹かれて見てみました。初の回顧展らしく、当然徳三郎のことは知らず、予習もせずに見ましたが、終始面白い展覧会だと思いました。会期終盤だったのにそこまで混んでおらず、見やすくて助かりました。でももっと混んでもいいのに。

 個人的に最も好きなのは、やはり40代の家族を描いた作品でしょうか。てっきりこの頃のような絵を生涯描いていたと思っていたのですが、意外と限られた時期でびっくり。他の時期に比べて描き込まれているのは、やはり我が子への慈愛を込めざるを得なかったからかしらと思いました。金魚を見る子どもの絵は、ただ金魚を見ている以上の、退屈そうな、他に見るものが無いから見ているだけのような、でもほんの少し金魚に興味があるような、そんな感情の機微が目に現れていてとっても想像をかき立てられます。実物を見に来てよかった!
 男の子が縁側?廊下?に寝そべっている絵もお気に入りです。幼さを感じる仰向けで、疲れてるのか、夏バテなのか、やっぱり退屈なのか……、未完成であることに気づかないほど見入ってしまいました。このくらいの年頃の男の子って、こういう動きするよな〜と思うような、子どものありのままを表現する姿勢が好きです。萬鉄五郎が親友というのもわかるような気がします。誰が見ても美しいものを描くのではなく、我が子という自分にとって尊いものを描くことが、画壇よりも出版や舞台美術の世界へ導いたのだろうという深読みをしてしまいました。
 この時期の絵は一目見て、絵の中の男の子が画家の子どもだろうとわかります。画家は家族を描くことを気楽でいいと言っていたようですが、親子の信頼関係や、親の暖かい眼差しによって、誰もがまるで我が子を見るかのような慈しみを感じるのだと思います。

 初期の絵では、水彩や木版の水彩画が印象に残っています。モチーフのいびつな写し取り方に、素朴な味が宿っていて惹き込まれました。魚を描いた絵も多かったです。荒めのタッチと暖かみのある色、集中線の組み合わせで、のどかでポップな画面になっています。
 晩年は渓流を描いた絵が多かったですが、それまでよりさらにタッチが荒くなってきていました。これは老化で視力が低下したからでしょうか?筆を自由に走らせる喜びが感じられて、見ていて気分が良かったです。
 それから、中盤の児童向けの絵も素敵でした。シュールな物語に素直にクスッと笑えるのは、徳三郎の柔らかくデフォルメされた絵だからでしょう。原画のような状態から、出版に至るまでの絵の変化が追える展示も、非常に面白かったです。出版が近づくほど、ベタっとした感じになるんですね。

 普段このサイトは見る専なのですが、あまりに面白い展覧会だったので書いてしまいました。1人の画家の人生を追体験できるような回顧展、大好物です。図録によると、調査中に想定外の量の資料が見つかり、徳三郎関連の展示に絞ったとありました。その過程を想像するだけで、とっても面白そうです。こういったハプニングも、学芸員の醍醐味なのでしょう。羨ましい……。
 東京ステーションギャラリーは、よく無名の作家を取り上げてくれますよね。初めてその画家の作品を見て、人生を追体験して、面白いと思ったりつまらないと思ったりするのが、私は本当に大好きなのです。この美術館には、このスタイルの展覧会をぜひ続けていただきたいです。これから図録を読み込むのが、楽しみで仕方がありません。

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  • BY run

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