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死ぬ前に見るべき絵
吉村さんの名を知る人はそう多くないかもしれません。
私も「美の巨人たち」で紹介されるまで全く知りませんでした。
しかし、一度知ってしまえば決して忘れることが出来ない。それが吉村芳生さんです。
1950年生まれ。1978年シェル美術賞展で佳作に選ばれ、銀座で初個展を開いた後、いくつかの賞を受賞していますが、アート界で注目を浴びたのは57歳の2007年。
森美術館の「六本木クロッシング2007」展でした。
ここで一躍現代アート・シーンの寵児となりますが、わずか6年後2013年にお亡くなりになっています。
その作風は緻密にして超リアル。
しかも、緻密さがすごい。7メートルの紙に金網をプレスして、紙に金網の跡をつけます。
跡はひたすらその跡を鉛筆でなぞるだけ・・だったり
白黒の写真を撮り、それを鉄筆で無数の方眼に分けます。そしてその編み目を明度にあわせ0から9の10段階に分け数値化する。その上に紙をかぶせ、数値化した色に合わせ鉛筆で濃淡を付ける。
極めてデジタルな処理を極めてアナログな手法で描く作品だったり。
拡大コピーした新聞をトレースし、文字から写真から全て手書きによる色鉛筆で再現し更に自分の自画像をかぶせる・・・(これを何枚も描いている)。
根気さえ有れば、誰でもかけるようにも思いますが、根気だけは仕上がらないのが彼の作品。
しかも、その根気は誰もが持てる根気の域を超えています。
生涯で描いた自画像の数は2000点以上。おそらく世界トップクラスでしょう。
とにかく、根気と言うより執念に近い。
しかしながら、私をもっとも震撼させたのは自画像やモノクロの画像では無く(いや、それもすごいのだけど・・)色鮮やかな花の絵画。
花は氏の後期の主題となります。色鉛筆という画材の表現力を改めて見直す。そんな作品ばかり。
水彩画のような淡い色合いで無く、油絵のような暗い色調で無く、思わず刮目してします色彩の世界。
幅7メートルのサイズで描かれた藤の絵「無数の輝く生命に捧ぐ」はあと数十年したら国宝に認定して良いのでは無いかと思います。
実に、いい展示会でした。
今後も吉村さんの絵画展を全国で繰り返しやって欲しいな。
とにかく、吉村さんの花の絵は、一生に一度は観ておくべき作品だと断言します。